アメリカ大気海洋局、琉球大学、東北大学、グアム大学の研究者からなる研究チームは、2012年からグアム島のサンゴに記録されていた原水爆実験により生成された炭素14(放射性炭素同位体)の記録の解明に挑み、この度、その結果をアメリカ地球物理学会が出版するJournal of Geophysical Research (Oceans)に発表しました。本論文の研究成果は高く評価され、ハイライト論文に選ばれました。
研究に用いられた試料は、浅海竜司准教授(琉球大学理学部)と井龍康文教授(東北大学大学院理学研究科)らが、西暦2000年4月にグアム島で海中ボーリングによって採取したコア試料です。その後の検討により、コア試料は西暦1787〜2000年に形成されたサンゴ骨格をカバーしていることが分かり、過去200年間の海洋環境変動の解明の研究に用いられてきました。
研究チームは、このコア試料の1950年以降に形成された部分を非常に密な間隔でサンプリングし、サンゴ骨格中の炭素14濃度を測定しました。その結果、太平洋核実験場(マーシャル諸島のビキニ環礁やエニウェットック環礁など)で行われた原水爆実験起源の炭素14の海洋中における濃度変化を、従来よりはるかに高時間分解で描き出すことに成功しました。
皮肉なことに、原水爆起源の炭素14はトレーサーとして優れています。本研究と従来の研究の結果を併せることにより、太平洋における核実験生成物の移動パターンを明らかすることができ、それはアメリカ大気海洋局のウェブサイトからダウンロードして閲覧可能です。
なお、本研究で明らかにされた炭素14の濃度変化は、比較的長生きする海洋生物(クジラや魚類)の年齢の決定にも応用可能です。
本研究は、JSPS科研費(26707028,26550012,25247083)の助成を受けたものです。
<ハイライト論文>
Andrews, A. H., Asami, R., Iryu, Y., Kobayashi, D. R. and Camacho, F. (2016) Bomb-produced radiocarbon in the western tropical Pacific Ocean-Guam coral reveals operation-specific signals from the Pacific Proving Grounds. Journal of Geophysical Research (Oceans), doi: 10.1002/2016JC012043