飛行機から灰色の雲が見える機構を、写真の解析と光伝達のシミュレーションによって明らかにしました。上下の雲は実際には上下方向には実際に重なっておらず、斜めに見た場合に、厚い雲の上に薄くて水平の広がりが小さい雲が重なっているとき、上の雲は灰色に見えるということがわかりました。
飛行機から外を観察していると、写真(図1)のように背景の白い雲の上に灰色の雲が見えることがあります。雲を構成する水滴による可視光(注1)の吸収は弱いため、通常は雲が厚いほど光を反射して輝度(注2)が高くなります。雲粒の中に煤などの光を吸収する物質が大量に含まれていれば、灰色に見える可能性はありますが、これまでそのような報告はなく、灰色の雲は飛行機から水平線付近を観察したときにのみ確認されています。この雲は比較的薄く、下の雲と比べると水平方向の広がりは小さいという特徴があります。仮に水平一様に広がった雲が2層重なっているとすると、下層の雲だけの場合と比べて輝度が高くなることが理論的に示されます。上下の雲が鉛直方向(注3)には重なっていないと仮定して、数値計算によって3次元的な光の伝達を再現すると、観測された灰色の雲を再現することができました(図2)。灰色の雲が見える理由は、図3のように説明されます。上下の雲は実際には上下方向には実際に重なっておらず、斜めに見た場合に重なっていることが重要で、厚い雲の上に薄くて水平の広がりが小さい雲が重なって見えるとき、上の雲は灰色に見えるということがわかりました。特別な吸収物質が含まれていなくても雲の空間的配置だけで理論的に説明できたことで、地球の気候を支配する大気放射の理論が補強されたといえます。日常的に目にする空にも未解明の現象が残っており、よく観察すれば新しい発見があるかもしれません。
Okamura, R., and H. Iwabuchi: Physical interpretation of gray cloud observed from airplanes. Applied Optics, Vol. 55, No. 21, 5761-5765, July 20 2016.
(注1)可視光
人間の目で見える約400~700 nm (1 nmは1 mの10億分の1) の波長の光のことを可視光という。
(注2)輝度
特定方向に進む光の強度を輝度という。
(注3)鉛直方向
真上・真下の方向。
東北大学大学院理学研究科 大気海洋変動観測研究センター
准教授 岩渕 弘信(いわぶち ひろのぶ)
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