東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

【研究成果】微分方程式の解 〜金融から画像処理まで〜

20170407_10.png
画像処理の例(解析学賞受賞特別講演 3月25日)


はじめに


 数学専攻小池茂昭教授が、「完全非線形楕円型・放物型偏微分方程式の Lp 粘性解理論」の業績により、第15回日本数学会 解析学賞を受賞しました。本賞は、解析学及び解析学に関連する分野において著しい業績をあげた方に授与されるものです。この業績について小池教授に解説いただきました。

概要


 微分方程式とは、関数の微分が入った方程式のことです。二次方程式の解が数であったのに対し、微分方程式の解は関数です。微分方程式は、物理現象を中心に様々な現象を表します。様々な現象には、原子・分子のような、それ自体に意志のない「物」の現象と、人間に代表される意思を持った「者」が引き起こす現象があり、対応する微分方程式は一見似ていますが、本質的に異なります。分かり易い例で言うと、お風呂の温度分布が満たす微分方程式と、金融商品の適切な価格を決定するために解く微分方程式は、似ていますが、人の意思が入るおかげでタイプが異なります。

 他にも、画像処理に現れる微分方程式も似ています。ある国で、デモをしていた一般人を警官が暴行した事件がありました。警官は、暴行はなく、もとから傷があったと主張しましたが、ヘリコプターで離れた場所から撮られた映像を画像処理によって鮮明化し、判決が下されたそうです。その際、その映像が正しいことを保証するために数学者が法廷で証言したそうです。

 今は、パソコンを用いて一瞬で金融商品の売買ができるため、少しでも金融商品価格に「穴」があれば、そこをついて巨額の資産を得られます(個人レベルでは難しいですが)。このように、金融商品の価格決定は現実に重要な問題ですが、対応する方程式は株価変動が、あるモデル方程式を満たすという大前提の下で成立します。ですから、モデルが正しくないと、その金融商品の価値が適切かどうかわからないのです。しかし、モデルが正しいと仮定して、数学者が「この価格が適切である」と証明すると、その金融商品の売れ行きが上がることもあったそうです。



研究内容


 微分方程式はたいていの場合、解けません。つまり、具体的な関数で微分方程式の解を表せるのはごく稀です。微分方程式の研究では、適切な意味で解があることを示すのが精一杯です。多くの場合、解の存在を示すことすら困難です。そこで、解の候補を探すことになり、これを弱解と呼びます。一方、扱う現象により解の意味合いが変わります。私の研究は比較的最近研究が始まった、意思を持った「者」の現象を扱います。そのような微分方程式は非発散型と呼ばれるタイプで、よく知られた超関数解(注1)が使えません。そこで、非発散型の場合を扱うため、粘性解(注2)という弱解の概念が80年代初頭に導入されました。

 私の研究は、そのような粘性解の基本的性質に関するものです。今回の解析学賞は、「ABP最大値原理」や、その応用に関するものです。

 高校で習う最大値原理は、「最大値をとる点では、その関数の二階微分は非正である」というものです。逆に、「二階微分が非負な関数の値は、境界(考えている領域の端の点)で最も大きくなる」とも言えます。これの「非負」の部分を正か負かわからない一般の関数にしたらどうなるか?という問いに答えるのが最大値原理となります。さらに、最大値という、点での情報を積分量で与えるというのがABP最大値原理の特徴で、積分量と相性の良い超関数解の理論との接点になります。今後は、様々な応用が期待できる、両者の融合的研究をしてみようと考えています。



発表雑誌


解析学賞は、一連の研究に与えられるので、最も大事と思われる論文を挙げておきます。
S. Koike and A. Swiech, Maximum principle for fully nonlinear equations via the iterated comparison function method, Mathematische Annalen, 339巻2号(2007年), 461-484.
S. Koike and A. Swiech, Weak Harnack inequality for fully nonlinear uniformly elliptic PDE with unbounded ingredients, Journal of Mathematical Society of Japan, 61巻3号(2009年), 723-755. (Outstanding Paper Prize受賞)



用語説明


(注1) 超関数解
部分積分を通して得られる、偏微分方程式の弱解の一種。発散型方程式に対して扱い易い。


(注2) 粘性解
最大値原理を通して得られる、偏微分方程式の弱解の一種。非発散型(退化)楕円型方程式に適切である。



お問い合わせ先


東北大学大学院数学研究科
教授 小池 茂昭 (こいけ しげあき)
TEL:022-795-5773
E-mail:koike[at]m.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください




お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る