東北大学 大学院理学研究科・理学部

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隕石中から太陽系最古の新鉱物を発見 初期太陽系進化過程の物理化学条件に新たな制約

概要


 東北大学大学院理学研究科地学専攻の吉崎昂(博士課程前期1年)、中村智樹教授、武藤潤准教授らは、カリフォルニア工科大学 (California Institute of Technology) のChi Ma博士と共同で、隕石試料中に存在する太陽系最古の物質から新種の鉱物を発見しました。この鉱物は、隕石の研究で著名なカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (University of California、Los Angeles) のAlan E. Rubin博士にちなんでRubinite(ルービナイト)と命名され、国際鉱物学連合(International Mineralogical Association) により新鉱物と認定されました(図1)。本成果により、太陽系誕生直後の固体物質の物質進化過程に新たな制約がもたらされることが期待されます。
 今回発見された新鉱物は、2017年4月に出版されるイギリスの学術雑誌Mineralogical MagazineのNew Mineralsリストに掲載されました。

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図1 Allende隕石中のルービナイト(薄灰色)の電子顕微鏡写真。メリライト(濃灰色)、ペロブスカイト(白色)はいずれも難揮発性包有物中に普遍的に含まれる鉱物である。


□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


 太陽系は約46億年前に誕生し、それから数千万年の間に宇宙の塵が集積して小さな天体を形成し、それらが衝突合体を繰り返して原始惑星ができ、現在の姿へと進化したと考えられています(図2)。太陽系誕生直後に原始太陽近傍の高温の星雲ガスから凝縮した1 mm~1cm程度の固体物質は、揮発性の乏しいCaやAl、 Ti等の元素に富むため難揮発性包有物と呼ばれ、太陽系の進化過程で溶融・分化を経験しなかった小惑星から飛来したコンドライト(注1)という隕石に含まれています。難揮発性包有物は、太陽系最古の固体物質として太陽系誕生直後の情報を記録するとされ、太陽系の形成進化過程を理解するうえで重要な研究対象とされてきました。

 近年の分析技術の進歩により試料中の微小領域(10µm以下)の分析が可能になった結果、難揮発性包有物の微細組織分析により初期太陽系に関する新たな物質科学的情報が得られるようになりました。東北大学大学院理学研究科の吉崎昂大学院生らの研究グループは、始原的なコンドライト隕石の一種であるAllende隕石の走査型電子顕微鏡観察を行い、Ca、Ti、Si、O等の元素から成る微小な鉱物を発見しました(図2)。化学組成や結晶構造の詳細な分析の結果、この鉱物はCa3Ti3+2Si3O12という化学式を持つザクロ石の新種であることが明らかとなりました。同じ化学式を持つ物質は既に人工的に合成されていましたが、天然鉱物として発見されたのは今回が初めてです。同様の鉱物は、カリフォルニア工科大 (California Institute of Technology) のChi Ma博士によって別のコンドライト隕石(Vigarano隕石)からも同時期に発見されました。

 両者は2016年12月にこの鉱物を共同で国際鉱物学連合(International Mineralogical Association) の新鉱物命名分類委員会 (Commission on New Minerals、 Nomenclature and Classification) に新鉱物として申請を行い、2017年3月に承認されました(注2)。この新鉱物は、隕石の研究で著名なカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (University of California、Los Angeles) のAlan E. Rubin博士(注3)にちなんでRubinite(ルービナイト)と命名され、2017年4月に出版されるイギリスの学術雑誌Mineralogical MagazineのNew Mineralsリストに掲載されます。

 ルービナイトは、地球に比べ遥かに還元的な環境下でしか安定に存在しないTi3+を非常に多く含みます。これは、難揮発性包有物が凝縮した原始太陽系星雲内の環境が、非常に還元的であったことを強く示唆します。

 難揮発性包有物に含まれる鉱物種の殆どは、現在広く受け入れられている原始太陽系星雲内の温度や圧力、化学組成等といった物理化学的条件下で安定に存在することが、熱力学的平衡モデル計算により示されています。しかし、今回発見された新鉱物であるルービナイトをはじめとするザクロ石はこのような条件下では安定に存在しないとされています。一方で、ルービナイトの産状や、ScやZr、Y等といった難揮発性元素の含有量は、Allende隕石中とVigarano隕石中で大きく異なっていました。このことは、ルービナイトが原始太陽系星雲中で形成した際の温度や圧力、ガスの化学組成等の物理化学的条件が多様であったことを示唆します。今後、ルービナイトの詳細な鉱物学的、岩石学的、同位体宇宙化学的分析等を行い、熱力学的計算結果等も組み合わせてこの鉱物がどのような条件下で形成したのかについて考察することで、原始太陽系星雲中の物理化学条件に新たな制約が与えられていくことが期待されます。


参考図


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図2 太陽系の進化過程の模式図。



用語解説


注1:コンドライト隕石
主にケイ酸塩鉱物からなる石質隕石のうち、コンドリュールという球粒を含む隕石。分化や溶融を経験していない小惑星から飛来したとされ、太陽系の起源や初期進化過程に関する情報を記録していると考えられている。特に1969年にメキシコに落下し2tを超える大量の試料が回収されたAllende隕石は、揮発性元素に富み、また難揮発性包有物を多量に含む、それまで希少であった炭素質コンドライトという隕石の一種であったため、その分析結果は惑星科学の発展に大きく寄与してきた。

注2:新鉱物承認過程
天然の試料中から新種の鉱物を発見した場合、その化学組成や結晶特性、産状等をまとめて国際鉱物学連合の命名・分類委員会に申請する。この委員会の厳しい審査を通過することで、新鉱物として承認される。

注3:Alan. E. Rubin博士
カリフォルニア大学ロサンゼルス校に所属する研究者。専門は宇宙化学。コンドライト隕石の鉱物学、岩石学、同位体宇宙化学等に基づき、初期太陽系における塵の物質進化過程や、小惑星における衝撃加熱過程、水質変成過程の解明に多大な貢献をしている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
吉崎 昂(よしざき たかし)
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
TEL:022-795-6674(内線 5722、6651)
E-mail:tacasy22[at]dc.tohoku.ac.jp(吉崎)


<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、6708

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