東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【研究成果】大統一理論の新しい枠組み 〜微細電荷を持った暗黒物質の予言〜

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暗黒物質の存在証拠の一つである弾丸銀河団。赤色の部分が高温ガス、青色の部分が暗黒物質の分布を表す。
(X-ray: NASA/CXC/CfA/M.Markevitch et al.; Optical: NASA/STScI; Magellan/U.Arizona/D.Clowe et al.; Lensing Map: NASA/STScI; ESO WFI; Magellan/U.Arizona/D.Clowe et al.)



概要


 東北大学の横崎統三助教と高橋史宜准教授、大学院生の大道竜次(博士課程後期2年)は標準理論のU(1)Yゲージボソン(注1)と隠れたU(1)ゲージボソンが大きな運動項の混合(χ)を持つときに、標準理論の三つの力(注2)が、高いエネルギースケールで統一すること(力の大統一(図1))を高次の量子補正を含めて示しました。力の大統一は、中間エネルギースケールの物理や隠れたU(1)ゲージ対称性の相互作用の大きさに関わらず成り立つことがわかりました。また、微細な電荷をもつ暗黒物質の存在が予言され、将来の暗黒物質検出実験で検出が期待されることを明らかにしました。

 本研究は、文部科学省の新学術領域研究「宇宙の揺らぎと構造の進化、その背後にある物理の究明」(研究代表者:高橋史宜)、新学術領域研究「なぜ宇宙は加速するのか? − 徹底的究明と将来への挑戦 −」(研究代表者:村山斉)、基盤研究(A)(研究代表者:小玉英雄)、基盤研究(B)(研究代表者:柳田勉)の支援を受けて行われたもので、Physics Letters Bに2017年5月10日(doi:10.1016/j.physletb.2017.01.085)に発表されました。



研究の背景


 素粒子論の世界には、標準理論という非常に完成度の高い理論があります。実際に、標準理論の正しさは多くの実験によって高い精度で確認されています。一方で暗黒物質の正体、力の大統一、強いCP問題(注3)など多くの重要な未解決問題が残されており、標準理論を超える新しい物理の必要性は明白です。力の大統一とは、標準理論の三つの力が高いエネルギースケールで一致することを言い、標準理論よりもより根源的な理論、大統一理論が高いエネルギースケールに存在することを意味します。大統一理論の存在は、1970年代にHoward GeorgiとSheldon Lee Glashowによって提唱されました。ところが、実際に標準理論で計算してみると、標準理論の三つの力が一致することはありません。

 近年、標準理論の拡張として、隠れたU(1)ゲージボソンが標準理論のU(1)Yゲージボソンと運動項の混合を持つときに、力の大統一が起こることが示唆されていました(図2)。しかし、中間エネルギースケールに物質場が存在するときに力の大統一が起こるかは分かっていませんでした。また、高次の量子補正も計算に含まれていませんでした。



研究内容


 今回の論文では、中間エネルギースケールに物質場が存在するときにも、その数によらず力の大統一が起こることが示されました。また、力の大統一は隠れたU(1)ゲージ対称性の結合定数の大きさによらず実現することが示されました。この力の大統一が起こる様子は、高次の量子補正を含めて計算されました。このときに、中間エネルギースケールに存在する物質場は安定になり、暗黒物質になることがわかりました。この暗黒物質は微細な電荷を持ち、将来の検出実験において検出が期待されています。



今後の展開


 今回の研究では、中間エネルギースケールに物質場が存在しても力の大統一が起こることを示しました(図3)。このような場合、力の大統一を保ったまま中間エネルギースケールにPeccei-Quinn対称性を導入することができ、強いCP問題の解決が期待されます。力の大統一が起こるためには、隠れたU(1)ゲージ対称性とU(1)Yの運動項の混合が比較的大きくある必要があります。今後は、この運動項の混合の起源を解明していくとともに、微細電荷を持った暗黒物質が宇宙の進化にどう影響するかを明らかにしていく必要があります。



発表雑誌


<著者> R. Daido, F. Takahashi and N. Yokozaki,
<タイトル> Gauge Coupling Unification with Hidden Photon, and Minicharged Dark Matter
<掲載誌> Physics Letters B768, 30 (2017)
<DOI> 10.1016/j.physletb.2017.01.085



参考図


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図1. 力の大統一の様子。破線は標準理論での計算結果。



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図2. 運動項の混合を表すファインマン図。



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図3. 中間エネルギースケールに物質場がある場合の力の大統一。
黒実線、青破線、赤点線は順に物質場の数を増やしていった様子。



用語説明


(注1) ゲージボソン
物理系が物質場の位相の局所的な変換に対して不変なときに出現する粒子。力を伝える粒子である。


(注2) 標準理論の三つの力
標準理論では三つのゲージ対称性、SU(3)C、SU(2)L、U(1)Yに対応して三つの力とそれを伝えるゲージボソンが存在する。


(注3) 強いCP問題
量子色力学におけるCP対称性の破れは、中性子の電気双極子の観測から非常に小さいことがわかっている。しかし、標準理論の枠内ではこのCP対称性の破れの小ささを説明することが出来ない。



お問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科
物理学専攻素粒子・宇宙理論研究室
助教 横崎 統三(よこざき のりみ)
TEL:022-795-6433
E-mail:yokozaki[at]truth.phys.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください




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