東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【研究成果】NASA Juno探査機を支える「すばる」中間赤外線観測 〜初の木星大気3次元情報の作成へ〜

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図. 国立天文台Subaru 8m望遠鏡 COMICS中間赤外線観測器で得られた木星8.8um赤外線画像 (May 18, 2017) [Credit: NASA/JPL, 国立天文台]。Juno探査機が「第6回最接近観測」を行う直前の木星大気、特に対流圏〜成層圏の温度場とアンモニア雲層厚の情報を提供し、Junoが観測する大気深部(雲層下〜100気圧:マイクロ波)と熱圏・オーロラ(高度数百km以上、紫外線・近赤外)をつなぐ。


内容


 東北大学は、2016年7月から周回軌道に入り活動中のアメリカの木星探査機 Junoとの共同観測をNASA/ジェット推進研究所[JPL]のGlenn Orton博士らと行なって来ました。この中で、国立天文台 Subaru 8m望遠鏡の COMICS(冷却中間赤外線分光撮像器)を使って行われてきた観測成果がNASA/JPLと国立天文台のWebページで速報として公表されましたので、紹介いたします。

[NASA Link: https://www.nasa.gov/feature/jpl/earth-based-views-of-jupiter-to-enhance-juno-flyby]
[NASA/JPL Link: https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=6889]
[国立天文台Subaru観測所 Link: https://www.subarutelescope.org/Topics/2017/06/30/index.html]

 Subaru-COMICSとJuno探査機との同時協調観測は、2017年1月11-15日と5月16-19日に行われ、日本側からは笠羽 康正 教授(地球物理学専攻: 1/11-12・5/18-19の観測責任者)、北 元 研究員(地球物理学専攻)、佐藤 隆雄 研究員(JAXA。本学で2012/3博士取得)がハワイ・マウナケア山頂での観測に参加しました。2011年に打ち上げられたJuno探査機は、軽量化・低コスト化のため対流圏〜成層圏域の温度・組成・運動情報を握る中間赤外域の観測手段の搭載を断念し、「地上観測で補完する」という戦略を取っています。雲層以下の深部を初めて探査するマイクロ波電波、高高度の熱圏・オーロラ発光域を見る紫外線・近赤外線の観測装置を搭載していますが、この間をつなぐ手段が「地球からの中間赤外線地上観測」です。Subaru望遠鏡が擁するCOMICSは、近年ではほぼ世界唯一の中間赤外域の広帯域分光が可能な装置で、この手段として大変貴重です。日本はJuno探査機計画に直接参加しておりませんでしたが、幸いにもSubaru COMICSによって貴重な貢献をなすことができました。

 特に5月の観測は、Juno探査機の「第6回最接近観測」をカバーする貴重な機会となり、Juno探査機が北から南へと通過したその直下域を含む領域の雲層〜成層圏大気の温度場・雲層厚およびその運動・時間変化を与えることができました。写真では、有名な大赤斑とそれを包み込む激しい大気擾乱が見られますが、Juno探査機による初の深部情報(100気圧域にまで達する)との結合でこうした擾乱領域での初の「3次元大気情報」を得ることが可能となります。好天に恵まれたこの観測では、Subaruは8mの大口径を生かし約1,000-kmの空間分解能を得ていますが、これは Juno探査機による最接近時のマイクロ波観測での空間分解能に匹敵するものです。

 木星は、電離したイオ噴出ガスが駆動する太陽系で最も激しいオーロラ発光をその南北両極に擁します。1月・5月のCOMICS観測では、この発光高度(〜500 km以上)よりも低い高度でメタン発光が見られることも明らかにしました。これは、オーロラを光らせる高エネルギー粒子が大気へ深く侵入し、木星大気を温め、またCH系有機物を生成する化学反応を引き起こしうることを示しています。「高エネルギー粒子の衝突」は、かってメタン等も存在したであろう原始地球大気でも起きた現象で、惑星での大気化学反応プロセスを考える上で貴重な情報です。

 東北大学では、中核を担う JAXA「ひさき」紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星や東北大学望遠鏡施設(ハレアカラ:光赤外、蔵王・飯館:電波観測)では、木星の強烈な放射線帯活動、イオ火山活動、これらと結合する木星オーロラ・磁気圏活動を長期連続観測しており、これらとJuno探査機最接近データとの結合解析を進行させつつあります。これらの成果は、搭載装置提供によって参加予定の欧州木星探査機JUICEによる低周波電波(RPWI)、サブミリ波電波(SWI)による観測にも活かされていく予定です。


関係Link


▶ 地球物理学専攻・惑星大気物理学分野
▶ 惑星プラズマ・大気研究センター 観測所群
▶ NASA Juno木星探査機
▶ 国立天文台Subaru望遠鏡


お問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科地球物理専攻
教授 笠羽 康正(かさば やすまさ)
TEL:022-795-6734
E-mail:kasaba[at]pat.gp.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください




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