三次元骨格を有するHofmann型(注1)MOF(注2)の合成に成功した。本MOFは、加熱により多孔性を維持したままオープンメタルサイト(OMS) (注3)を露出することが可能であり、高密度かつ規則的に配列したOMSを用いて高活性な触媒としての応用が期待される。
金属イオンと有機配位子からなる金属有機構造体(MOFs: Metal-Organic Frameworks)(図1)は、結晶内部に空間を有する結晶性固体であり、ガス吸蔵、分離、触媒などへの応用が期待されることから近年盛んに研究がおこなわれています。特に、触媒に関しては、オープンメタルサイト(OMS: Open Metal Sites)と呼ばれる配位不飽和(注4)なサイトが反応活性点として働くことが知られており、高密度にOMSを多孔性結晶中に導入することで高活性な触媒を実現することが可能です。そのような高密度触媒を実現する上で、我々はHofmann型錯体というMOFに着目しました。この錯体は[M1(CN)4]2- (M1 = Ni, PdまたはPt)がM2 (M2 = Fe, Co, Ni, Cuなど)に配位した二次元シート構造をとります(図2)。ここで、M1およびM2の上下方向(図2の矢印)がOMSとなりますが、合成した直後のMOFは、合成時に使用した水分子がM2に配位しています。この水分子は真空加熱により取り除くことができ、OMSを露出すること(この操作を活性化とよぶ)ができますが、溶媒分子を取り除くと層間がつぶれてしまい、多孔性が失われてしまうという問題がありました。そのため、M2サイトのOMSに配位可能なピラー(柱)配位子を導入することで、層間がつぶれるのを防ぐ手法がとられていましたが、この方法では、やはりピラー配位子がM2サイトに配位するため、M2サイトのOMSがブロックされてしまうという問題がありました。私たちの研究室では、 [Pt2+(CN)4]2-を臭素によりいったん[Pt4+(CN)4Br2]2-に酸化したのち、Co2+やNi2+と反応することで、図3に示したような三次元骨格ができることを偶然発見しました。合成直後のMOFではPtイオンのOMSにはBr-が、Ni2+あるいはCo2+イオンのOMSには水が配位していますが、アキシャルサイトの水分子は多くの場合100~150度くらいに加熱すると脱離することが可能です。そこで、熱重量測定(TG)測定によりサンプルを加熱ながらサンプルの重量減少を測定したところ、約40%という極めて大きい重量減少が観測されました。このような大きな重量減少は、M2サイトに配位した水のみならず、M1(Pt)サイトのBr-も脱離したと仮定しなければ説明することができません。実際に、元素分析を行った結果、Br-が脱離していることが確認されました。通常、加熱のみでイオンが脱離することありませんが、本錯体の場合には、2つのBr-がPt4+に電子を受け渡すことでPt2+に還元するのとともにBr2ガスとして結晶から脱離していることが明らかとなりました(このような過程を還元的脱離と呼びます)。このMOFは三次元骨格を有することから、ピラー配位子を用いることなく、多孔性を維持したまま活性化を行うことができ、M1( = Pt)サイトとM2( = NiあるいはCo)サイトのOMSを結晶中で高密度に露出することに成功しました。今後は、同OMSを利用した触媒反応の開発を行っていく予定です。
なお、本研究成果は、本学金属材料研究所の宮坂等教授、高坂亘助教との共同研究によるものです。
Chem. Commun, 2017, 53, 6512-6515.
(注1) Hofmann型錯体
[M1(CN)4]2-などのテトラシアニド金属錯イオンが、遷移金属イオン(M2)に配位結合することで作られる高分子錯体(M2M1(CN)4)の総称。1903年にK. A. Hofmannによって初めて合成された二次元シート構造を有する錯体([Ni(NH3)2Ni(CN)4])にちなみ、同錯体の類似体をHofmann型錯体とよぶ。
(注2) 金属有機構造体(MOF)
配位結合によって連結された内部空孔を有する結晶性固体。
(注3) オープンメタルサイト(OMS)
配位不飽和 (注4) なサイトには、溶媒や反応基質が金属イオンに配位することが可能である。このようは配位結合可能なサイトをオープンメタルサイトと呼ぶ。通常は、配位している溶媒分子を加熱などで脱離することでオープンメタルサイトを作ることができる。
(注4) 配位不飽和
通常、遷移金属イオンは6個の配位結合を作ることで八面体型構造をとるが、配位結合の数がそれに満たない状態のことを配位不飽和と呼ぶ。
東北大学大学院理学研究科化学専攻
准教授 高石 慎也(たかいし しんや)
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