東北大学 大学院理学研究科・理学部

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リチウムイオン内包フラーレン合成収率向上に道−計算機シミュレーションで予測し、実験的に確認−

 横浜国立大学の大野かおる教授は、東北大学(權垠相准教授ら)、筑波大学(山田洋一講師)とイデア・インターナショナル(株)(笠間泰彦代表ら)と共同で、NEDOの計算機支援の新炭素材料開発課題の一貫として、リチウムイオン内包フラーレン合成の最大収率を計算機シミュレーションで予測し、プラズマシャワー法による実験で検証しました。これにより、合成収率の大幅な向上に道が開かれ、有機太陽電池などへの産業応用に向けての研究が加速されることが期待されます。本研究成果は、国際学術雑誌Nanoscaleに2018年1月8日20時(日本時間)にオンライン掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



研究成果


 炭素原子60個からなるサッカーボール型のC60フラーレン分子にリチウムイオンを打ち込み、リチウムイオン内包フラーレンを合成する最大収率を計算機シミュレーションで予測し、実験的に検証した。最大収率は、電圧30 Vでリチウムイオンを加速する場合4%であり、10 Vの場合に銅(100)表面に吸着することなどにより、収率をさらに向上できる可能性を示した。これにより、リチウムイオン内包フラーレン合成収率の大幅な向上に道が開かれた。本研究は、NEDOと同時に、東北大学学際研究重点プログラムと同大の未来科学技術共同研究センター産業連携促進研究プロジェクト「原子内包フラーレン ナノバイオトロニクスの創成」(美齊津文典教授)との連携による成果でもある。



計算・実験手法


 世界唯一の独自の第一原理計算技術「全電子混合基底法(注1)」を用いたスーパーコンピュータによる計算機シミュレーションを様々な衝突速度、角度、位置に対して繰り返すことにより、収率を理論予想した。また、プラズマシャワー法(注2)でリチウムイオンを照射し、リチウム7の固体核磁気共鳴(注3)により、リチウムイオン内包フラーレンの収率を実験的に検証した。これにより、現状の合成収率と異なり、大幅な向上が可能であることが明らかになった。



社会的な背景


 リチウムイオン内包フラーレンは2010年に合成が開始されてから、高効率有機太陽電池材料に期待される他、高いイオン電導性を示し、ディールス・アルダー反応を起こしやすいため、修飾基をつけてドラッグ・デリバリに使用することなどが期待されている重要な新物質であるが、産業応用の加速のためには、その合成収率の向上が課題となってきた。



今後の展開


 本研究により合成収率の向上が可能であることが明らかになったことで、今後リチウムイオン内包フラーレンを用いた研究が加速され、産業応用への道が開かれると期待される。



掲載論文


題目: Extensive First-Principles Molecular Dynamics Study on the Li Encapsulation into C60 and Its Experimental Confirmation
著者: Kaoru Ohno, Aaditya Manjanath, Yoshiyuki Kawazoe, Rikizo Hatakeyama, Fuminori Misaizu, Eunsang Kwon, Hiroshi Fukumura, Haruhiko Ogasawara, Yoichi Yamada, Chunyang Zhang, Naoya Sumi, Tomoo Kamigaki, Kazuhiko Kawachi, Kuniyoshi Yokoo, Shoichi Ono, and Yasuhiko Kasama
雑誌: Nanoscale
DOI : 10.1039/C7NR07237F



用語解説


(注1)全電子混合基底法
東北大学と横浜国立大学で共同開発されてきた、平面波と原子軌道関数の両方を用いて展開するユニークな全電子計算手法である。原子に働く力を精密に計算できるとともに、原子・分子から結晶までの全電子スペクトルを精密に扱うことができる、我が国が世界に誇ることが出来る、世界唯一の第一原理計算技術である。これに対して、現在普及している第一原理計算手法の多くは欧米で開発されたものが中心であり、平面波で展開する方法やガウス関数や原子軌道関数で展開する方法など様々あるが、原子・分子から結晶までの全電子スペクトルを統一的に扱うことができるのは「全電子混合基底法」プログラム TOMBO のみである。


(注2)プラズマシャワー法
S.L.Andersonらは半導体など無機材料でのドーピングに用いられるイオン注入法を、初めてフラーレンに適用し、昇華されたC60と加速されたアルカリ金属イオンの気相で衝突させ内包を企てた(1992年)。その後E.CampbellらはC60の単分子堆積膜に加速されたアルカリ金属イオンの打ち込みを繰り返す事によって一定量のアルカリ金属内包フラーレンを得る事ができると報告した(1996年)。しかしいずれも内包化されたという決定的な証拠をつかむに至らなかった。2010年、㈱イデアルスターの笠間泰彦(現イデア・インターナショナル㈱)らは、東北大学の畠山力三らの基礎研究を基に、発生したアルカリ金属プラズマをそのまま一様磁場中で輸送する事により、大量のアルカリ金属イオンをフラーレン堆積膜の直近まで熱エネルギーで輸送し、連続的にC60フラーレンが堆積されている基板に負バイアスを印加し、精密にエネルギー制御された高密度のイオン束を照射するという方法で、従来の数万倍上回る大量のアルカリ金属内包化C60フラーレンを合成する事に成功し、飛田博実(東北大学)、青柳忍、澤博、篠原久典ら(名古屋大学)の協力を得、SP-ring8によるX-線回折によって初めてLi+@C60の実在を証明する事ができた。プラズマ状態で輸送した大量のイオンをC60フラーレンにシャワーの如く照射させることからプラズマシャワー法と名付けられた。


(注3)固体核磁気共鳴
核磁気共鳴 (NMR) 分光法の一種で、固体材料の化学構造解析に用いる。固体では核間の相互作用が平均化されないため、高速マジック角度回転(MAS)や高出カデカップリングなどの工夫により、高分解能NMR信号が得られる。東北大学はプロトン核の共鳴周波数が800 MHz(磁場強度:18.8テスラ)の超伝導磁石を備えたNMR装置を有する。特に本装置には世界に先駆けて世界最高速クラスの80 kHzでMASを実現する外径1 mm試料管の固体NMRシステムを導入しており、 超高感度で極微量サンプルの測定が可能である。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学 大学院理学研究科巨大分子解析研究センター
准教授 權 垠相 (クォン ウンサン)
電話:022-795-6752
E-mail:ekwon[at]m.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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