東北大学 大学院理学研究科・理学部

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月の地下に大量の氷が埋蔵されている可能性 月隕石から氷の痕跡である「モガナイト」を発見、月で利用可能な水資源に期待!

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図1:月の水は、太陽光で熱せられた表面では蒸発してモガナイトを作り、地下には氷として残る(illustrated by M. Sasaoka (SASAMI-GEO-SCIENCE))

発表のポイント

● 月隕石から水が蒸発することで生成される「モガナイト」と呼ばれる鉱物を初めて発見

● モガナイトの生成には水が不可欠であるため、地球にしか存在しないと考えられていた

● 太陽光が当たる表面では月の水はすぐに蒸発、低温である月の地下には氷として現存

● 氷の埋蔵量は岩石1 m3あたり18.8リットル、月で人類が利用できる水資源として期待



概要

東北大学学際科学フロンティア研究所・理学研究科の鹿山雅裕助教と共同研究チーム(JAMSTEC、神戸大、京都大、広島大、JASRIなど)は、月隕石から「モガナイト」と呼ばれる、生成に水が不可欠な鉱物を発見し、これが月の地下に眠る氷の痕跡であることを突き止めました。

水が関与してできるモガナイトは、地球には広く産するものの、地球以外の天体では存在しないというのが定説でした。しかし、本研究で13種類の月隕石を対象に分析を行ったところ、NWA 2727と呼ばれる月隕石からモガナイトを発見しました。

本研究の成果から、モガナイトの成因となる月の水は、水を豊富に含む天体が月のプロセラルム盆地(ウサギにみえる影模様)に衝突することで供給されたことが分かりました(図1)。

また、月の水は太陽光で熱せられた表面では蒸発してモガナイトを作りますが、低温である地下数mでは氷として残ると考えられ、その氷の埋蔵量は岩石1 m3あたり少なくとも18.8リットルにも達することから、月の地下に大量の氷が眠っている可能性が示されました。これは人類が月に居住する上で欠かすことのできない貴重な水資源(飲料水や水素燃料)であり、現在検討中の月探査計画でその詳細を明らかにすることが望まれます。

本研究の成果は、日本時間の平成30年5月3日(木)午前4時に米国科学誌「Science Advances」にオンライン公開されました。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


アポロ計画以来、月は水に乏しい天体であると考えられていました。しかし、昨今の月周回衛星※1(例えば、エルクロスなど)による成果から、月極域(北極と南極)付近に大量の水が観測されました。水の量は最大で5.6-22 wt%と予想されており、最近では水がどこに集まっているのか、その起源は何かなどを突き止めるために、日本を含む各国で月への無人着陸探査計画※2が検討されています。月の水はこのような科学目的だけに留まらず、将来の有人探査や人類が月で居住する上で欠かせない貴重な資源(飲料水や酸素、食料プラント、火星などへの惑星間航行に必要な水素燃料など)であり、資源利用の観点からも大変重要なテーマです。

一方で月周回衛星による観測では、月の表面から深さ1 m程度までの情報しか得ることができず、月の地下1 m以深に水があるかどうかについてはほとんど手がかりが得られていませんでした。シミュレーションの研究から、月の水は温度の低い地下数mの領域に溜まりやすい性質を持つと予想されていますが、どれほどの量の水が、どの地域に埋蔵しているのか、そもそも実在しているのかなど、その実像は謎に包まれていました。

そこで私たちは、巨大天体の衝突で宇宙空間に放出された後に地球にやってきた月の岩石である月隕石に注目し、13種類の月隕石に対してラマン分光計、大型放射光施設SPring-8※3のBL10XUの放射光X線回折装置及び電子顕微鏡を使った微小部分析※4を行いました。その結果、NWA 2727と呼ばれる月隕石(図2)から「モガナイト」と呼ばれる水が関与してできる鉱物を発見しました(図3)。これは地球外物質では初めての報告例です。

モガナイトは石英と同じ二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする鉱物で(一方で結晶構造は異なる)、過去の合成実験により高い圧力条件(>100 MPa)でアルカリ性のケイ酸水溶液(H4SiO4)から沈殿してできることが判明しています。その沈殿反応(SiO2 (s) + 2H2O ↔ H4SiO4 (aq))には水が不可欠であることから、水に豊かな地球では堆積岩に広く分布していることが地質調査により明らかとなっています。しかし地球以外の天体に関しては、水に乏しいことからモガナイトは決して存在しないと考えられていました。今回の研究で月隕石からモガナイトが発見されたことにより、月でも同様の水の活動(水と岩石との反応や水からの沈殿)が生じていたことが明らかとなりました。

本研究で得られた成果を地球のモガナイトに関するデータと比較したところ、月のモガナイトはpH 9.5-10.5かつ90-126 ℃のケイ酸水溶液から数カ月間から数年間かけて沈殿したことが分かりました。つまり、その沈殿過程には月の外からもたらされたアルカリ性の水が不可欠であり、さらにその水が月の比較的温度が高い場所で蒸発する必要があります。このような事実をもとに、ここでは月への水の供給プロセスとモガナイトの沈殿に関する以下のようなモデルを提案しました(図4)。
(0) プロセラルム盆地で月隕石の母体となる岩体がマグマから固化(約30億年前)
(ⅰ) アルカリ性の水に富む炭素質コンドライト※5がプロセラルム盆地に衝突(27億年前以降)
(ⅱ) 衝突で形成したクレーターの内部に月の地殻や炭素質コンドライトの破片が集積、その表面から底部では水が捕縛
(ⅲ) 捕縛された水は太陽光で熱せられた表面(最大117-126 ℃)では蒸発してモガナイトを沈殿、地下数m以深やクレーターの影などの低温環境では氷として残存(1億3000万年前?)
(ⅳ) 巨大天体の衝突でクレーターを構成する岩石の一部が宇宙へ放出(100-3000万年前まで)
(ⅴ) 宇宙を漂った後に地球の北西アフリカにある砂漠に月隕石として落下(1万7000年前)

ケイ酸水溶液からモガナイトを沈殿させるためには水が不可欠であることから、その水の量を化学平衡計算により算出しました。ケイ酸水溶液がpH 9.5-10.5かつ90-126 ℃の条件でモガナイトの沈殿に必要な水の量は少なくとも0.6 wt%にも達し、岩石1 m3あたりに換算すると18.8リットル以上となります。

月の表面では太陽光の熱による水の蒸発でモガナイトが作られますが、温度が非常に低い地下やクレーターの影では氷となります。シミュレーションの結果から、月の氷は、太陽光が当たらない地下では数十億年以上も残り続けることが判明しているため、モガナイトが沈殿した当時だけでなく、現在もなおプロセラルム盆地の地下に大量の氷が眠っていることになります。これほど大量の水氷が月で報告された例は、月の極域以外では初となります。



参考図


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図2:月隕石NWA2727の写真


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図3:(A)電子顕微鏡写真、暗い灰色の部分がSiO2からなる鉱物、(B)ラマン分光計によるイメージング、赤色の部分が特にモガナイトが濃集(青が少なく、赤に近いほど多い)


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図4:月への水の供給とモガナイトの沈殿の概念図。⓪ 約30億年前に月のプロセラルム盆地で月隕石の母体となる深成岩体(GabbroとMare Basalt)がマグマから固化、① 27億年前以降にプロセラルム盆地にアルカリ性の水を豊富に含む炭素質コンドライト(Carbonaceous chondrite)が衝突、② 衝突で形成したクレーターの内部が、放出された月の地殻の一部や炭素質コンドライトの破片で埋まり、その後の角礫化作用によってクレーターの表面から底部にかけて水が捕縛、③ 太陽光が当たる表面では水が蒸発してモガナイトを沈殿、低温の地下や影では水が氷となり(1億3000万年前?)、その埋蔵量は0.6 wt%、④ 100-3000万年前までに巨大天体の衝突でクレーターの一部の岩石が宇宙に放出、⑤ 宇宙を漂って1万7000年前に地球の北西アフリカの砂漠に月隕石として落下(illustrated by M. Sasaoka (SASAMI-GEO-SCIENCE))



今後の展望


月の水や氷は、科学目的だけに留まらず、人類が月面で活動するために欠かせない貴重な水資源でもあります。そのため、水資源の獲得と現地での資源利用を目的とした月の無人・有人探査が各国で計画されており、その機運が近年急速に高まっています。日本も将来的にこのミッションに参画することを現在検討しています。しかし、月の水や氷に関する科学データはまだまだ少なく、特に今回のような月の岩石を対象とした水の探索に関する報告例は未だ乏しいのが現状です。

従って、今後の展望として、未調査の月隕石やアポロ・ルナ計画で回収された月の試料に対して微小部分析を行い、そこから水や氷の痕跡を探る研究を予定しています。これにより、月の水や氷に関するさらなる事実の解明が期待され、現在検討されている月の探査計画の推進に繋がる科学データを取得することが可能となります。



用語解説


※1 月周回衛星
月の観測を目的に打ち上げた無人探査機。各種カメラや分析装置が搭載されており、月を周回しながらデータを取得することで全球的に月の地質や重力、水に関する情報を得ることができる。日本の月周回衛星としては探査計画のため2007年に打ち上げられた「かぐや」がある。2009年に打ち上げられたエルクロス(LCROSS)では、月の南極に位置するカベウス・クレーターに部品の一部を衝突させて、舞い上がった月の土壌を分光カメラで分析したところ、最大で5.6 wt%にも及ぶ氷が存在することを明らかにした。

※2 日本を含む各国で検討中の月への無人着陸探査計画
これまでの月周回衛星による観測から、月極域(北極と南極)に大量の水が濃集している可能性が示されている。そのため、日本を含む様々な国で月の水を対象に科学目的と資源利用の観点から、月探査機の打ち上げと無人ローバーや着陸機による無人着陸探査計画が検討されている。

※3 大型放射光施設SPring-8
SPring-8の施設名はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設であり、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。

※4 微小部分析
マイクロメートルからナノメートルのスケールで物質の化学組成や結晶構造を決定することのできる手法。本研究では、レーザー光の散乱を利用したラマン分光計、放射光施設であるSPring-8で発生させた電磁波を用いた放射光X線回折装置、フィラメントから放出した電子をレンズで絞ったビームによる電子顕微鏡を使った。

※5 炭素質コンドライト
太陽系創生時や太陽系形成前の情報を保持している隕石グループの総称であり、水や炭素、有機物などの揮発性成分を豊富に含んでいる。なお、探査機はやぶさ2が着陸を予定している小惑星リュウグウも、炭素質コンドライトと類似した物質とされている。



論文情報


Masahiro Kayama, Naotaka Tomioka, Eiji Ohtani, Yusuke Seto, Hiroshi Nagaoka, Jens Götze, Akira Miyake, Shin Ozawa, Toshimori Sekine, Masaaki Miyahara, Kazushige Tomeoka, Megumi Matsumoto, Naoki Shoda, Naohisa Hirao, Takamichi Kobayashi, Discovery of moganite in a lunar meteorite as a trace of H2O ice in the Moon's regolith. Science Advances, (2018)



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所
東北大学大学院理学研究科地学専攻 
助教 鹿山 雅裕(かやま まさひろ)
電話:022-795-6687

E-mail:masahiro.kayama.a3[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所
特任准教授URA 鈴木 一行(すずき かずゆき)
電話:022-795-4353

E-mail:suzukik[at]fris.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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