● 上と下の両プレート内の不均質構造が地震発生をコントロールした。
● 震源断層の上も下も周りに比べてより固い岩盤でできており、上と下の固い岩盤同士のぶつかりあいで大地震が発生した。
● 巨大地震発生メカニズムの重要な手がかりになる可能性がある。
東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授とLiu Xin博士(現:中国海洋大学准教授)は、2011年東北地方太平洋沖地震の震源域におけるプレート構造を調査し、この大地震の発生は、震源域上のオホーツクプレートとその下の太平洋プレートといった両方のプレート内部にある不均質構造にコントロールされたことを明らかにしました。また、震源断層の上も下も周りに比べてより固い岩盤ででき、それらがぶつかりあうことで大地震が起こりました。この研究結果は、謎が多いプレート境界域の巨大地震の発生メカニズムを明らかにするための重要な手がかりになると考えられます。
この研究成果は、2018年6月20日13時(日本時間)に米科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
雑誌名: Science Advances
論文タイトル:Upper and lower plate controls on the great 2011 Tohoku-oki earthquake
著者: Xin Liu, Dapeng Zhao
DOI番号:10.1126/sciadv.aat4396
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード (Mw) 9.0)は、日本の観測史上最大規模の地震でした(図1)。 本震の地震動とそれに伴う津波、およびその後の余震は東北から関東にかけての東日本一帯に甚大な被害をもたらしました。これまで世界の多くの研究者が、この地震の発生メカニズムについて研究してきましたが、まだ不明な点が多くあります。その中の大きな問題の一つは、震源断層の上にあるオホーツクプレート(または北米プレート)とその下に沈み込んでいる太平洋プレートのどちらが、この地震の発生をコントロールしたのか、という点です。多くの日本の研究者は、沈み込んでいる太平洋プレートの上面付近の不均質構造、例えば、沈み込んだ海山や堆積層の厚さの違いなどが、この地震の発生と震源断層面上の滑りの分布をコントロールしたと考えました。それに対して、欧米の一部の研究者はオホーツクプレート内の岩石組成の空間的変化が東北地方太平洋沖大地震をコントロールしたという研究結果を発表しました。
この問題を解決するために、趙大鵬教授の研究グループは、地下構造を画像化する「地震波トモグラフィー法」(注1)を、日本列島に設置された高密度かつ高精度の地震観測網(図1(A))で記録された大量の地震波伝播時間データ(図1(B))に適用することで、東北地方太平洋沖大地震の震源域周辺の3次元P波速度構造(注2)を詳細に求めました(図2(C,D)と図3)。また、東北沖の海底地形データと重力異常データ(注3)も解析し(図2(A,B))、得られたP波速度構造と合わせ震源域の微細構造を検証しました。これまでにも東北沖に地震波トモグラフィー法を適用した研究は幾つかありましたが、今回の研究ではトモグラフィーの分解能を高めました。また、海底地形、重力と地震波の三種類のデータを同時に用いて大地震震源域の3次元構造を推定するのは本研究が初めてです。
その結果、以下のことが明らかとなりました。
① 東北地方太平洋沖地震の震源断層面上に、顕著な不均質構造が存在します(図2参照)。東北地方太平洋沖地震は宮城県沖にある高速度域で起りました(図2(C)の青色の部分)。また、これまでの100年間(1917年--2017年)に発生した大地震(マグニチュードが7以上)のほとんどは断層面上の高速度域の中、あるいはその周りに位置しています(図2(C))。
② 東北地方太平洋沖地震の震源の上にも下にもP波速度が周りに比べて速くなっています(図3(B)にある☆の部分)。その上の高速度体はオホーツクプレート内にある固い花崗岩体ですが、その下の高速度体は沈み込んだ太平洋プレート上の海山や海底地形の高い場所だと思われます。東北地方太平洋沖地震は、このような両プレートの固い部分のぶつかりあいで生じたことが推測されます。
本研究で明らかとなったプレートの不均質構造と震源の位置関係(図2と図3)は、謎の多いプレート境界型の巨大地震の発生機構を解明していくための重要な手がかりと考えられます。また、地下の微細構造の解明によって、大地震の震源の特定が期待できます。
図1. (A)本研究で用いた地震観測点(■)の分布図。赤色のビーチボールは2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)の断層面解(注4)。ピンク色のビーチボールは1917年から2017年までに起こった地震(Mが7以上)の断層面解。黄色破線は沈み込んでいる太平洋プレート上面の等深線。白線は震源断層面の下限。黒線は日本海溝。(B)日本列島とその周辺域にあるプレートの配置。青色の枠線は本研究領域。▲は活火山、★は2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)の震央。(C)本研究の解析で用いた微小地震の分布図。(D)と(E)は、それぞれ(C)の東西断面と南北断面。青色+印は観測網の下で起った地震、〇は地震反射波データで正確に再決定した海底地震の位置、〇は海底地震計で決定した地震の位置。三つの黒線は図3にある東西断面の位置。
図2. (A)海底地形異常と(B)重力異常の分布図(Bassett et al. 2016から変更)。 (C)沈み込んでいる太平洋プレートの上面に沿う震源断層面上のP波速度分布。 (D)震源断層の上にあるオホーツクプレート内の平均P波速度分布。黒色の破線は沈み込んでいる太平洋プレート上面の等深線である。紫色の線はオホーツクプレート内の岩石組成の境界線を示す。
図3. 左側は図1(C)の三つの黒線に沿うP波速度トモグラフィーの東西断面図。 右側はそれらに対応する模式図。赤色と青色はそれぞれ低速度と高速度、そのスケールは断面(A)の右。白い実線は沈み込んでいる太平洋プレートの上面に沿う震源断層面。白い破線はオホーツクプレート内のモホ面(地殻とマントルの境界面)。断面(B)にある★は2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)の震源。★は1917-2017年の期間に起こった地震(Mが7以上)。★は超低周波地震。各断面の上にある青色と緑色の線はそれぞれ海底地形と重力の異常を表す。
(注1)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。地震波トモグラフィーは、現在地球内部構造の3次元画像を得る最も有力な手段となっています。
(注2)3次元P波速度構造
地震波速度とは地震波が地球の中を伝わる速さのことです。地震波には、性質の違うP波とS波があります。地震波速度は場所によって異なり、だいたい地中深くなるほど速くなります。地球内部構造を表すには幾つかの物理量(例えば、密度、温度など)を使うことができますが、現在は地球内部における地震波速度の空間分布が最もよく用いられています。また、地震波トモグラフィー法を使って、地球内部におけるP波(あるいはS波)速度の3次元分布を推定でき、得られた結果は3次元P波(あるいはS波)速度構造と言います。地震波速度の分布から、地球内部の密度、温度、強度などに関する情報も得られるため、P波(あるいはS波)速度の空間分布を使って、地球内部構造を表します。
(注3)重力異常データ
重力異常とは、重力の実測値(あるいは観測値)と、理論モデルから予測される値との差のことです。重力異常をデータとして解析することにより、地下の密度の空間分布に関する情報が得られます。
(注4)断層面解
ある断層の破壊で地震を起こした際における、地下での断層の位置や方向、地震の際の断層の動きのことです。発震機構解あるいは地震メカニズム解とも呼ばれています。しばしばビーチボールのようなマークで表されます。
本研究はJSPS科研費(基盤研究(S) 課題番号23224012)および文科省科研費(課題番号26106005)の支援を受けて行われました。
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙大鵬(ちょうたいほう)
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください