東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

天の川銀河は50億年前に再生し、太陽も生まれた! ~2段階の星形成過程を理論的に解明~

発表のポイント

● 天の川銀河の星が異なるメカニズムによって2段階に分けて形成されたことがわかった。

● 定説では、天の川銀河は100億年以上の間ずっと同じように星を作ってきたと考えられていた。

● 天の川銀河になぜ元素組成の異なる2種類の星が存在するのか解明された。

● 隣のアンドロメダ銀河など他の銀河も同様に2段階に分けて形成された証拠があり、銀河の形成に関する考え方が大きく変わると期待される。



概要

東北大学大学院理学研究科の野口正史准教授は、「冷たい降着流」と呼ばれるガスの流入に着目して天の川銀河の進化をコンピュータで計算し、天の川銀河での星形成が2段階に分けて起こったことを明らかにしました。天の川銀河には元素組成の異なる2種類の星が存在しますが、その理由は不明でした。野口准教授の研究は、この謎をはじめて理論的に解明したものとして注目されます。

「冷たい降着流」とは、宇宙空間のガスが低温のまま銀河に流れ込む現象です。

それに対して、一度高温になったガスが冷えるにつれ流入する過程は「冷却流」と呼ばれます。野口准教授によると、天の川銀河では最初に「冷たい降着流」によって星が作られ始めましたが、今から約70億年前に星形成は終了しました。これは衝撃波が発生してガスが高温になり流入が止まったためです。その後「冷却流」が発生し、約50億年前から第二段目の星形成が始まりました。太陽もこの時期に誕生しました。

天の川銀河には、元素組成の異なる2種類の星が存在しますが、その起源は不明でした。野口准教授の計算は、酸素やマグネシウムに富む星は「冷たい降着流」による第一段階の星形成で、鉄に富む星は「冷却流」による第二段階の星形成で誕生したことを明らかにしました。

隣のアンドロメダ銀河など他の渦巻銀河もこのように2段階に分けて形成された形跡があり、今後の研究によって銀河進化の考え方が大きく書き換えられると期待されます。

本研究の成果は、2018年7月26日号の英科学誌「Nature」(オンライン版 日本時間7月26日午前2時)に公開されました。

□ 東北大学ウェブサイト



論文情報


雑誌名: Nature
論文タイトル:The formation of solar neighbourhood stars in two generations separated by 5 billion years
著者: Masafumi Noguchi
DOI番号:10.1038/s41586-018-0329-2
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-018-0329-2



詳細な説明


東北大学大学院理学研究科の野口正史准教授は、最新の銀河形成理論に基づいて天の川銀河の進化を計算し、天の川銀河における星形成が異なるメカニズムによって2段階にわたって起きたことを明らかにしました。これまで謎であった星の元素組成の起源も説明ができ、天の川銀河の形成に関する新しい考え方を提供するものとして期待されます。

星を形成する材料となるのは、銀河の外側の宇宙空間に存在する始原ガスと呼ばれる水素を主成分とする低温のガスです。天の川銀河のような渦巻銀河ではこれが扁平な銀河円盤に流れ込み、そこで星が誕生すると考えられています。

これまでの考え方では、銀河に落ち込んでいく始原ガスはまず衝撃波によって加熱され高温になります。その後ガスはエネルギーを放出して低温になり、銀河円盤に流れ込むというイメージでした。しかし最近、別の研究者の数値シミュレーションにより、宇宙初期には衝撃波が発生せず、始原ガスは冷たいまま銀河円盤に流れ込むという可能性が指摘されています。この現象は「冷たい降着流」と呼ばれています。それに対して、一度衝撃波加熱されたガスが冷えるにつれ銀河円盤に流れ込む過程は「冷却流」と呼ばれます。

野口准教授は、「冷たい降着流」を理論モデルに組み込み、100億年にわたる天の川銀河の進化を詳しく計算しました。それによると、まず「冷たい降着流」によって約100億年前から第一段階の星形成が始まり、30億年程続きます。その後、衝撃波が発生しガスが高温になるため、ガスの供給が止まり、20億年ほど星形成は中断します。その後高温ガスからエネルギーが失われるにつれ「冷却流」による第二段階の星形成が始まり、これが現在も続いていると考えられます(図1)。太陽も第二段階にできた星です。「冷たい降着流」に続く星形成の中断は他の研究者によって予想されていましたが、実際に天の川銀河でそのような2段階の星形成が起こることが確認されたのは初めてです。

私たちはもちろん天の川銀河の進化を直接観測するわけにはいきません。しかし、過去の進化の痕跡となる「化石」があります。星の元素組成です。銀河に取り込まれる始原ガスは水素と少量のヘリウムから成り、それ以外の重元素と呼ばれる元素はほとんど存在しません。ところが星が誕生するとその一部が超新星爆発を起こし、星の内部で作られた様々な重元素を周囲に放出します。このため星間ガス(注1)はそれらの元素を含むようになります。星が誕生するとき、星間ガスの重元素はそのまま取り込まれます。つまり、星の元素組成はその星が生まれた時の星間ガスの組成を記憶しているのです。

重元素の主な供給源はII型超新星とIa型超新星です。これらは星間ガスに異なる効果を及ぼします。前者は主にα元素と呼ばれる酸素、マグネシウム、シリコン、カルシウムなどを、後者は鉄を放出します。また前者が母体の星が誕生した直後(約1千万年後)に爆発するのに対して、後者はこれよりずっと遅れて10億年程度経って爆発すると考えられています。したがって、星形成が早く進む場合、II型超新星爆発は星形成に並行して起こりますが、Ia型超新星は間に合わず、その結果α元素に富んだ星が作られます。それに対し、星形成がゆっくり進むと、その間にIa型超新星によって星間ガス中の鉄の濃度が高まり、鉄に富んだ星が作られます。つまり、星に含まれるα元素と鉄の量を比較することにより、星形成がどのように進んだかを推定できるわけです。

20180724_10.png

図1:野口准教授による天の川銀河の進化の想像図。最初に「冷たい降着流」によってα元素の豊富な星が形成された。続く星形成停止期にIa型超新星の爆発によってガス中の鉄の濃度が増えた。その後の「冷却流」によって鉄を豊富に含む星が作られた。下図のカラーマップはモデルで計算された太陽近傍における星の頻度分布を示す(Credit: M. Noguchi, Nature, July 26th 2018 issue)。等高線はAPOGEE(注2)による太陽近傍の星の実際の分布を示す(Credit: M. Haywood et al. A&A, 589, 66 (2016), reproduced with permission © ESO)。

図1は太陽に近い星の元素組成の分布を示したものです。これを見ると、元素組成の異なる2つのグループが存在することが分かります。これは太陽付近の星形成が2つの段階に分けて進行したことを物語っていますが、なぜそのようなことが起こったかは謎でした。野口准教授が行った「冷たい降着流」を考慮したモデル計算は観測データをよく再現でき、2つのグループの起源を明らかにしています。「冷たい降着流」によって最初にできた星はα元素を鉄に比べて多く含みます。その後しばらく星が形成されない時期が続きますが、その間にIa型超新星爆発が活発になり星間ガスの鉄含有量が増加します。したがって、その後「冷却流」によって生まれた第2段階の星は鉄に富んだ組成となりα元素は鉄に比べて相対的に減少します。ガスの流れが「冷たい降着流」から「冷却流」に切り替わる時期に星形成が休止することが星の元素組成にギャップを作る原因です。

20180724_20.png

図2:天の川銀河の異なる場所における星の元素組成分布。中心からの距離Rによって天の川の円盤を3つの領域に分けた。太陽は中心から約8kpcの距離にある。カラーマップは野口准教授のモデルを示す(Credit: M. Noguchi, Nature, July 26th 2018 issue)。等高線はAPOGEEによる内側と太陽付近における星の頻度分布を示す(Credit: M. Haywood et al. A&A, 589, 66 (2016), reproduced with permission © ESO)。中心に近いほど、α元素の豊富な星の割合が増える様子がモデルでも再現されている。

最近、APOGEE(注2)など新鋭の観測装置が相次いで稼働し始め、天の川銀河の広い領域で星の詳しい元素組成が分かるようになってきました。図2は太陽付近とそれより内側、および外側の3つの場所での元素組成分布を示したものです。これを見ると、太陽付近だけでなく、天の川銀河の広い範囲で、星の形成が2段階に分けて起こったことが分かります。場所によって星形成の歴史が少しずつ違うため、元素分布も変化しますが、野口准教授の計算はそれも再現しています。

これまで「冷たい降着流」説は、遠方の明るい銀河や、楕円銀河(注3)の色などを説明するために使われてきました。その同じ考え方が、私たちの天の川銀河の個々の星の観測データによって検証されたことは、この仮説が有望なものであることを物語っています。

興味深いことに隣のアンドロメダ銀河の星も天の川銀河のように2段階に分けて形成された形跡があります。野口准教授の「冷たい降着流」モデルによれば、質量の大きな渦巻銀河が2段階の星形成を経験するのに対し、質量の小さい銀河では終始「冷たい降着流」による星形成しか起こらず、星の元素組成は連続的な分布になると予測されます。私たちの近隣には、大小さまざまな渦巻銀河が存在します。今後これらの銀河の詳しい観測が進み、銀河形成についての考え方が大きく書き換えられていくことが期待されます。



用語解説


(注1)星間ガス
天の川銀河のような渦巻銀河は平べったい円盤部を持つ。太陽も円盤部に位置し、私たちから見ると円盤部の星が天の川となって見える。円盤部に分布しているガスを星間ガスと呼ぶ。星間ガスは星を作る材料である。

(注2)APOGEE (Apache Point Observatory Galactic Evolution Experiment)
ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台にある2.5メートル・スローン財団望遠鏡に取り付けられた分光観測装置。星の光を波長ごとに分けて観測し、星の大気に含まれている元素の量を測定することができる。

(注3)楕円銀河
多数の星が楕円状に集まっている銀河。渦巻銀河と違い、星間ガスをほとんど含まない。年齢の古い星で構成されているため、全体的に赤い色をしている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
准教授 野口 正史(のぐち まさふみ)
電話:022-795-6507
E-mail:noguchi[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る