東北大学 大学院理学研究科・理学部

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九州を南北に分裂させる地溝帯の構造を解明 -2016年熊本地震の発生とも関連-

発表のポイント

● 「別府-島原地溝帯」周辺の地下構造を、初めて高分解能で解明した。

● この地溝帯は、活火山下の熱いマントル上昇流、沖縄トラフ、及び中央構造線の影響が複合して形成されたと考えられる。

● 2016年熊本地震の発生には、この地溝帯の不均質構造と震源直下の水の挙動が影響した。



概要


東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授、修士学生の山下慧氏(現:気象庁)と豊国源知助教の共同研究グループは、2016年熊本地震の震源域をターゲットとして、九州全域の詳細な3次元地下構造を調査しました。結果として、この地震の震源直下には水の存在が示唆され、地震発生に水の挙動が深く関わっていることが推察されました。また九州を北東-南西に縦断する「別府-島原地溝帯」に沿った地殻と上部マントルの構造を調べたところ、熱いマントル上昇流が主に活火山の下に存在していることが判明しました。この事実は別府-島原地溝帯が、沖縄トラフの北への延長、中央構造線の西への延長、及び活火山下の熱いマントル上昇流、といった三つの要因の組み合わせで形成されたことを示唆します。
この研究成果は、2018年10月19日18時(日本時間)に英科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



論文情報


雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル:Tomography of the 2016 Kumamoto earthquake area and the Beppu-Shimabara graben
著者: Dapeng Zhao, Kei Yamashita, Genti Toyokuni
DOI番号: 10.1038/s41598-018-33805-0
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-33805-0



詳細な説明


2016年4月16日に発生した熊本地震(マグニチュード (M) 7.3)(図1)は、熊本県・大分県を中心に甚大な被害をもたらしました。九州地方は、北東-南西方向に縦走する「別府-島原地溝帯」と呼ばれる顕著な地殻の裂け目によって特徴づけられます。別府-島原地溝帯の存在は、九州全体が南北に引っ張られ、北側と南側が分裂を始めていることを示唆しています。ところが九州は東南側からフィリピン海プレートが沈み込んでおり(図2)、南西側には「沖縄トラフ」、東側には「中央構造線」と呼ばれる地質学的境界も存在する複雑な場所に位置しているため、別府-島原地溝帯の成因はよくわかっていませんでした。地殻が裂けている地溝帯では地震活動が活発で、2016年熊本地震も、まさにこの地溝帯の中で発生しました。九州の被害地震の発生要因を理解するうえでも、地殻変動場を理解するうえでも、別府-島原地溝帯を中心とした九州地方下の地下構造を、高分解能で調べる必要があります。

今回、趙大鵬教授の研究グループは、地下構造を画像化する「地震波トモグラフィー法」(注1)を、九州全域と周辺の島に設置された高密度かつ高精度の地震観測網(図1(A))で記録された大量の地震波伝播時間データ(図1(B))に適用することで、別府-島原地溝帯を中心とした九州下の3次元P波速度構造とS波速度構造(注2)を詳細に求めました(図3と図4)。さらに、地下のマグマや水の存在に敏感な、「ポアソン比」(注3)と呼ばれる物理量の分布も調べました。これまでにも九州に地震波トモグラフィー法を適用した研究はありましたが、2016年熊本地震の震源域と別府-島原地溝帯に特化して、高分解能な画像を得たのは本研究が初めてです。

結果として、以下のことが明らかとなりました。
① 別府-島原地溝帯に直交する構造断面(図3)には、活火山(鶴見岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳)下の地殻・上部マントルに顕著な低地震波速度・高ポアソン比が見出されました。これはフィリピン海プレートの沈み込みと脱水によって形成される、水を含む熱いマントル物質の上昇流と考えられます。
② しかし、別府-島原地溝帯に沿った構造断面(図4のA-A'断面)を見ると、低地震波速度・高ポアソン比の異常体は地溝帯全域下に存在するのではなく、主に活火山下の地殻と上部マントルに存在しています。このことから、熱いマントル物質の上昇流は、別府-島原地溝帯の形成の主因ではないと判明しました。沖縄トラフの北への延長、中央構造線の西への延長、及び活火山下の熱いマントル上昇流、といった三つの要因の組み合わせで、別府-島原地溝帯が形成されたと思われます。
③ 2016年熊本地震の震源は、上部地殻にある高地震波速度・低ポアソン比の固い岩盤に位置しています。一方、その直下には水の存在を示唆する低地震波速度・高ポアソン比が明瞭にイメージングされました(図4)。この事実は、熊本地震の発生に、別府-島原地溝帯内の不均質構造と水の挙動が深く関わっていたことを示唆しています。

本研究で得られた九州下の地殻・上部マントルの精細なイメージにより、これまで謎であった九州が南北に裂けるメカニズムと、2016年熊本地震の発生要因が明らかにされました。この結果は、九州における今後の被害地震発生のメカニズムを理解するうえでも極めて有用と考えられます。



参考図


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図1. (a)本研究で用いた地震観測点()の分布図。は活火山、は2016年熊本地震(M 7.3)の震央。茶色の線は活断層。(b)本研究の解析で用いた小地震の震源分布図。(c)は(b)の震源を東西断面に全て投影したもの。

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図2.日本列島とその周辺域にあるプレートの配置。青色の枠線は本研究領域。

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図3. 九州を北西-南東方向に切る5つの測線に沿った地震波トモグラフィーの断面図。測線の位置は右下の地図上に示した。(左上)P波速度トモグラフィー。(右上) S波速度トモグラフィー。(左下)ポアソン比。赤色は低速度と高ポアソン比、青色は高速度と低ポアソン比を示す。色のスケールは地図の右。断面図上のは活火山、は2016年熊本地震(M 7.3)の震源。トモグラフィーとポアソン比の図にある紫色の丸は水の挙動に関連が深い低周波微小地震、同じく灰色の丸はその他の微小地震。右下の地図で紫色の点線は別府-島原地溝帯の範囲、は活火山、は2016年熊本地震(M 7.3)の震央。

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図4. 2016年熊本地震(M 7.3)の震源()を通り、九州を四つの方向に切る測線に沿った地震波トモグラフィーの断面図。図の配置と見方は図2と同じ。B-B'断面のは火山フロント(V.F.)(注4)



用語説明


(注1)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。地震波トモグラフィーは、現在地球内部構造の3次元画像を得る最も有力な手段となっています。

(注2)3次元地震波速度構造
地震波速度とは地震波が地球の中を伝わる速さのことです。地震波には、性質の違うP波とS波があります。地震波速度は場所によって異なり、だいたい地中深くなるほど速くなります。地球内部構造を表すには他の物理量(例えば、密度、温度など)も使うことができますが、現在は地球内部における地震波速度の空間分布が最もよく用いられています。また、地震波トモグラフィー法を使って、地球内部におけるP波やS波速度の3次元分布を推定でき、得られた結果は3次元P波(あるいはS波)速度構造と言います。地震波速度の分布から、地球内部の密度、温度、流体などに関する情報も得ることができます。

(注3)ポアソン比
ポアソン比は地球の岩石の弾性的な性質を表す物理量で、(注2)で述べたP波速度とS波速度から計算で求めることができます。地殻とマントルに水やマグマが存在する場所では、ポアソン比が高くなります。

(注4)火山フロント(V.F.)
日本のようなプレート沈み込み帯では、海のプレートによって持ち込まれる水の働きなどによって、上部マントルの一部が融けて上昇していき、マグマが形成されます。マグマは一旦マグマだまりに蓄えられるなどして地表に噴出し、火山となります。火山は、沈み込んだプレートの深さが約100kmに達したところの地表に、海溝軸にほぼ平行に分布することとなります。この帯状の火山分布の、海溝側の境界を結ぶ線を火山フロントと言います。

本研究は文科省科研費(課題番号26106005)の支援を受けて行われました。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙大鵬(ちょうたいほう)
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院 理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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