東北大学 大学院理学研究科・理学部

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Mahalo すばる、Gracias アルマ 〜すばるで見つけ、アルマで分解する、銀河・銀河団の形成現場〜

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図1. すばる望遠鏡の広視野カメラSuprime-Camで取得した遠方銀河団の例。オレンジ色の銀河はほとんど銀河団に属していて、左上から右下にかけて繋がる構造が見られる(Kodama et al. 2005, PASJ, 57, 309)。

概要


宇宙では今からおよそ100億年前に銀河の形成最盛期を迎えました。従って、銀河の誕生と成長を理解するには、この時代の銀河の観測が決定的に重要です。われわれはすばる望遠鏡の一度に広い天域を観測できるユニークな性能によって得られる銀河大規模構造を網羅する大量の銀河サンプル(マクロ的アプローチ)と、アルマ望遠鏡で得られる、光では見えないガスや星間物質の情報や、その高い空間分解能で解剖される形成途上銀河の内部構造(ミクロ的アプローチ)とを併せて、銀河形成・進化を実証的に解き明かそうとしています。



研究内容


日本が誇るハワイ山頂にある口径8.2mのすばる望遠鏡は、世界の同クラスの望遠鏡と比べて一度に写真を撮ることができる天域の広さ(視野と呼ぶ)が世界一という大きな特長があります。これまでもSuprime-Camという満月一個分の相当する視野を持つ可視光カメラが活躍していましたが、数年前にHyper Suprime-Cam (HSC)という後継装置が完成し、さらに7倍の視野を持つことになりました。近赤外線領域でもMOIRCSという視野の広い装置がついています。これらの圧倒的な優位性を生かして、我々チームは様々な透過フィルターを駆使した撮像観測によって、大規模な遠方銀河・銀河団の探査プロジェクトを実施してきています(図1)。

Mahalo-Subaru(マハロすばる)プロジェクト(Mahaloはすばる望遠鏡があるハワイの言葉で「ありがとう」の意味)では、Suprime-CamとMOIRCSに多数の狭帯域フィルターを作成して搭載し、遠方宇宙の星形成銀河から放射されるスペクトル輝線が、赤方偏移してフィルターに入ってくるのを捕える観測を系統的に行なっています。フィルターと輝線の組み合わせごとにそれに対応する宇宙の時代を切り取り、そこでの星形成銀河を隈なく探査することができます。その結果、銀河が集団化した銀河団やその周りに広がる大規模構造が浮き彫りになり、その中で銀河が周辺環境から影響を受けながら進化する実態が明らかになってきました。今日の銀河団は星形成活動を既にやめた古い楕円銀河が満ちています。しかし過去の遠方宇宙に遡ると銀河団中心部でも銀河の星形成活動が活発になってきます。逆に言えば、宇宙の初期には銀河団の中心部で銀河が爆発的に生まれるのですが、時間とともに中心の銀河から外側の銀河へと順に星形成活動を止めていく様子がこのような観測から明らかになっています(図2)。現在は、銀河形成の質量依存性も理解するために、より低質量・低星形成率の銀河を検出するため、より深いデータの取得を進めています(Mahalo Deepサーベイ)。また、現在HSCの膨大なサーベイデータを使って、遠方銀河団を大量に発見し、上と同様に狭帯域フィルターを用いた輝線銀河探査も行なっており、遠方銀河団とその周りに広がる大規模構造に沿って、どのように星形成活動が空間的に進行してきたかを描き出しています。このような研究をマクロ的アプローチと呼んでいます。次に、このようにして大規模に探査した遠方銀河や銀河団について、今度は個々の銀河を細かく見て、内部構造も含めた特性を詳しく調べる研究を並行して行なっています。上記の研究と対比的にミクロ的アプローチと呼んでいます。すばる望遠鏡にも補償光学(AO)と呼ばれる天体像の大気揺らぎをリアルタイムで補正する装置が付いており、それを使うと従来は点としてしか観測できなかった小さな遠方銀河を、面(二次元)として観測することができます。銀河内部で起こっている物理過程を空間分解して調べることができるため、銀河形成解剖学とも呼べる画期的な進展をもたらします。銀河内部の輝線分布(星形成領域の分布)を、これまでに作られた星の総量の分布(星質量分布)と比較することにより、銀河形成の最盛期に中心部で星形成バースト(注1)を行なって、丸いバルジ成分(注2)を作っている現場を目撃したり、その後星形成活動が中心部から終息しより外側へと空間的に広がっていく様子を捕らえたりしています。同様の銀河形成解剖学をアルマ望遠鏡を使ってガス分布の観点から行うことができます。そこで我々はMahalo-Subaruで選出した遠方銀河団と一般フィールドの星形成銀河(輝線銀河)に対して、アルマの高い解像度で分子ガスおよびダスト連続光を観測し、銀河の中でどのようにガスが分布し、そこからどのように星が作られているのか、またその環境依存性はどうなっているかを明らかにしようとしています。このプロジェクトをGracias-ALMA(グラシアス・アルマ)と名付けて推進しています(Graciasはアルマ望遠鏡があるチリの公用語であるスペイン語で「ありがとう」の意味で、Mahalo-Subaruと対をなす)。

図3(左)にアルマで見た形成途上銀河の画像をハッブル宇宙望遠鏡(HST)の画像と比較します。H160とあるのが1.6μmで見たHSTの画像で、星全体の分布をトレースします。それに対して870μmとあるのがアルマで見たダスト(星間ガス)の分布です。後者の方がずっとコンパクトで中心に集中していることがわかります。つまりこれらの銀河形成最盛期の銀河の多くは中心部にガスが豊富にあり、上述の結果とも合わせるとそこで星形成が激しく行なわれていて、丸いバルジ成分が作られつつあることを示唆しています。ではこのような銀河中心部の豊富なガスはどこからやって来たのでしょうか?近年のAOを用いた近赤外線での電離ガス輝線の分光観測や、アルマでのガスの運動の観測などによって、これらの銀河の多くが通常の回転運動をしていることが示されています。そうすると、銀河同士の相互作用によってガスが中心部分へ落ち込むというこれまでよく考えられてきたシナリオよりは、最近活発に議論されるようになった、豊富なガスの降着によって重くなったガス円盤が重力的な不安定性を起こして分裂し、できたガスの塊が力学的な摩擦(注3)によって角運動量を失って中心部分へと落ち込んでいくというシナリオが注目されています(図3右)。我々の研究チームでは、さらに銀河サンプルを銀河団領域へと拡張し、このような銀河内部で起こる物理過程が、銀河団環境ではどう違っているのかを調べ、銀河の形成時期にどのような環境効果がどのように作用したのかを暴き、現在の宇宙に見られる銀河の性質(形態や星形成活動性)の強い環境依存性が最初にどのように発現したのかを明らかにしようとしています。

以上のように、我々は宇宙において銀河の形成が最も活発な時代を跨ぎ、マクロ的なアプローチ(統計学)とミクロ的なアプローチ(解剖学)を組み合わせることによって、銀河の形成過程を実証的に明らかにしようという研究を推進しています。



発表雑誌


Tadaki, K., et al., 2017, ApJ, 834, 135
Tadaki, K., et al., 2018, ApJ, 841, L25
Hayashi, M., et al., 2017, ApJ, 841, L21
Hayashi, M., et al., 2018, ApJ, 856, 118
Shimakawa, R., et al,, 2018, MNRAS, 473, 1977
Shimakawa, R., et al., 2018, MNRAS, 481, 5630



参考図


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図2. Mahalo-Subaruプロジェクトが捕らえた、銀河団銀河の進化の様子を表す模式図。銀河団の中心部が最初に加速的に形成され、その後徐々に星形成活動とその終息の過程が銀河団の外側へと移行していく(クレジット:小山佑世氏)。

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図3. (左)ハッブル宇宙望遠鏡(HST)とアルマ望遠鏡で撮られた、遠方の形成途上銀河の高解像画像を比較したもの。I814 とH160がそれぞれHSTの静止系紫外線と静止系可視光の画像で、おおまかに星形成活動と星質量の分布にそれぞれ対応している。一方870μmとあるのがアルマで見たダスト(星間ガス)の分布。後者が前者よりずっとコンパクトであることがわかる(Tadaki et al., ApJ, 834, 135)。(右)左図の結果から描いた形成途上銀河の想像図。ガスが豊富な円盤の中で重力不安定性によって作られた青いガスの塊が、銀河の中心部に落ち込み、そこで星形成バーストを起こしバルジという丸い成分が作られる様子を表している(クレジット:但木謙一氏)。



用語説明


(注1) 星形成バースト
銀河における爆発的な星形成活動。遠方宇宙では我々の銀河系の星生成率の100倍を超えるような値を持つ活発な銀河も多く見つかる。

(注2) バルジ成分
円盤銀河の中心部にある丸い構造。比較的古い星から構成される。楕円銀河は銀河全体がバルジ成分である銀河とも考えられる。

(注3) 力学的な摩擦
大きな質量の塊が小さな質量の星の集団の中を運動している時、進行方向と逆向きに受ける力のこと。回転運動の場合これによって角運動量が減衰し、塊は中心に落ち込む。



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科
天文学専攻
教授 児玉 忠恭(こだま ただゆき)
電話:022-795-6503
E-mail:kodama[at]astr.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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