東北大学 大学院理学研究科・理学部

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最期を迎えた超巨大ブラックホールの発見 〜死を迎えても輝きを失わないブラックホール〜

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図1. ブラックホールに降り積もるガス(降着円盤)およびジェットのイメージ図(※NASA/JPL より


概要


銀河の中心にほぼ普遍的に存在する超巨大ブラックホール(supermassive black holes; SMBHs、以下SMBH)(注1)は、その質量が太陽の100万倍から100億倍にも及び、その膨大な質量の獲得の起源は未だ謎に包まれています。その起源を解く鍵となるのが活動銀河核と呼ばれる天体です。活動銀河核は銀河の中心核で明るく輝く天体ですが、その明るさの起源はBHに物が落ちて(=BHが成長して)その重力エネルギーを開放することで非常に明るく輝いていると思われており、長らく天文学の重要天体として観測がなされてきました。にもかかわらず、この活動銀河核が一体どのようにして活動をはじめ、そして活動をやめるのかというメカニズムはいまだ謎に包まれているだけでなく、活動銀河核そのものさえ、観測的には今まで見つかっていませんでした。

我々は、別のサイエンス目的で観測していたArp 187という天体に着目し、活動銀河核が作り出す周りの環境を様々な物理スケールで確認することで、この天体の活動銀河核は最近活動を終えた「死にたて」活動銀河核であることを初めて発見しました。今後この天体のSMBH周りの環境を詳細に調べることで、BH成長およびいつBH成長が止まるのかというメカニズムに迫ることが可能となります。



研究内容


宇宙には数多くの銀河が存在し、その銀河の中心には、太陽の質量の100万倍から100億倍にも達するSMBHが存在することが知られています。その一方で、このSMBHがどのように成長し、そしてどのような環境で成長をやめるのかは、未だにはっきりと分かってはおらず、天文学の大きな謎の一つとされています。

その謎を解く鍵となる天体が、活動銀河核と呼ばれるものです。宇宙にあるほとんどのSMBHは非常に暗く直接観測は困難なのですが、SMBHの周りにいったんガスが落ち込むと、ガスは重力エネルギーを開放することで光を放ちます(図1参照)。この光は非常に明るく、ときには太陽の明るさの1兆倍にも達するほどです。このように、活動銀河核として明るくなってしまえば、地球から非常に離れたSMBHも観測が可能となります。また、活動銀河核は中心のSMBHに物が落ちている現場でもあることを考えると、SMBHがどのように成長したのか(=質量を獲得してきたのか)を探る格好のターゲットとなります。

このように、活動銀河核はSMBH成長を知るのに欠かせない天体なのですが、いったい何がきっかけで活動銀河核は始まり、そしてどのようにして活動銀河核は終わりを迎えるのかは、長らく謎に包まれていました。SMBHの質量に上限がある以上、あるところで活動銀河核は終わりを迎えるはずですが、一旦活動をやめるとSMBHの周辺は急激にその輝きを失い観測不可能となってしまうため、そのような天体を探すのは非常に困難でした。

我々は、このように発見困難だと思われていた「死につつある活動銀河核」を偶然にも発見しました。偶然とは言っても、活動銀河核が作り出す周辺の環境を生かして初めて発見することができたのです。まず、活動銀河核は明るく、かつ高エネルギーの光をだすため、活動銀河核周囲のガスは電離(注2)され、その電離領域が約1万光年ほども広がっていたり、ジェットが噴出したするのが特徴です。つまり、活動銀河核の特徴的な構造 (indicatorと言います)はSMBHの近くだけでなく、1万光年ほどまで広がっているのです(図2参照)。我々はこのようにジェットを出しているArp 187という天体をチリにあるALMA電波望遠鏡(注3)やアメリカにあるVLA電波望遠鏡(注4)を用いて観測したところ、ジェットに特有な広がったローブ(図3で見られる5 kpcほど離れた2つの広がったローブ状のもの)は見つかったものの、中心核に付随すべき電波点源が非常に暗いことに気づきました。これは、最近の活動銀河核の活動が弱まり、電波源が暗くなっている可能性があることを意味しています。そこで、活動銀河核で見つかる特徴的なindicatorを様々な物理スケールで調べることにしました。その結果、物理的に大きいスケール (>1000光年以上)では活動銀河核のindicatorが見られたものの、活動銀河核に近い、物理的に小さいスケール(<10光年以内)では活動銀河核のindicatorが全く見られないことがわかってきました(図2参照)。これは、活動銀河核が最近活動をやめたことにより、小さいスケールでは活動銀河核のサインがまったく見られなくなったものの、大きいスケールでは光が届かなくなるまで1000-1万年ほどの時間差が生まれるため、まだ活動銀河核のサインが観測可能であるとすると自然に説明ができます。

今後は、このArp 187をより高空間分解能の観測を行い、どのようにして質量供給がストップしたのかを調査する予定です。また、今回は一天体のみの発見ですが、今回の手法を用いて、同様の死につつある活動銀河核をより多く探査することを検討しています。



発表雑誌


雑誌名: The Astrophysical Journal タイトル: Discovery of Dying Active Galactic Nucleus in Arp 187: Experience of Drastic Luminosity Decline within 104 yr
著者: K. Ichikawa, J. Ueda, H-J. Bae, et al., 2018, ApJ, 870, 65
DOI: 10.3847/1538-4357/aaf233



参考図


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図2. 一般的な活動銀河核と死につつある活動銀河核の違い(Schawinski et al. 2015をもとに改変)。一般的な活動銀河核は広がった電離領域(〜1万光年)および中心核 (<10光年)の両方で明るく輝いている一方、死につつある活動銀河核では、中心核はすでに暗く、広がった電離領域のみが明るく輝いている。

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図3. VLAおよびALMA望遠鏡で観測されたArp 187の電波イメージ(左から4.86 GHz, 8.44 GHz, 133 GHz)。どの画像でも、ジェットローブは見えているものの、中心核は非常に暗い。(※ Ichikawa et al. 2019, Figure 1より)



用語説明


(注1) 超巨大ブラックホール
宇宙にあるバルジを持つ銀河の中心に普遍的に存在すると考えられているブラックホール。その質量は太陽の100万倍から100億倍にまで及び、その質量獲得の起源は未だ謎である。

(注2) 電離
原子は中性の時には原子核とその周りを回る電子で構成されている。この電子が周りからの(今回の場合は高エネルギーの光子による)相互作用によって外に叩き出されてしまう現象を電離と言う。このように、電離された原子 (電子の数が中性状態より少ない原子) が存在するのは、過去に原子が電離するほどの高エネルギー光子にさらされたという間接的な証拠になる。

(注3) ALMA望遠鏡
チリにある世界最高感度および高空間分解能の電波望遠鏡。遠方にある銀河の細かい構造を空間分解したい場合は、ALMA望遠鏡が最も適している。今回の場合、高空間分解能と高感度観測を活かし、中心核の電波放射の上限値を強くつけることが可能となる。

(注4) VLA望遠鏡
アメリカにある電波望遠鏡。ALMA望遠鏡よりも低周波数の電波帯を観測が可能であり、活動銀河核観測の場合、ダストの輻射の邪魔がなく、純粋なジェット放射を捉えられる利点がある。



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科天文学専攻
学際科学フロンティア研究所
助教 市川 幸平(いちかわ こうへい)
E-mail:k.ichikawa[at]astr.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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