イベント・ホライズン・テレスコープは、地球上の8つの電波望遠鏡を結合させた国際協力プロジェクトであり、ブラックホールの画像を撮影することを目標としてきました。2019年4月10日、研究チームは世界6か所で同時に行われた記者会見において、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したことを発表しました。このことは、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことの強い証拠であり、銀河の中心に巨大ブラックホールが確かに存在することを意味します。すなわちブラックホールの撮像は、上述のような過去100年に渡る物理学的および天文学的な問いに対する、現代科学の究極的な到達点です。それと同時に、これまでの解像度の限界を突破し、直接撮像によりブラックホール研究を行うという、新たな時代の幕開けとなりました。特に、ブラックホール近傍から噴き出しているプラズマ流(ブラックホールジェット)の起源に迫る研究が活発化すると期待されます。この成果は、アメリカの天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』特集号に6本の論文として掲載されました。
詳細は
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/top
https://eventhorizontelescope.org/
をご覧ください。
イベント・ホライズン・テレスコープの建設と今日発表された観測成果は、何十年にもわたる観測的・技術的・理論的取り組みの賜物です。さらに、世界中から集まった200人以上の研究者たちの緊密な連携の結果でもあります。日本の研究者も、さまざまな面でこの研究に貢献しました。まず、日本と台湾・韓国、北米、欧州が共同で運用するアルマ望遠鏡は、観測に参加した望遠鏡の中でもっと感度が高く、イベント・ホライズン・テレスコープ全体の感度の向上に大きな貢献をしました。また、アルマ望遠鏡をイベント・ホライズン・テレスコープの一員とするために、山頂のアンテナ群から山麓施設にデータを伝送する装置は国立天文台が開発しました。さらに、日本はアジアのパートナーと共に東アジア天文台を設立しており、東アジア天文台がハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡の運用を担っています。
イベント・ホライズン・テレスコープ日本チームの代表である本間希樹 国立天文台教授・水沢VLBI観測所長は、「日本の研究者は、ソフトウェアや研究においても貢献をしています。私たちは、『スパース・モデリング』と呼ばれる新しい手法をデータ処理に取り入れました。これにより、限られたデータから信頼性の高い画像を得ることができました。最終的には、4つの独立した内部チームが3つの手法でデータの画像化を行い、いずれもブラックホールシャドウが現れることを確認しました。」と語っています。
研究チームの一員で、東北大学 学際科学フロンティア研究所の當真賢二 准教授(理学研究科 天文学専攻 兼任)は、理論班の一人として、観測データと理論シミュレーションの比較の議論に携わりました。世界中のブラックホール理論専門家が集まった理論班は、アインシュタインの一般相対性理論とプラズマ物理に基づいた膨大な数の理論シミュレーションを行い、観測データが一般相対性理論の予言する回転ブラックホールが存在することと整合的であることを確認しました。當真准教授らはこれまでのブラックホールジェットについての理論研究による知見を提供し、ジェットの観測と今回の観測を組み合わせることで、厳しく理論モデルを制限できることを示しました。
イベント・ホライズン・テレスコープで撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウ。リング状の明るい部分の大きさはおよそ42マイクロ秒角であり、月面に置いた野球のボールを地球から見た時の大きさに相当します。(Credit: EHT Collaboration)
東北大学学際科学フロンティア研究所 兼務 大学院理学研究科天文学専攻
准教授 當真 賢二(とうま けんじ)
電話:022-795-4402
E-mail:toma[at]fris.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください