● 地球マントルの地下660 kmで生成されるマグマを実験的に再現し、その挙動を明らかにした。
● 地球深部で発生するマグマの化学組成が地表で噴出するマグマと大きく異なることを示した。
● マグマ成分に枯渇した残された岩石は深部へ運ばれ、660 km以深のマントルの化学組成に影響を及ぼす可能性がある。
東北大学大学院理学研究科地学専攻の博士課程前期2年の中嶋彩乃、坂巻竜也助教、鈴木昭夫准教授と、バイロイト大学バイエルン地球科学研究所の川添貴章助教(現 広島大学大学院理学研究科所属)による合同研究グループは、地球マントルの深部で生成されるマグマを実験的に再現し、その挙動を明らかにしました。本研究では、地下約660 kmで岩石が部分的に溶融しマグマが発生すること、そのマグマの化学組成が地表で噴出するマグマと大きく異なること、マグマと残された岩石が地下660 km付近で分離することを示しました。また、マグマ成分に乏しい残された岩石は深部へ運ばれる可能性を指摘しました。地下660 kmより深部の下部マントルの化学組成は未だ解明されておらず、本研究成果から新たな知見が得られることが期待されます。
本研究成果は英国nature publishing groupのオープンアクセス科学雑誌「Scientific Reports」にて 2019年5月15日18時(日本時間)に公開されました。
「火山大国」日本では「マグマ」という単語に馴染みがあります。このマグマは岩石の溶融によって生成されるものです。ただし、マグマは地表のみに限らず地球深部における存在も地球物理学的観測から示唆されています。そこで我々は地下660 kmの深さにおける岩石の溶融現象を実験的に再現することで、そこで生成されるマグマの特徴を明らかにしました。
地下660 kmで生成されるマグマの化学組成は、地表で生成されるマグマと比べて、マグネシウムに富み、珪素に乏しい組成であることを突き止めました。また、水を30重量%程度含んでいる含水マグマであり、周囲の岩石(マントル)の密度よりも軽いことも実証しました(図の左側)。このマグマと岩石の密度差により、マグマは深さ660 kmに留まり、周囲の岩石と分離する可能性を示しました。生成されたマグマはマグネシウム成分を取り込むため、残された岩石はマグネシウム成分に乏しい組成となります。つまり、深さ660 kmにマグマが存在することによって、その下位の下部マントルにはマグネシウムの乏しい岩石だけがもたらされることになります(図の右側 )。このメカニズムは下部マントルの化学組成に影響を及ぼす可能性があります。
図. 深さ 660 kmにおけるマグマ生成・分離モデル
本研究は独立行政法人⽇本学術振興会の科学研究費補助金(JSPS科研費)JP17H04860, JP17K18797、JP15H05828および日独共同大学院プログラムの助成を受けたものです。
雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル:Hydrous magnesium-rich magma genesis at the top of the lower mantle
著者:Ayano Nakajima, Tatsuya Sakamaki, Takaaki Kawazoe, Akio Suzuki
DOI番号:doi:10.1038/s41598-019-43949-2
URL:www.nature.com/articles/s41598-019-43949-2
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
博士課程前期2年 中嶋 彩乃(なかじま あやの)
電話:022-795-6663
E-mail:ayano.nakajima.r1[at]dc.tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科地学専攻
助教 坂巻 竜也(さかまき たつや)
E-mail:sakamaki[at]tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科 地学専攻
准教授 鈴木 昭夫(すずき あきお)
電話:022-795-6663
E-mail:akio.suzuki.c5[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
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