東北大学 大学院理学研究科・理学部

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惑星形成の現場を見れば暗黒物質の正体に迫れる :暗黒物質の新しい探査法を提唱

発表のポイント

● 宇宙に満たされている暗黒物質の候補として、アクシオンと呼ばれる素粒子が近年注目されている。

● 本研究では、暗黒物質研究とは全く別に発展してきた惑星形成研究を融合し、新しい暗黒物質探査方法を発見した。

● その方法を現在得られているデータに適用し、アクシオンの性質に対し世界最高の制限をつけることができた。

● 今後、より高精度の観測を行ってアクシオンの兆候を見つけられる可能性がある。



概要

我々の宇宙は暗黒物質という物体で満たされていることが知られていますが、その正体は依然として分かっていません。近年、暗黒物質の候補として、アクシオン(注1)と呼ばれる粒子が注目を集めています。京都大学 大学院理学研究科の藤田智弘博士、東北大学 大学院理学研究科の田崎亮博士、同じく学際科学フロンティア研究所の當真賢二准教授(理学研究科兼任)は、暗黒物質研究とそれとは全く別に発展してきた惑星形成研究とを融合し、暗黒物質がアクシオンであるかどうかを検証する新しい方法を発見しました。生まれたての星のまわりには原始惑星系円盤というガスと塵からなる円盤状の天体があり、そこからやってくる光は綺麗な同心円状の偏光パターン(図1、注2)を持っています。しかし、偏光は地球に伝わるまでにアクシオンの影響を受けるため、この同心円構造が乱れて観測されることが予想されます(図2)。既存の観測データの中では乱れは見つかりませんでしたが、そのことからアクシオンの性質に対して世界最高の制限をつけられました。今後はより高精度の観測を行われることが期待され、暗黒物質アクシオンの兆候が見つかる可能性があります。

本研究成果をまとめた論文は、2019年5月14日付けで『Physical Review Letters』電子版に掲載され、特に注目するべき論文に付加される『Editor's suggestion』に選定されました。

□ 東北大学ウェブサイト

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図1:原始惑星系円盤の偏光パターンのシミュレーション結果


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図2:原始惑星系円盤の偏光が地球に伝わる途中でアクシオンに影響を受けるイメージ



詳細な説明

暗黒物質の理論研究者の藤田智弘博士(京都大学)、惑星形成の理論研究者の田崎亮博士(東北大学)、偏光天文学の理論研究者の當真賢二准教授(東北大学)の共同研究チームは、これまで全く異なる分野として発展してきた暗黒物質探査の研究と惑星形成の研究を融合し、これまでになかった全く新しいアプローチで暗黒物質の正体に迫る方法を発見しました。

この宇宙には、暗黒物質と呼ばれる、我々が知らない物質が大量に存在していることが分かっています。その総量は我々が知っている全ての物質を合わせたものの5倍ほどにも達します。暗黒物質の正体は全くの謎です。近年、暗黒物質の候補として注目を集めているのが、アクシオン(注1)と呼ばれる素粒子です。これまでも太陽から飛んでくるアクシオンを地上で捕まえる実験や、人工的にアクシオンを生成させて検出する実験が行われてきましたが、どれも発見には至っていません。

一方で、我々の住む地球のような惑星がどのようにできたのかも天文学における重要な問題です。惑星は、太陽のような光り輝く星が生まれる際、そのまわりにできるガスや塵からなる円盤状の天体から生まれると考えられていますが、その詳細は未解明です。この惑星の「ゆりかご」となる円盤を原始惑星系円盤と呼びます。原始惑星系円盤はその中心にある星からの光を反射することで光っており、その観測が勢力的に進められてきました。

今回の研究は、これらの全く異なる分野として発展してきた2つの研究を融合させました。原始惑星系円盤からやってくる光を観測すると、図1のような綺麗な同心円状の偏光パターンを持つことがわかります。しかし、アクシオンは飛んでいる光の偏光方向(注2)を回転させる性質があると考えられています。原始惑星系円盤から地球までの宇宙空間も暗黒物質で満たされているはずなので、アクシオンが暗黒物質だとすれば、同心円状の偏光パターンが渦巻き状へと乱されてしまうことが期待されます(図2)。従って、原始惑星系円盤の偏光パターンの乱れを探すことで、アクシオンを探索することができるのです。

研究チームは、すばる望遠鏡が取得した原始惑星系円盤の観測データに注目し、偏光パターンが見つからないことから、アクシオンの性質に対して世界で最も強い制限をつけました。今後、最新の望遠鏡を用いた原始惑星系円盤の偏光観測を行うことで、アクシオンが発見され、暗黒物質の正体が解明される可能性があります。今回の研究では、専門の異なる3人の理論研究者が出会って共同研究することで、世界の他の暗黒物質研究者が全く注目しなかった原始惑星系円盤という天体がアプローチの鍵となることが発見され、学際的な新分野が開拓されたと言えます。



用語解説

(注1)アクシオン
ひも理論などの高エネルギー理論から存在が予言されている未発見の素粒子です。これまで発見されたどの素粒子よりもずっと軽く、光の伝播に影響を与えると考えられています。さらに、銀河の中心付近における暗黒物質の密度はコンピュータシミュレーションで計算すると実際の天文観測の結果よりもずっと高くなってしまうという問題が知られていますが、暗黒物質がアクシオンだとすると解決されるとも指摘されています。

(注2)光の偏光
光は空間を伝わっていく電磁波であり、波であるからその振動している方向があります。例えば太陽光は様々な方向に振動している波が重ね合わさっているので、その偏りがありません。しかし、特定の方向にだけ振動している電磁波もあり、それらは偏光と呼ばれます。光は何かに反射すると偏光になりますが、偏光を通さない偏光サングラスをかけるとカットされるので、反射光が邪魔になる釣りや車の運転で重宝します。原始惑星系円盤も中心星の光を反射して光っているため、偏光として観測されます。



論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
タイトル:Hunting Axion Dark Matter with Protoplanetary Disk Polarimetry
著者:Tomohiro Fujita, Ryo Tazaki & Kenji Toma
DOI番号 10.1103/PhysRevLett.122.191101
URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.191101



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所 兼務 大学院理学研究科天文学専攻
准教授 當真 賢二(とうま けんじ)
電話:022-795-4402
E-mail:toma[at]fris.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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