東北大学 大学院理学研究科・理学部

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銀河系の端が見えてきた!

概要

東北大学、法政大学、東京大学、国立天文台などのメンバーからなる共同研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(HSC)が撮像したデータを用いて、私たちの住む銀河系の最遠端、すなわち銀河系を形作る星ぼしの世界の境界をはじめて見極めることができました。その境界までの距離は半径約52万光年もあり、銀河系中心から太陽系までの距離(約2万6千光年)の20倍にもなることがわかりました(図1)。このような銀河系の端まで広がる星ぼしは、年齢が120億年前後の最長老で、銀河系の形成初期に生まれたものであることから、銀河系がどのように形成されたかを知る上で大変重要な手がかりを与えてくれます。

□ 東北大学ウェブサイト

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図1: 銀河系の概念図。天の川にあたる銀河系円盤部には太陽を含めた約1000億個の星が円盤状に分布しています。銀河系中心と太陽までの距離は約2万6千光年です。天の川(銀河系円盤部)のまわりにはハローと呼ばれる広大な空間領域があって、年齢が120億年前後の古い星が約10億個、球状星団が約150個ほど分布しています。今回の研究から、このハローの半径が約52万光年にものぼることがわかりました。©東北大学



詳細な説明

私たちが住む銀河系は、大きく分けて天の川にあたる銀河系円盤部とそれを取り囲むハローと呼ばれる広大な領域から構成されています。天の川には太陽を含めた約1000億個の星が円盤状に分布していて、年齢は数10億年の比較的若い星でできています。一方、ハローには年齢が120億年前後の古い星が約10億個、球状星団が約150個ほど存在していて、天の川の部分を囲む広大な領域に渡って分布しています(図1)。つまり、ハローには銀河系の形成初期に生まれた星があり、銀河系が形成された当初はその大きさは現在の天の川の部分に比べて大変大きな状態であったことになります。これは銀河系が初期に多くの小銀河の合体を経て形成され、その痕跡が年齢の古い星の広がった分布として残っているからです。

では一体、このハローはどこまで広がっているのでしょうか。言い換えると、銀河系はその昔どのような空間領域で銀河形成が行われていたのでしょうか。これは、森の中にいて森全体の広がりを調べることと同じで、森の中にある木々(銀河系の中にある星ぼし)を隅々まで見通して決定する必要があり大変難しい作業になります。この目的には、ハロー全体に広がり、かつハローの端にあっても同定できるような明るい目印となる星を使うと便利です。そのようなものとして、青色水平分枝星(注1)やこと座RR型変光星(注2)と呼ばれる星があり、絶対等級(注3)が明るくてどれもほぼ一定なので銀河系の中の標準光源として使用することができます。これまでもこれらのタイプの星を用いて銀河系ハローの地図作りが行われてきましたが、これまでの観測では口径2.5メートルから4メートルの中口径望遠鏡が使われていて、銀河系ハローの端にある見かけ上暗いものまではなかなか観測することができませんでした。

このような暗い星の探査には、8.2メートルという大口径を持つすばる望遠鏡と超広視野焦点カメラHSCの組み合わせが威力を発揮します。なぜなら、ハローの端にあるとても暗い天体でしかも数も減っていくものを発見するためには、広い視野を今までよりも暗い等級まで探査する必要があり、すばる望遠鏡とHSCは世界で最も効率の良い組み合わせだからです。私たちの研究グループでは、銀河系ハローの地図を作るための星として青色水平分枝星に着目し、HSCの戦略枠プログラム(通称SSP: Subaru Strategic Program)で行われている広域測光サーベイのデータを解析しました。このタイプの星を同定するには、まずHSC-SSPの観測データの中から点源である銀河系内の恒星らしいものを選び、さらにこの中から複数の測光バンド(注4)を組み合わせて、青色水平分枝星の候補天体を抽出します。この方法では、他の点源天体(A型スペクトルの主系列星で通称青色はぐれ星、白色矮星、クエーサー、ならびに星と見分けのつかない遠方銀河)を天体の色の情報からうまく取り除く必要があり、注意深い統計解析が必要になります。

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図2:青色水平分枝星(青色)と青色はぐれ星(赤色)の空間分布。HSC-SSPは太陽系から見て特定の方向だけ観測しているので、太陽系から扇形の分布に見えています。©東北大学

このHSC-SSPデータに基づいて詳しいビッグデータの統計解析を行い、銀河系ハローにおける青色水平分枝星の大域的な分布を解明したのは、当時東北大学大学院博士課程前期在籍の福島徹也さんです。福島さんは、HSC-SSPの測光観測で用いられるg, r, i, zバンド(注5)のデータを組み合わせた天体の色の情報から、青色水平分枝星の候補天体を確率論的に導出するプログラムを開発しました(図2)。この方法では、太陽系からおよそ120万光年の距離まで星の性質を詳しく調べることができるので、今までの探査の4倍もの距離までとらえることができます。ちなみに、これまで行われてきた銀河系ハローの地図作りでは、距離にしてせいぜい32万光年くらいまでしか到達できなかったので、銀河系の端までは届きませんでした。福島さんの解析で得られた青色水平分枝星の空間分布(銀河系中心からの距離を変数とした数密度分布)は、図3に示すように銀河系中心からの距離とともに減少する傾向を示します。さらに、半径が約52万光年のところで急激に数が落ちていますので、このあたりが銀河系ハローの境界になっている可能性が高いという結果となりました。

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図3: 銀河系ハローにおける青色水平分枝星とこと座RR型変光星の数密度分布。赤い実線が今回得られた青色水平分枝星の分布で、銀河系中心から52万光年の場所で急激に減少しています。他の色の線は先行研究の結果で、内側で数密度の減少率が外側の今回の結果と比べて急になっている傾向があります。これは、内側のハローと外側のハローでその形成機構が違うことを示唆していて、数値シミュレーションでも同様の傾向が報告されています。©東北大学

この研究プロジェクトを統括する千葉柾司さん(東北大学教授)は、このような銀河系ハローの分布は、銀河系初期に矮小銀河と呼ばれる小銀河が合体を繰り返し壊されながら銀河系が形成される過程を反映していると指摘しています。特に、その空間的な大きさは、銀河系を包むいわゆるダークマターの広がり(ダークハローとも呼ばれる領域)に匹敵しており、銀河系が矮小銀河を含む小さなダークハローの合体によって形成される過程を理解する上で大変重要な要素になります。ちなみに、銀河系のすぐ傍にあるアンドロメダ銀河のハローに関する観測研究も進んでおり、今の所アンドロメダ銀河中心から約53万8千光年の距離までアンドロメダ銀河のハロー領域が広がっていることが確認されています。アンドロメダ銀河ハローは銀河系ハローと様々な面で違っていることが多く、これは銀河系と異なる合体史を経て形成されたことを反映していると考えられています。

すばる望遠鏡では、HSC-SSPの広域観測サーベイを現在も実行中で、今回の研究成果はサーベイの途中段階のデータから得られたものです。今後HSC-SSPの進行に従って、今後もっと多数の銀河系ハローの青色水平分枝星を検出することが予想されます。これにより、銀河系ハロー地図はさらに精密化され、銀河系の形成史に関する重要なヒントが得られるものと期待できます。

この研究成果は、日本天文学会の欧文研究報告に2019年6月13日付で掲載されました (Fukushima et al. 2019, "The stellar halo of the Milky Way traced by blue horizontal-branch stars in the Subaru Hyper Suprime-Cam Survey")。論文のプレプリントはhttps://arxiv.org/abs/1904.04966から入手可能です。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP25287062, JP16H01086, JP17H01101, JP18H04334, JP18H04359, JP18J00277, JP18J11326のサポートを受けています。



研究チーム

福島徹也(東北大学大学院理学研究科)、千葉柾司 (東北大学大学院理学研究科)、田中幹人 (法政大学 理工学部 創生科学科)、林航平(東京大学宇宙線研究所)、本間大輔 (国立天文台)、岡本桜子 (国立天文台ハワイ観測所)、小宮山裕 (国立天文台・総合研究大学院大学)、田中賢幸 (国立天文台)、有本信雄 (ソウル国立大学)、松野允郁(国立天文台・総合研究大学院大学)



用語解説

(注1)青色水平分枝星
青色水平分枝星とは、太陽よりも軽く年齢が古く進化が進んだ星で、その中心部でヘリウムが核融合反応を起こして輝いています。星の色・等級図(横軸に星の色、縦軸に星の絶対等級を示した図)の中で絶対等級が星の色によらずある一定の明るさになっていて、図の中で水平に分布する様子を示すので水平分枝星と呼ばれます(図4)。

(注2)こと座RR型変光星
半日程度の周期で変光し、ハローなどの古い恒星系に存在する典型的な変光星です。図4に色・等級図上での位置を示します。

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図4:銀河系の球状星団M68の色・等級図。青色で囲んだ領域にある星が青色水平分枝星(Salaris et al. 1997, ApJ, 479, 665より)

(注3)青色水平分枝星
天体の絶対的な明るさで、距離10パーセク(32.6光年)に置いた時の見かけの明るさを基準とします。

(注4)青色水平分枝星
天体の光度を測定する際の波長帯を指します。

(注5)青色水平分枝星
HSCで用いられている測光バンドの名称で、それぞれの有効波長は0.48μm、0.62μm、0.77μm、0.89μmです。



論文情報

雑誌名:日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publication of the Astronomical Society of Japan)
タイトル:The stellar halo of the Milky Way traced by blue horizontal-branch stars in the Subaru Hyper Suprime-Cam Survey
著者:Tetsuya Fukushima, Masashi Chiba, Mikito Tanaka, Kohei Hayashi, Daisuke Homma, Sakurako Okamoto, Yutaka Komiyama, Masayuki Tanaka, Nobuo Arimoto and Tadafumi Matsuno
URL:https://academic.oup.com/pasj/advance-article/doi/10.1093/pasj/psz052/5514559



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院 理学研究科 天文学専攻
教授 千葉 柾司 (ちば まさし)
E-mail:chiba[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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