● 木星大気の巨大嵐の3次元構造を観測した結果、水蒸気とアンモニア蒸気が大気の奥底から大量に上昇し、巨大なアンモニア雲が生成されることを明らかにした。
● この巨大嵐の生成機構は、「台風の機構」としても知られる「湿潤対流」で説明できることを明確に示した。
● 2017年1月の国立天文台すばる望遠鏡による観測成果であり、アルマ望遠鏡を含む初の巨大望遠鏡群共同観測キャンペーンの一翼を担った。
東北大学は、国際共同チームで2017年1月に国立天文台すばる望遠鏡(ハワイ・マウナケア山頂)による木星の赤外線観測を実施し、世界的な木星観測キャンペーンの一翼を担いました。この観測で、木星大気を吹き荒れるストームの3次元構造を分解し、地球の赤道域でも見られ、台風の機構としても知られる「湿潤対流」で説明できることを明確に示しました。
この観測は、アルマ望遠鏡、NASAハッブル宇宙望遠鏡、米ジェミニ北望遠鏡 8-m、WMケック望遠鏡10-m、欧VLT 8-mという、世界最大級の6つの望遠鏡群で行われました。電波〜可視光に跨る多波長観測は、嵐を高度方向に分解してその3次元構造の解明を可能とします。惑星探査機では困難ですが、他惑星の大気現象を地球と比較するには必須の手法であり、この効果を示す素晴らしい例となりました。
すばる望遠鏡中間赤外線カメラCOMICSが捉えた木星。色は、木星成層圏にあるメタンの発光強度。赤道域の明るい部分がそれより高高度にあるアンモニア雲(a)。大赤斑(GRS)(注1)やオーバル(BA)(注2)は定常的な巨大構造。今回着目しているのは各矢印が示す白斑・暗斑で、木星の巨大嵐を示します。
(撮影:2017/1/11-14。提供:Imke de Pater et al)
ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたカラー図を、すばる観測結果と比較した。
(撮影:2017/1/11。提供:Imke de Pater et al)
東北大学は、2017年1月に行われた国立天文台すばる望遠鏡(口径8メートル、ハワイ・マウナケア山頂)で木星の赤外線観測を実施しました。これは世界的なネットワークで行われた木星同時観測キャンペーンの一翼を担ったもので、木星の大気を吹き荒れるストームの3次元構造を解明しました。参加した望遠鏡は、アルマ望遠鏡(チリ)、NASA ハッブル宇宙望遠鏡、米ジェミニ北望遠鏡 8-m(ハワイ)、WMケック望遠鏡(ハワイ)、そして欧VLT 8-m(チリ)の世界を代表する6つの巨大望遠鏡群で、特にアルマ望遠鏡を含めたこれらの総動員によって木星を捉えた初事例です。電波〜可視光に跨り違う高度の大気構造を捉えたこの世界最大規模のキャンペーンにより、木星嵐の3次元構造を初めて捉えることができました。
木星の大気で巻き起こる巨大嵐は、「明るい白点」として見えます。これは下層大気から高高度へと巻き上がって作られたアンモニア氷の雲で、上層を吹き抜ける高速風に影響され、大きく吹き流されて見えることになります。電磁波は、波長によってそれぞれ吸収を受ける高度が異なるため、多波長に跨る同時共同観測は、これらのプルームの3次元構造とその運動の解明を実現すると期待されてきました。
今回の観測成果は、木星の巨大嵐が「湿潤対流理論」で説明できることを明確に示しました。この理論では、下層大気から吹き上がる上昇風がアンモニア蒸気と水蒸気の混合物を大量に巻き上げます。これが上層で凝縮すると、これらは潜熱を放出してエネルギーを与え、さらに雲を含む大気層を浮上させて大気の上部に大量のアンモニア氷雲を作り出します。地球では、熱帯で生まれて成長する「台風」でみられる仕組みと似た機構と考えられます。
このすばる観測は、東北大学の笠羽教授と米カリフォルニア工科大・ジェット推進研究所のGlenn Orton博士の共同チームで2017年1月に実施されたものです。
Glenn Orton博士は以下のように述べています。「アルマ望遠鏡による電波観測にすばる望遠鏡などによる赤外線観測を組み合わせることで、プルームがアンモニアガスに富んでいることを明確に示すことができました。これは、湿潤対流による駆動を明確に裏付けています。」
また、笠羽教授は東北大学が進める他の研究との関係で以下のように述べました。「このような観測キャンペーンは貴重です。惑星探査機では、これだけ広い波長帯で全球のスナップショットを取ることは不可能です。他惑星の大気現象を地球と比較するには、これがベストな方法なのですが、その効果を示す素晴らしい例となりました。ただ、この観測を行った中間赤外線観測装置COMICSはまもなく運用が停止される予定で、日本がこの分野へなせる貢献機会が限られてしまうことが残念です。」
笠羽教授がセンター長を務める東北大・惑星プラズマ大気研究センターは、宮城県・福島県やハワイ・マウイ島に独自の電波・光赤外線望遠鏡群を置き、および宇宙航空研究開発機構(JAXA)・東京大等と打ち上げた紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」を主要メンバーとして支え、国際的な惑星観測の一翼を担っています。本成果は、これにも連なっていくものです。
この成果をまとめた論文は、米カリフォルニア大バークレー校のImke de Pater博士を主著者としてAstronomical Journalで出版が決まり、既にオンライン公開されています。本研究は、カリフォルニア大バークレー校、カリフォルニア工科大・ジェット推進研究所、東北大とともに、国立電波天文台(NRAO)、NASAゴダード宇宙飛行センター、クレムソン大(米)、メルボルン大(オーストラリア)、レスター大(英)による共同チームで行われました。
国立天文台すばる望遠鏡・press release:
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/08/23/j_index.html
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/08/23/
カリフォルニア大学バークレー校・press release:
https://news.berkeley.edu/2019/08/22/storms-on-jupiter-are-disturbing-the-planets-colorful-belts/
https://news.berkeley.edu/2016/06/02/new-radio-map-of-jupiter-reveals-whats-beneath-colorful-clouds/
米国立電波天文台・News release:
https://public.nrao.edu/news/image-release-alma-shows-whats-inside-jupiters-storms/
カリフォルニア工科大/NASA ジェット推進研究所:
URL未定
雑誌名:Astronomical Journal
タイトル:First ALMA Millimeter Wavelength Maps of Jupiter, with a Multi-Wavelength Study of Convection
著 者:Imke de Pater, R. J. Sault, Chris Moeckel, Arielle Moullet, Michael H. Wong, Charles Goullaud, David DeBoer, Bryan Butler, Gordon Bjoraker, Mate Adamkovics, Richard Cosentino, Padraig T. Donnelly, Leigh N. Fletcher, Yasumasa Kasaba, Glenn Orton, John Rogers, James Sinclair, Eric Villard
DOI番号:未定
URL:https://arxiv.org/abs/1907.11820
(注1) 大赤斑(GRS)
木星の南半球にある巨大な嵐。17世紀から存在が知られる。この数十年で縮小がみられ、恒久的に存在しうるものではないが、現在も地球の3倍程度と巨大な姿を保つ。
(注2) オーバル(BA)
大赤斑の近傍に21世紀初めに現れた。当初白色だったが大赤斑と似た色調に徐々に変化し、下層大気から吹き上がった物質の影響とみられる。下層から上層への物質輸送を示す本発表は、その解明にもつながっていくものとなる。
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター
教授・センター長
笠羽 康正(かさば やすまさ)
E-mail: kasaba[at]pparc.gp.tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください