● スーパーコンピュータで大規模な温暖化予測を実施し、産業革命から2度/4度昇温時の極端な降雪現象である「豪雪」を詳細に解析した。
● 温暖化によって、日本海側の中部日本山岳地域では豪雪がより強まる。
● 現在よりも強い豪雪が起こる成因は、相対的に寒波が強まること。
東北大学大学院理学研究科の佐々井崇博助教らの共同チームは、スーパーコンピュータ上で大規模な温暖化予測を行い、豪雪を詳細に解析しました。その結果、日本海側の中部日本山岳地域では、温暖化すると現在よりも強い豪雪が起こりうることがわかりました。これは、「気温上昇によって空気に含まれる水蒸気が増えること」に加え、「温暖化に対する寒気の昇温度合いが小さいことで、相対的に寒波が強まる」ためです。今後、豪雪の対策など、気候変動の適応策を進めるためにも、空気に含まれる水蒸気や寒波の長期変化のさらなる解析を進めていくことが重要です。
豪雪は、交通機関の混乱や雪おろしによる人的被害など、気象災害として我々の生活に大きなインパクトをもたらします。我が国の降雪現象を引き起こす典型的なパターン(気圧配置)は、大きく二つあります。一つは日本海側で雪をもたらす西高東低型(いわゆる、冬型)、もう一つが太平洋側の南岸低気圧型です。そのため、成因の異なるそれぞれのパターンについて、「将来、豪雪がどう変化するか?」を理解する必要があります。今回は、大規模な温暖化予測を実施し、産業革命から全球平均気温が2度、ないし4度昇温した将来の豪雪について、本州のほぼ全域を対象に調べました。さらに、日本海側での豪雪の仕組みを調べることで、将来起こりうる強い豪雪の成因を明らかにしています。今回の研究成果は、気象災害に対する事前の備えに重要な科学的知見であり、今後の気候変動の適応策において役立つものと考えられます。
東北大学大学院理学研究科の佐々井崇博助教らは、気象庁気象研究所、海洋研究開発機構と連携し、スーパーコンピュータ"地球シミュレータ"上で地域気候モデルによる大規模な温暖化予測を実施し、本州のほぼ全域をカバーする新たな気象データセットを作成しました(図1)。その主な特徴は、「地域スケールの気象現象を捉えるほどの高い解像度(5km格子)」と、「現実的に起こりうる気候シナリオの数を膨大に再現したこと」にあります。これらの特徴は、我が国の様々な極端な現象を解析する上で必要不可欠な科学的アプローチであり、将来予測の不確実性を調べる上で非常に有用です。
図1:温暖化予測の計算フロー。海洋研究開発機構の地球シミュレータで、理論に基づく高解像度化(気象庁気象研究所の地域気候モデルによる5km格子の計算)を実施しました。「現在」、産業革命から「2度昇温」、および「4度昇温」した気候の状態を再現します。気温上昇の影響が小さな場合でも、その影響を確実に捉えるため(正確に頻度分布を描くため)に、それぞれ372年分の予測シナリオ数、計約1000年分の大規模な温暖化予測を実施しました。Credit: Takahiro SASAI
次に、今回の温暖化予測の特徴である"膨大なシナリオ数"を活かし、我が国の極端な降雪現象(豪雪)の解析を行いました。豪雪は、一年間で最も降雪が多い日の降雪現象として定義しています。豪雪時の降雪量だけで頻度分布を描き(極値統計解析)、その強度と頻度を現在と将来で比べることで、豪雪が強まる(もしくは、弱まる)か、を調べています。今回は、「産業革命から2度、ないし4度昇温した将来に、太平洋側と日本海側それぞれの豪雪がどう変わるか?」を調べました。
その結果、太平洋側では温暖化による気温上昇が雪を雨に変えるために豪雪が著しく弱まりますが、日本海側では豪雪の頻度や強度が現在とほぼ変わらないことがわかりました(図2)。そこで、日本海側に注目して詳しく調べたところ、将来温暖化すると、日本海側の比較的標高が高い場所である中部日本山岳地域で現在よりも強い豪雪が起こりうることがわかりました(図3)。温暖化すると空気に含まれる水蒸気が増え、潜在的に降ることが可能な降雪量が増えるためであり(図4)、温暖化してもなお寒冷な地域では上空から地面まで雪が解けることなく降ることができます。
図2:太平洋側(上段)と日本海側(下段)での、「現在」、「2度」、および「4度昇温」した時の豪雪の頻度分布。太平洋側では、温暖化が進行するとともに豪雪が顕著に弱化します。一方で、日本海側全体では、現在と将来にほとんど差がないことがわかります。今回の解析した領域は、右図の点線四角の領域です。Credit: Takahiro SASAI
図3:日本海側における、「現在」と「4度昇温」した時の豪雪時の日降雪量の差(左図)。赤が4度昇温時に豪雪を強化、青が弱化することを表します。日本海側の中部日本山岳地域(新潟県、長野県、富山県などをまたがる山脈を中心とした地域)では温暖化によって豪雪が強まることがわかります。右のグラフは、豪雪が強化される地域(左図の赤色で示した地域)における豪雪の頻度と強度を表します。横軸の値が高いほど強い豪雪、低いほど弱い豪雪であることを示します。頻度分布が右へシフトしていることから、より強い豪雪がより高い頻度で起こることが示唆されました。Credit: Takahiro SASAI
図4:「現在」と「4度昇温」時の"降ることができる潜在的な降雪量(可降水量)"の差。赤色ほど、4度昇温時の方が多いことを表しています。つまり、温暖化によって空気に含まれる水蒸気は、ほぼ全域で増えることがわかります。Credit: Takahiro SASAI
日本海側の降雪の仕組みをもとに、将来起こりうる豪雪の仕組みを考察しました(図5)。日本海側で雪が降る一般的な仕組みは、シベリアから流れ込む寒気(寒波)が南から運ばれてくる温かい海水に触れることから始まります。これにより日本海上では対流活動が起こり、空気が海から熱(水)の供給を受けて雪雲が発生します。雪雲は季節風によって日本列島まで運ばれ、日本海沿岸で雪を降らせます。そこで、雪を作り出す雲の生成に必要な「寒波」と「海からの熱供給(潜熱・顕熱)」について調べました。「寒波」は、南から流れてくる暖気と極域から流れてくる寒気がすれ違う高度をもとに計算された、下層の冷たい空気の総量です。
その結果、温暖化によって海水が常に温められるために「海からの熱供給」は十分であり、将来は「寒波」の方が豪雪を引き起こすより重要な成因だとわかりました。そのため、「寒波」と豪雪の関係性をさらに詳しく調べました。その結果、温暖化が進行するほど豪雪と寒波の結びつきが強くなることがわかりました。一般的には、シベリアから流れこむ寒気が温暖化によって温められ、将来の寒波は平均的には弱化して雪が減ります。しかし、今回の研究では、豪雪の時にシベリアから流れ込む寒気の温度が上がりつつも、その量は増えることがわかりました(図6)。つまり、大きな寒波の時には、"寒気自体の昇温の度合い"が"温暖化による平均気温の上昇の度合い"よりも小さいため、相対的に寒波が強まり、そのタイミングが将来の強い豪雪の日と一致していることを示唆しています。
図5:豪雪のメカニズム。シベリアから日本海へ流れこむ寒気は現在と比べて温まりますが、豪雪時には流入する量が増えることで、相対的にはより大きな寒波となります(右向きの青色矢印)。そして、「シベリアから日本海に流入した寒気」が「低緯度から流れてきた温かい海水」に触れることで、海上では対流不安定となり(上向きの青色矢印)、雪雲が発生します。日本海へ流れ込む寒気は日本海から大量の熱と水を吸収し、雪雲を成長させながら、日本列島まで到達します。豪雪時の寒気は将来の方が増えるため、空気がより多くの水と熱を吸収し、より多くの水蒸気を含んだ雪雲を作り出します(雲の白色部分)。日本列島では、季節風が高山地帯にぶつかって強制的な上昇気流を発生させます(赤色の矢印)。結果として、現在よりも空気が含む水蒸気が増えるため、より強い豪雪が起こります。Credit: Takahiro SASAI
図6:シベリアから日本海、日本列島に向けて流れる寒気の量 (右の図のような流れで寒気が流れています)。現在(上段)と4度昇温した将来(下段)の豪雪時における、2日前から当日までの寒気です。赤色ほど、シベリアから流れ込む寒気の量が多いことを示します。温暖化に合わせて寒気自体の温度の基準を上げることで、寒気の量を計算しています。豪雪が起こる前日から当日にかけて寒気の量が多くなることから、将来寒波が相対的には強まることがわかりました。Credit: Takahiro SASAI
このように、将来起こりうる強い豪雪は、「気温上昇によって空気に含まれる水蒸気が増えること」に加え、「相対的に寒波が強まること」が成因です。今後、気候変動の適応策として豪雪への対策を検討する上で、寒波を常時監視していくことが重要です。特に、大寒波の可能性を観測した時には、日本海側の中部日本山岳地域で今よりも強い豪雪を警戒する必要があります。
この研究成果は、地球物理学分野では世界で最も権威のある科学雑誌の1つであるJournal of Geophysical Research-Atmospheresに2019年12月16日(米国東部標準時午前10時、日本時間2019年12月17日0時)に掲載されます。この研究は、文部科学省気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)の支援を受けました。
・主な研究メンバー
東北大学 大学院理学研究科地球物理学専攻:佐々井崇博、山崎剛
気象庁気象研究所:川瀬宏明
海洋研究開発機構:杉本志織
名古屋大学 宇宙地球環境研究所:菅野湧貴
論文タイトル:Future Projection of Extreme Heavy Snowfall Events with a 5-km Large Ensemble Regional Climate Simulation
責任著者:佐々井 崇博 (著者、9名)
DOI番号:10.1029/2019JD030781
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
助教 佐々井 崇博(ささい たかひろ)
電話:022-795-5552
E-mail:taka.s.h.g[at]gmail.com
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 山崎 剛(やまざき たけし)
電話:022-795-5781
E-mail:yamaz[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください