東北大学 大学院理学研究科・理学部

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地球温暖化に伴う海洋密度成層の強化を検出 海洋生態系・漁業活動に与える影響の解明に期待

発表のポイント

● 地球温暖化の進行に伴い、世界の海洋の大部分において1960年代以降に上下方向の海水密度(注1)差(密度成層)が増大していることを発見。

● 海域によって密度成層強化の進行速度は大きく異なり、従来の見積もりよりも速く進行している可能性を指摘。

● 地球温暖化がもたらす海洋生態系・漁業活動への影響およびその将来変化の理解への貢献が期待。



概要

東北大学大学院理学研究科の山口凌平博士課程学生(研究当時、現在:IBS Center for Climate Physicsポスドク研究員)と須賀利雄教授は、世界の海洋の大部分において、海洋上部の密度成層(上下方向の海水密度差)が地球温暖化の進行に伴って1960年代以降に強化(増大)していることを発見しました(図1)。

海洋の密度成層が強化することで、海洋下部から、海洋生態系を支える基礎生産が行われる太陽からの光が豊富な海洋上部への栄養供給が減少するために、海洋生態系そのものが深刻な影響を受けることが懸念されます。本発見は、地球温暖化の進行に伴い、すでに起きている海洋生態系・漁業活動への影響の理解およびそれらの将来変化の予測に貢献することが期待されます。

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図:全海洋の8割以上の海域で密度成層は強化傾向にあり、平均すると1960年代から現在までに最大6.1%の強化に相当。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明

海洋の密度成層とは海水の密度が深さとともに変化する構造を指し、実際の海洋内部には主に水温が海面から深さとともに減少していくことによる密度成層が存在します。海洋中の密度成層は海水を上下方向に混ざりにくくする"バリアー"として働くことで、太陽光は豊富であるが植物プランクの成長に不可欠な栄養が不足している海洋上部の海水と、比較的栄養は豊富だが暗い下部の海水とを隔てています。そのような平均的な海洋の密度成層は、地球温暖化に伴う海水温の上昇速度が海面付近でより速いために上部の海水が下部よりも速く温まる、すなわち密度が小さくなることで強化されていくと考えられていました。しかし、地球温暖化による密度成層の変化シグナルを観測データより有意に検出するには、その変化を海洋が潜在的に持つ10年規模の長周期変動と区別するための長期間にわたる観測データの解析が必要です。

東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の山口凌平博士課程学生(研究当時、現在:IBS Center for Climate Physicsポスドク研究員)と須賀利雄教授は、全世界の研究機関によって採取された海水水温塩分観測のデータベースにおいて、可能な限り多くのデータを用いて、改めて1960年代以降の密度成層の変化を詳細に分析しました。その結果、世界の海洋の大部分において、海面から200メートル深までの密度成層が、地球温暖化の進行に伴って1960年代以降に有意に強化していることを発見しました(図1)。密度成層強化の進行速度は海域によって大きく異なり、その空間分布の要因を説明するには、従来の仮説である海水温上昇が海面付近でより大きいことによる効果だけではなく、海洋下部の水温変化と、もう一つの海水密度の変動要素である海水塩分の変化も重要であることがわかりました(図2)。また本解析結果は、全球平均の成層強化の進行速度が、IPCC第5次評価報告書および海洋・雪氷圏特別報告書(注2)による従来の見積もりよりも速い可能性を指摘しました。

IPPC第5次評価報告書で用いられている地球システムモデル(注3)を用いた将来予測では、今世紀末までに、密度成層が強化されることが主な要因となって海洋の基礎生産は大きく低下することが予測されています。本研究の結果に照らし合わせると、海洋生態系を底から支える基礎生産の変化が、すでにこの半世紀のうちに始まっている可能性が示唆され、ひいては近いうちに漁業活動や私たちの食生活へ深刻な影響を与えることも懸念されます。地球温暖化の進行に伴う海洋の水温および塩分の変化がどのように海洋生態系へ影響を及ぼし、将来の変化を引き起こすかを理解するためには、引き続き海洋の状態を様々な観測プラットホームによって監視し、その変動メカニズムを深く理解していくことが不可欠であると考えられます。

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図1:1960年代からの海洋密度成層(上層と下層との海水密度の差)の変化傾向。全海洋の8割以上の海域で密度成層は強化傾向にあり、平均すると1960年代から現在までで最大6.1%の強化に相当。

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図2:1960年代以降の各海域における深さごとの海水密度の変化の度合い(灰色棒)。橙色/水色の棒はそれぞれ水温/塩分変化による密度変化への寄与(水温上昇と塩分減少が密度減少に対応)。全ての海域で、海面付近の密度減少が下部よりも大きく、密度成層が強化していることを表す。



語句説明

(注1) 海水密度
体積が同じならば、冷たい(暖かい)海水ほど重く(軽く)、塩分が高い(低い)海水ほど重い(軽い)。その尺度が海水密度で、一定の体積あたりの海水の質量として定義される。海水密度が大きいほど重い。

(注2) IPCC第5次評価報告書および海洋・雪氷圏特別報告書
気候変動に関する研究者・専門家によって構成されるIntergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた、人為起源による気候変化、その影響、および変化に対する適応方針に関する報告書。第5次評価報告書が2013年に発表され、第6次評価プロセスの一環である海洋・雪氷圏特別報告書は2019年9月に発表。

(注3) 地球システムモデル
スーパーコンピューターによる数値シミュレーションによって大気海洋変動を再現する気候モデルに、陸域と海洋における生物、化学的過程を加えたもの。温室効果気体の増加に対する気候の応答だけでなく、陸域海域の低次生産性変化や、物質循環変化および気候との相互作用、温室効果気体増加以外の人間活動(森林伐採による土地利用変化など)の影響なども総合的に評価することが可能。



論文情報

雑誌名:Journal of Geophysical Research: Oceans
論文タイトル: Trend and Variability in global upper-ocean stratification since the 1960s
著者:Ryohei Yamaguchi and Toshio Suga
DOI番号:10.1029/2019JC015439
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2019JC015439
掲載日:2019年12月12日(オンライン公開)



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 須賀 利雄(すが としお)
電話:022-795-6527
E-mail:suga[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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