東北大学 大学院理学研究科・理学部

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トポロジカルに護られた電気伝導特性の可視化に成功 -外乱に強い量子ホール状態の実証-

発表のポイント

● 過剰電流(注1)を流しながら走査ゲート顕微鏡(注2)観察を行うことで、トポロジカル量子状態(注3)(量子ホール状態(注4))に現れる特殊な絶縁領域を映し出すことに成功。

● 量子ホール状態のミクロスコピック(注5)な構造が、過剰電流による外乱に対して強いことを実証。

● 様々なトポロジカル量子状態観察に応用が期待されることから、より外乱に強い情報処理デバイス材料の探索に貢献すると考えられる。



概要

次世代の情報処理デバイス材料として期待されているトポロジカル物質は、従来の物質よりも電子による情報伝達が不純物などに邪魔されにくいという特性を持っています。

東北大学大学院理学研究科の冨松透助教、橋本克之助教、平山祥郎教授らは、筑波大学数理物質系の野村晋太郎准教授と協力し、トポロジカルに護られた電子状態の一つである量子ホール状態を過剰電流で乱し走査ゲート顕微鏡観察を行うことで、その特殊な絶縁性領域を可視化することに成功しました。これにより、トポロジカルに護られたミクロスコピックな状態が、過剰電流といった外乱下でも保持されていることが実証されました。この研究成果は、トポロジカル普遍性が作り出すミクロスコピックな状態を探るための新しい手法を提供するもので、今後、様々なトポロジカル量子状態観察に応用が期待されることから、より外乱に強い情報処理デバイス材料の探索に貢献すると考えられます。

なお、研究成果は米国科学誌「Physical Review Research」のオンライン版に令和2年2月5日(日本時間)に掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト

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過剰電流を流しながら走査ゲート顕微鏡観察を行うことで、トポロジカル普遍性が作り出す特殊電子状態のイメージングに成功。直線状のパターンは量子ホール絶縁領域を示している。



背景

次世代の情報処理デバイス材料として期待されているトポロジカル物質は、従来の物質よりも電子による情報伝達が不純物などに邪魔されにくいという特性を持っています。トポロジカル量子状態の一つである量子ホール状態では、逆向き電流が流れる左右の試料端チャンネル間に絶縁領域が存在し、端チャンネル間の電子散乱が阻害されることで、不純物や電流といった外乱に乱されにくい電気伝導特性が生じると考えられています。従来、この特徴的なミクロスコピックな電気伝導構造が外乱に対してどのように振舞うか、電気伝導測定から直接調べる手法がありませんでした。



研究手法と成果

本研究では、外乱として過電流を流しながら、金属探針を走査ゲートとして用い、その応答を電気抵抗測定で捉える走査ゲート顕微鏡マッピング(図1)を行いました。この新たな手法により、ミクロスコピックに量子ホール絶縁領域の電子散乱を映し出すことに成功しました。図2(a)に示すように、絶縁領域が試料端に沿って直線状のパターンとして現れ、量子ホール状態を特徴づけるランダウレベル充填率(注6)を整数値に近づけるに従って試料端から試料中央方向に移動していくことがわかります。直線状パターンの位置が計算で求めた量子ホール絶縁領域とよく一致していることから(図2(b))、過剰電流下でもトポロジカルに護られた量子ホール状態のミクロスコピックな構造が保たれているということを実証しました。さらに過剰電流を大きくしていくと、量子ホール状態が壊れ、図3に示すように充填依存性は消失し絶縁領域は網目状に全体に広がることが明らかになりました。



今後の展開

本研究成果は、トポロジカル普遍性が作り出すミクロスコピックな状態を探るための新しい技術を提供するもので、今後、様々なトポロジカル量子状態観察に応用が期待されることから、より外乱に強い情報処理デバイス材料の探索に貢献すると考えられます。



謝辞

本研究成果は、科研費基盤研究(B)、基盤研究(C)、新学術領域「ハイブリッド量子科学」、および東北大学先端スピントロニクス研究開発センター(CSIS、東北大学スピン連携ネットワーク(CSRN), スピントロニクス国際共同大学院(GP-Spin)の支援により得られたものです。



論文情報

雑誌名:Physical Review Research
論文タイトル:Probing the breakdown of topological protection: Filling-factor-dependent evolution of robust quantum Hall incompressible phases
著者:Toru Tomimatsu, Katsushi Hashimoto, Shyunsuke Taninaka, Shintaro Nomura & Yoshiro Hirayama
URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevResearch.2.013128
DOI:10.1103/PhysRevResearch.2.013128



用語説明

注1) 過剰電流
量子ホール効果は電気抵抗がゼロになる現象で特徴づけられるが、ある電流値以上では電気抵抗が現れ始め量子ホール効果ブレークダウンを生じる。本研究ではこの電流領域を指している。

注2) 走査ゲート顕微鏡
走査プローブ顕微鏡の一つで、金属探針を走査ゲートとして用い、その応答を電気抵抗測定で捉える顕微鏡。探針と試料表面の距離を一定に保ちながら走査するため、一般的に原子間力顕微鏡の機能が用いられる。

注3) トポロジカル状態・物質
形を連続的に変えた際にその前後で特性が変わらない性質で分類できる状態や物質のことで、近年、金属、半導体、絶縁体、超伝導体などの様々な物資で見つかっている。

注4) 量子ホール状態
半導体量子井戸構造に閉じ込められた二次元電子ガスに強磁場を印可した際に生じる量子化状態。古くから知られている現象であるが、最近トポロジカル状態の一つとして再認識されている。

注5) ミクロスコピック
肉眼では見えないマイクロメートル(1mmの千分の1)からナノメートル(1mmの百万分の1)の微小なサイズ。また、様々な現象を引き起こす微視的な原因となる要素のサイズを意味する。

注6) ランダウレベル充填率
ランダウ準位と呼ばれる量子ホール状態に現れる量子化準位一つに収容できる電子の数と、その準位を実際占めている電子の数の比を意味する。



参考図

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図1:過剰電流Isdを流しながら行う走査ゲート顕微鏡観察のセットアップ。二次元電子ガス(2DEG)に磁場(B)を加え、バックゲート電圧Vbgで2DEG電子密度を調節することで任意の量子ホール状態を形成する。電圧Vtipを印可した探針による2DEGの電圧(Vx)変化をマッピングすることでイメージングを行う。

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図2:量子ホール絶縁領域の充填率(ν)依存性。(a)走査プローブイメージ。試料端を示す左側の白点線に沿って現れている白いライン状のパターンが量子ホール絶縁領域を示している。(b)ラインパターンの左側の試料端からの距離(黒点:パターンの中心位置;黒線:パターンの幅)。灰色の領域は計算で求められた局所的な充填率νL=2の絶縁領域を示している。

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図3:過剰電流の大きさによる量子ホール絶縁領域の変化。過剰電流が小さい場合は(a)(b)、充填率が整数に近づくに従い直線状の絶縁領域が試料端から試料中央に移動する。過剰電流が大きくなると(c)(d)、充填依存性は消失し絶縁領域が網目状に全体に広がる。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
助教 橋本 克之(はしもと かつし)
電話:022-795-5708
E-mail:hashi[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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