東北大学 大学院理学研究科・理学部

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38億年前、火星には雨と雪が降った? 全球気候モデルが示した流水地形の再現メカニズム

発表のポイント

● 38億年前の火星は、冬には氷に閉ざされつつも夏には液体の雨が降ることができる環境だった可能性を、全球気候モデルで示した。

● 現在の流水地形が存在する場所で、春~秋には雨が降り、冬に積雪が生じるものの春になると融ける「冷涼・湿潤」な気候を再現。

● 現在の流水地形は、このような「冷涼・湿潤」な気候が約100万年継続すれば生成可能であることを示した。



概要

火星の地表面には約38億年前にできた液体の水が流れた痕とされる「流水地形(バレーネットワーク)」が数多くありますが、それらの形成に必要な温暖な気候を維持する仕組みはわかっていません。これは、当時の太陽が現在より暗く、二酸化炭素の濃い大気をもたせても十分に暖まらないためです。本研究は、この時代の火星の気候と流水を再現できる新たなモデルを開発し、当時の火星が夏に降雨、冬に積雪する「冷涼・湿潤」な気候である可能性を示し、またこの気候が約100万年継続すれば現在の流水地形が形成できることを示しました。これは、隕石の衝突や火山の噴火など突発的な温暖化を考慮しなくても地表に流水が存在しえたことを初めて提唱する結果です。地表に液体の水を持った「第2の地球」の探索に新たなヒントを与えるものです。



参考図

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火星地表面に残る「流水地形(バレーネットワーク)」。(提供:NASA)

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流水地形の分布。赤い部分が集中して存在する箇所。(出典:B.M. Hynek et al., Updated global map of Martian valley networks and implications for climate and hydrologic processes, Journal of Geophysical Research Planets, Vol. 115, E09008, doi:10.1029/2009JE003548)

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私達のモデル(二酸化炭素 96%、水素3%を主とする地表1.5気圧の大気を持つ)で再現された、年間平均温度の分布(単位:ケルビン)。北半球の大部分は液体の海と仮定している。

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私達のモデル(二酸化炭素 96%、水素3%を主とする地表1.5気圧の大気を持つ)で再現された、流水地形を作るのに必要な「冷涼・湿潤」な気候の継続期間(単位:万年)。



詳細な説明

東北大学の研究チームは、今よりもっと大量の大気を持っていたとされる約38億年前の火星を再現する全球気候モデルを開発しました。このモデルによって、当時の火星は春~秋には雨が降り、冬に積雪が生じるものの春には融ける「冷涼・湿潤」な気候を持ちうることを示しました。また、この気候が約100万年続くと、現在の火星に残る流水地形(バレーネットワーク)が形成できることも示しました。

現在の火星の地表は、平均温度約-70℃、約0.007気圧と非常に寒冷・希薄で、液体の水は存在しえない環境です。とはいえ、過去には液体の水が流れていたことを示す無数の流水地形が見つかっています。火星由来とされる隕石や表面に残るクレーターなどから、約38億年前の火星は今の地球大気に匹敵する0.5~2気圧の大気をもっていたと見積もられており、温室効果によって温暖な気候が持っていたはず、と考えられました。しかし、この当時の生まれたての太陽は今よりも暗く、現在の約75%程度であったとされています。従来のモデルでは二酸化炭素と水蒸気の温室効果では地表に液体の水が存在しうる温暖な気候は再現できず、隕石の衝突や火山の噴火など、突発的な温暖化による陸氷の融解を入れないと地表の流水を説明できませんでした。

東北大学理学研究科の修士課程大学院生・鎌田有紘氏(2018年3月修了)と黒田剛史助教は、地球のモデルをベースに初期火星の全球気候モデルを開発し、また求められる降雨量・融雪量から地表の流水量分布を求めることに成功し、これを用いて38億年前の火星の気候と地表流水の評価を様々な仮定で行いました。この結果、大気中に水素(惑星内部からの脱ガスによる)が1~数%存在した場合、二酸化炭素と水素の衝突に伴って赤外線の吸収が大きくなり、この効果で十分な温暖化が起きうることを示しました。例えば地表1.5気圧、水素混合比3%のときには赤道域で降雨・積雪が季節によって繰り返される「冷涼・湿潤」な気候となり、これが約100万年続くと現在残る流水地形が形成できる地表流水量をもたらしうることが示されました。

本研究は、特別なイベントが起きなくても、流水地形を作ることができることを初めて示しました。これは従来の研究とは異なるシナリオを提唱するものですが、現在の流水地形の中にはこのモデルでも説明できないものがあります。今後、初期火星における地形の変化や氷河による浸食も考慮に入れた研究を進めていきます。さらに、太陽系外のどこかに存在する地球のような水を擁する岩石惑星にも適用して、その気候や生命の誕生につながりうる環境の検討へとアプローチしていく予定です。




発表論文

雑誌名:Icarus, Vol. 338 (1 March 2020)
論文タイトル:A coupled atmosphere-hydrosphere global climate model of early Mars: A 'cool and wet' scenario for the formation of water channels
著者:A. Kamada, T. Kuroda. Y. Kasaba, N. Terada, H. Nakagawa, K. Toriumi
DOI番号:doi:10.1016/j.icarus.2019.113567
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0019103518300927



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻
太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野
助教 黒田 剛史(くろだ たけし)
電話:022-795-6536
E-mail:tkuroda[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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