東北大学 大学院理学研究科・理学部

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東北地方太平洋沖地震の震源構造を解明 -プレート境界の岩石硬さの違いが地震発生をコントロール-

発表のポイント

● プレート境界に沿った震源域の不均質構造が地震発生をコントロールした。

● 破壊開始点よりも浅い側は、海溝付近より柔らかい岩石でできており、それが破壊を止められずに大すべりが海溝まで及んだ。

● 巨大地震発生メカニズムを知る重要な手がかりになる。



概要

東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授とYuanyuan Hua氏(中国地質大学 博士学生)、豊国源知助教(同センター)、および浙江大学のYixian Xu教授は、東北地方太平洋沖地震の震源域の3次元構造を調査し、この大地震の破壊は、深い側の硬い岩石と浅い側の柔らかい岩石との構造境界から開始したことを明らかにしました。浅い側の比較的に柔らかい岩石は太平洋プレートが沈み込む日本海溝にまで続いており、このような柔らかい岩石では破壊を止めることができず、海溝近傍まで大きなすべりが及び、大津波が発生したと考えられます。海溝まで大すべりが及んだ原因はこれまで謎であり、今回の研究結果がプレート境界域の巨大地震発生メカニズムを明らかにするための重要な手がかりになると考えられます。

この研究成果は、2020年3月3日19時(日本時間)に英科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明

東北地方太平洋沖地震(マグニチュードMw9.0、以下、東北沖地震)は、日本の観測史上最大規模の地震でした(図1)。これは日本海溝から沈み込む太平洋プレートと、その上に乗ったオホーツクプレート(または北米プレート)との境界で発生したプレート境界型の巨大地震です。本震の地震動とそれに伴う大津波、および、その後の余震は東北から関東にかけての東日本一帯に甚大な被害をもたらしました。これまで世界の多くの研究者が、この地震の発生メカニズムについて研究してきましたが、依然として多くの不明な点が残されています。

中でも大きな謎として、日本海溝付近で、なぜ地震時に大きなすべりが発生したか、という疑問があります。海溝付近には柔らかい堆積物等が多いので、大きなすべりを発生させるのに必要なひずみを溜めにくいとこれまでは考えられていたからです。最近は、沈み込む太平洋プレートと、上に乗ったオホーツクプレートの岩石組成が、プレート境界に沿って非常に不均質で、このような不均質が巨大地震の発生様式をコントロールしている可能性が高いことが、様々な研究で指摘されるようになりました。海溝付近の構造を調べるためには、海底地震計による海域下の稠密な地震観測が不可欠ですが、これまでは設置点数がまばらで、海溝軸付近の地下構造まで高分解能で調べた研究はありませんでした。ところが2016年から、防災科学技術研究所の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)によって、海底ケーブル内に設置された150点の地震計の運用が始まり、2018年10月にデータが一般にも供されるようになりました(図1)。

今回、趙大鵬教授の研究グループは、地下構造を画像化する「地震波トモグラフィー法」(注1)を用いて、S-netによる最新の海底地震観測データと、東日本の陸域に設置された高密度の地震観測網のデータを解析し、東北沖地震の震源域周辺の3次元P波速度構造(注2)を、海溝付近まで高分解能で求めることに成功しました。研究に使った観測点分布は図1に、震源分布は図2に示しています。従来のトモグラフィーの結果に比べて、本研究では海溝軸に沿った南北方向の構造不均質のみでなく、海溝軸に直交する東西方向に沿った、プレート境界面上の深さ方向の構造変化もより詳細に明らかにしました。図3は本研究で求められたプレート境界面上の構造不均質と、他の様々なデータとを比較したものです。構造不均質は、平均よりも地震波速度が速い岩石(≒硬い岩石)が分布する場所を青色、地震波速度が遅い岩石(≒柔らかい岩石)が分布する場所を赤色で示しています。

本研究の結果、以下のことが明らかとなりました。

① 東北沖地震で最初に破壊が開始した場所は、プレート境界面上の深い側に硬い岩石、浅い側に柔らかい岩石が分布する境界域だったことがわかりました。また浅い側の柔らかい岩石は、海溝付近まで続いていることも明らかとなりました。このような領域のため、一旦破壊が開始すると、柔らかい岩石は海溝に至るまですべりを止めることができず、海溝付近の非常に浅い場所でも大きなすべりが発生したものと考えられます。

② 地震時に強震動が生成された場所や、高周波のP波が生成された場所は、硬い岩石が分布する場所に対応しています(図3b)。また過去のプレート境界型の大地震も、硬い岩石が分布する場所で発生していたことがわかりました(図3c)。一方で、巨大地震の前に発生したスロー地震や、超低周波地震といった特殊な地震は、柔らかい岩石が分布する場所で発生しており、岩石の分布と地震の発生様式が、よく対応していることは明らかとなりました。

以上のような特徴から、本研究ではプレート境界面上での地震発生様式と岩石の硬さ分布とを対応付ける図4のようなモデルを提唱しました。このモデルは、これまでに蓄積されている様々な観測事実や研究成果を統一的に説明できるもので、謎の多いプレート境界型の巨大地震の発生機構を解明していくための重要な一歩となると考えられます。



論文情報

雑誌名: Nature Communications
論文タイトル:Tomography of the source zone of the great 2011 Tohoku earthquake
著者: Yuanyuan Hua, Dapeng Zhao, Genti Toyokuni, Yixian Xu
DOI番号:10.1038/s41467-020-14745-8



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図1. 本研究で用いた地震観測点の分布図。はHi-net、はS-netの観測点。ビーチボールで示された断層面解(注3)は、赤色:2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震、Mw 9.0)、ピンク色:1917〜2017年に発生した地震(M ≥ 7)、黒色:2011年3月9日に発生した東北沖地震の前震(M 7.3)、紫色:2011年3月11日に発生した東北沖地震の余震(M ≥ 7.5)。黒線は日本海溝。右下のパネルは、日本列島とその周辺域にあるプレートの配置。青枠が本研究領域。は活火山、は東北沖地震の震央。


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図2. 本研究の解析で用いた微小地震の分布図。中央のパネルが平面図、右と下のパネルが、それぞれ南北断面と東西断面を示す。はHi-netで観測された地震、はS-netで観測された地震。は活火山、は2011年東北沖巨大地震の震央。


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図3. 本研究による東北沖地震(Mw 9.0)震源域のP波速度分布。沈み込む太平洋プレート上面に沿った速度構造を示す。平均よりも高速度は青色、低速度は赤色。カラースケールは図の下部。は東北沖地震の震源。(a) 地震後の余効すべりとの比較。2012年9月~2016年5月におけるすべり量と方向を矢印で示した。(b) 地震時の強震動生成域(□)、地震時のP波の高周波震動生成域()、巨大地震前のスロー地震のすべり域()との比較。短い黒線は海溝軸に平行に走る正断層。(c) 東北沖地震時のすべり域(赤太線のコンター)や、1900~2011年に発生した他のM7以上の地震の震央(★)とすべり域(★と同じ色のコンター)との比較。(d) 微動()と超低周波地震()の震央との比較。白い実線は前弧セグメントの境界。


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図4. 本研究による東北沖地震震源域の構造の模式図。トモグラフィー結果に基づく高速度域(High-V)を青色、低速度域(Low-V)をオレンジ色で示す。は東北沖地震(Mw 9.0)の震源。は他のプレート境界型大地震(M7以上)。赤色破線(-----)は東北沖地震の本震のすべり域。灰色破線(-----)は超低周波地震(VLFE)が発生する領域。青色実線は前弧セグメントの境界。SSEはスロー地震。



用語解説

(注1)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。地震波トモグラフィーは、現在地球内部構造の3次元画像を得る最も有力な手段となっています。


(注2)3次元P波速度構造
地震波速度とは地震波が地球の中を伝わる速さのことです。地震波には、性質の違うP波とS波があります。地震波速度は場所によって異なり、だいたい地中深くなるほど速くなります。地球内部構造を表すには幾つかの物理量(例えば、密度、温度など)を使うことができますが、現在は地球内部における地震波速度の空間分布が最もよく用いられています。また、地震波トモグラフィー法を使って、地球内部におけるP波(あるいはS波)速度の3次元分布を推定でき、得られた結果は3次元P波(あるいはS波)速度構造と言います。地震波速度の分布から、地球内部の密度、温度、強度などに関する情報も得られるため、P波(あるいはS波)速度の空間分布を使って、地球内部構造を表します。


(注3)断層面解
ある断層の破壊で地震を起こした際における、地下での断層の位置や方向、地震の際の断層の動きのことです。発震機構解あるいは地震メカニズム解とも呼ばれています。しばしばビーチボールのようなマークで表されます。


本研究はJSPS科研費(基盤研究(B) 課題番号19H01996)の支援を受けて行われました。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙大鵬(ちょうたいほう)
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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