東北大学 大学院理学研究科・理学部

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巨大ガス惑星の新たな形成モデルを提唱 太陽系外巨大惑星の落下問題解決と質量分布再現に成功

発表のポイント

● 巨大ガス惑星(注1)の質量や軌道の分布を説明する新たな形成モデルを、惑星形成現場の最新数値流体計算に基づいて提唱。

● 巨大ガス惑星の成長と落下は普遍的な進化経路をたどることを発見。同時に従来問題であった惑星落下(注2)を解決した。

● 観測されている原始惑星系円盤(注3)環境の下で系外巨大ガス惑星の質量分布を再現することに成功。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

これまで数千個の太陽系外の惑星(注4)が発見されましたが、系外巨大ガス惑星の質量や軌道の分布を説明することは未だできていませんでした。また、巨大ガス惑星は原始惑星系円盤という若い恒星の回りにあるガス円盤の中でガスを大量に集積してできたとされていますが、この原始惑星系円盤から受ける抵抗によって巨大ガス惑星は急速に恒星へ落下してしまうことが指摘されおり大問題となっていました。

東北大学大学院理学研究科の田中秀和教授を中心とした研究グループは、数値流体計算に基づいた巨大ガス惑星形成の正確な理論モデルを新たに構築することで、この問題を解決しました。新たな巨大惑星形成モデルにより、巨大ガス惑星の落下と成長は原始惑星系円盤の環境に依らない進化経路をたどること、またその際の惑星の落下は十分抑制されることが明らかになりました(図1)。巨大ガス惑星の最終的な質量は原始惑星円盤の総質量で決まります。この形成モデルは、観測されている原始惑星系円盤から整合的に系外巨大惑星の質量分布を再現することにも成功しました(図2)。

本研究成果をまとめた論文は、2020年3月13日付けで『The Astrophysical Journal』電子版に掲載されました。



詳細な説明

数千個の太陽系外の惑星が発見され、系外惑星の特に巨大ガス惑星の質量や軌道の分布が明らかになってきましたが、これらの分布がどのようにしてつくられたのかについては分かっていませんでした。系外惑星や太陽系の惑星の起源としては若い恒星の回りに通常存在する原始惑星系円盤というガス円盤の中でつくられたとする説が有力です。木星やさらに木星の十倍以上も重い系外巨大ガス惑星は強い重力で原始惑星系円盤のガスを大量に集め成長したものだと考えられています。しかし、ガスを集積するのと同時に巨大ガス惑星は原始惑星系円盤から抵抗も受けて惑星は恒星へと急速に落下してしまうことが多くの研究者によって指摘され、それが深刻な問題となっていました。系外惑星の木星質量を大きく越えるものは、この落下を考慮すると全く説明できませんでした。

今回東北大学の田中秀和教授を中心とした研究グループは、巨大ガス惑星の成長と落下についての新たな理論モデルを、最新の数値流体計算に基づき構築しました。この新たな巨大ガス惑星形成モデルにより、成長と落下の進化経路は原始惑星系円盤の状態には依存しない普遍的なものになることと惑星落下は十分抑制され、もはや問題とならないことが明らかになりました(図1)。惑星落下が抑制されたのは、惑星が周囲のガスを集積することでガス密度が低下し惑星が受ける抵抗も大幅に減少するためでした。従来は惑星へのガス集積と落下は別々に研究されていたため、このように両者に関係した惑星落下の抑制効果は見落とされていました。この落下抑制効果により新たな惑星形成モデルでは木星の十倍以上も重い系外巨大ガス惑星を落下させずにつくることも可能になります。一方、成長がいつ停止して惑星の最終質量がどの程度になるかは原始惑星系円盤の総質量によって決まります。新たな惑星形成モデルは、観測されている個々の原始惑星系円盤の総質量から整合的に系外巨大惑星の質量分布を再現することにも成功しました(図2)。

このように本研究の惑星形成モデルは系外惑星の中の巨大ガス惑星の形成をうまく説明するものです。今後は理論モデルをさらに発展させることで、地球程度の大きさをもち生命居住可能な系外惑星の形成モデルを構築することが目標となっています。



論文情報

雑誌名: The Astrophysical Journal
論文タイトル:Final Masses of Giant Planets III: Effect of Photoevapolation and a New Planetary Migration Model
著者:Hidekazu Tanaka, Kiyoka Murase, Takayuki Tanigawa
DOI番号:10.3847/1538-4357/ab77af
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab77af



参考図

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図1:惑星質量と惑星軌道半径の進化経路の図。実線は本研究の結果で、破線は従来研究の1例。青点は観測された系外巨大惑星で、緑は木星、赤は土星を表す。従来研究の進化経路では急速な惑星落下のため重い巨大惑星をつくれない。本研究の進化経路であればすべての系外惑星を形成可能である。


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図2:本研究のモデルで系外惑星を再現するガス円盤(原始惑星系円盤)の質量分布と観測されたガス円盤の質量分布の比較。恒星質量の0.01倍以上では両者の質量分布の形はよく一致しており、これは観測された原始惑星系円盤から系外巨大惑星を再現できることを示している。恒星質量の0.01倍以下のガス円盤では巨大惑星は形成されない。



用語説明

(注1)巨大ガス惑星
太陽系の木星や土星のように、水素やヘリウムからなるガスを主成分とした巨大な惑星。地球の百倍から数千倍の質量をもち、中心には岩石や氷からなる固体核をもつと考えられている。

(注2)惑星落下問題
惑星は原始惑星系円盤という若い恒星の回りにあるガス円盤の中で形成されたと考えられているが、この原始惑星系円盤から受ける重力的な抵抗によって惑星は急速に恒星へ落下することが指摘されている。惑星形成の研究において最も深刻な問題の1つとされている。本研究で巨大ガス惑星に対する落下問題は解決した。

(注3)原始惑星系円盤
誕生したばかりの若い恒星のまわりに普遍的に存在する主に水素からなるガスや塵でできた回転する円盤。この円盤の中で惑星が形成されたと考えられているため原始惑星系円盤と呼ばれている。円盤の寿命は1千万年程度で巨大ガス惑星はその間につくる必要がある。最近ではすばる望遠鏡やチリにあるアルマ望遠鏡により原始惑星系円盤の高解像度な画像が得られるようになり、多くの研究者がその画像から惑星形成過程の情報を得ようとしている。

(注4)太陽系外惑星(または系外惑星)
太陽以外の恒星のまわりを周回する惑星。1995年に初めて他の恒星のまわりで発見されてから様々な観測方法により数千個の系外惑星が見つかっている。ホットジュピターとよばれる恒星のごく近くを周回する巨大惑星や、エキセントリックプラネットという彗星のような細長い楕円軌道をもつ惑星など、太陽系の惑星とは全く異なる惑星も数多く存在することが明らかになった。地球程度の大きさでかつ地球と似た温度環境をもち生命居住可能であるハビタブルプラネットの候補も20個以上見つかっている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
教授 田中 秀和(たなか ひでかず)
電話:022-795-6504
E-mail:hidekazu[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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