東北大学 大学院理学研究科・理学部

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高強度超短光パルスによる光高調波発生の新しい仕組みを解明 ―トポロジカルな"ひねり"が拓くアト秒サイエンス―

発表のポイント

● 固体に光をあてることで、高調波と呼ばれる高いエネルギーの光が放射される新しい仕組みを解明

● これまで高調波の起源は固体中の電子の運動と考えられていたが、トポロジカルな"ひねり"が電子の代わりとなることを発見

● 次世代のアト秒サイエンス分野への貢献が期待

□ 東北大学ウェブサイト

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図:トポロジカルな"ひねり"による新しい光高調波発生の時空間イメージ


概要

東北大学大学院理学研究科物理学専攻の石原純夫教授らの研究グループは、固体に強いレーザーをあてると、波長が変換された時間幅の短い、高調波と呼ばれる光が放射される新しい機構を理論計算シミュレーションにより示すことに成功しました。

本研究の成果は、2020年4月16日(米国東部時間)オンライン版に公開、4月17日発行の米国物理学会誌Physical Review Lettersに受理され、エディター推薦論文として選ばれました。



詳細な説明

レーザーは現代の日常生活に欠くことのできない技術で、医療、情報通信、工業的利用など多くの分野で活躍しています。レーザーの大きな特徴は、光の色に相当する波長が揃っていること、レーザーポインタなどで知られるように指向性が良いこと、パルスとして利用することで強い強度と短い時間幅が実現することなどが挙げられます。近年のレーザー技術の発展には目覚ましいものがあり、「高強度超短光パルスの生成方法」の業績を上げた二人の研究者に、2018年のノーベル賞が贈られています。このような強い強度のレーザーを積極的に利用する代表的現象として、次のような高次高調波発生(High harmonic generation, 以下HHG)と呼ばれる現象が知られています。原子、プラズマや固体などの試料に一定の波長のレーザーをあてると、入射レーザーの波長の整数分の一の波長をもつ光が放射され、これは高調波と呼ばれます。特徴的なのは放射されるレーザー光の時間幅が大変短く、数百アト秒(およそ一京分の一秒)に及ぶことです。この技術を利用することでアト秒サイエンスと呼ばれる超高速の次世代の科学技術分野が開けることが期待されています。

東北大学大学院理学研究科物理学専攻の石原純夫教授と今井渉平(博士課程後期3年)、小野淳助教は、強相関電子系(注1)と呼ばれる電子間に強い相互作用の働く固体において、新しいHHGの機構が存在することを理論計算シミュレーションにより示すことに成功しました。

固体におけるHHGを担うのは、レーザーにより駆動された電子の運動であるとこれまで考えられ、強い強度のレーザーにより電子が本来の位置から無理やり引き離されて運動し、再度元の位置に戻るときに高調波が発生するものと理解されてきました。本研究では、強相関電子系と呼ばれる固体において、電子が運動しなくても高調波が発生することが明らかになりました。そこではキンクと呼ばれる、固体の中でだけ粒子のように振る舞うトポロジカル(注2)な"ひねり"(準粒子)が電子の代わりに運動し、これにより高い次数の高調波が発生することが計算により明らかになりました。

強相関電子系と呼ばれる固体では、様々な準粒子やトポロジカル状態が存在することがこれまでにもわかっています。またそれらは、レーザーだけでなく、電場、磁場、圧力、温度変化などの様々な方法により操作が可能であることも知られています。本研究を契機に、HHGに利用できる対象物質が広がると同時に、HHGが複数の操作方法を組み合わせた複合的技術として発展し、将来のアト秒サイエンスの一つの指針を与えることが期待されます。

本研究成果は、JSPS科研費「軌道物理としての励起子絶縁体の電子状態の解明」研究代表者:石原純夫、「遍歴磁性体における光誘起スピンダイナミクスの理論」研究代表者:小野淳、ならびに「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」研究代表者:腰原伸也(東京工業大学理工学研究科教授)によって得られたものです。



論文情報

雑誌名:Physical Review Letters (Editors' Suggestion)(フィジカル・レヴュー・レターズ (エディター推薦))
論文タイトル:High Harmonic Generation in a Correlated Electron System(強相関電子系における高次高調波発生)
著者:Shohei Imai, Atsushi Ono, and Sumio Ishihara(今井渉平、小野淳、石原純夫)
DOI番号:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.124.157404
URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.124.157404



参考図

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図:トポロジカルな"ひねり"(キンク、反キンク)の運動により誘起されるHHGの模式図。上下の矢印は電子密度の偏りを表す。



用語説明

(注1)強相関電子系
固体中の電子間に強い相互作用が働く物質は強相関電子系と呼ばれます。代表的な物質として銅酸化物超伝導などの金属酸化物やある種の有機化合物が挙げられます。特異な超伝導、磁性、相転移など、相互作用の弱いシリコンや金などでは見られない多彩で新奇な現象が見られます。強い相互作用のために理論計算による予測や再現が難しく、その解析にはスーパー・コンピュータなどを用いた大規模なシミュレーションが必要となります。

(注2)トポロジー
図形や物の配列において、それらを連続に変形しても変わらない性質を取り扱う数学はトポロジーと呼ばれています。コーヒーカップとドーナツの形を比較したとき、それぞれは大きく異なりますが「穴が一つ空いている」という点に着目すると、同じトポロジーの性質を持っている図形に分類できます。2016年のノーベル物理学賞は「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」の業績を上げた3名の理論物理学者に贈られました。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
教授 石原 純夫(いしはら すみお)
E-mail:ishihara[at]cmpt.phys.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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