東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

混ぜるだけ!発想を変えた新しい有機蓄電池の開発 〜導電助剤なしで導電性をリレーし高性能化を実現〜

発表のポイント

● 安価・安全・高容量・高出力な新しい水系有機蓄電池システムを考案

● 絶縁性有機材料に複数の導電機構を組み合わせ蓄電池反応に利用

● 従来の蓄電池に必須な電極の導電助剤注1が不要になることから、蓄電池の実質的な高容量化が可能に

● 材料の多様な組合せが可能であり、有機蓄電池の更なる高性能化や低価格化が期待

□ 東北大学ウェブサイト



概要

有機蓄電池は、低環境負荷・安価・高容量が期待できる次世代蓄電池として世界的に研究が進められています。東北大学多元物質科学研究所の小林弘明 助教らは、導電助剤を全く用いない高容量な有機蓄電池システムを考案・実証しました。

有機材料は導電性が低いため、大量の導電助剤を必要とすることから、実質的な容量が小さくなる課題があります。本研究では、二つの有機分子材料を混ぜることで導電性が現れる電荷移動現象注2と、充放電時の導電性有機ラジカル塩注3生成機構を組み合わせた「導電性リレー機構」を考案し、導電助剤フリーで繰り返し充放電が可能な有機蓄電池の開発に成功しました。絶縁性のため利用できなかった多彩な有機材料への応用により、有機蓄電池の更なる高性能化が期待できます。

本研究成果は主に、「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」により得られ、5月15日付で、アメリカ化学会が刊行する材料化学専門誌「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン版に公開されました。



研究の背景と経緯

リチウムイオン電池などの蓄電池はポータブル機器の電源や定置用電源として幅広く普及しています。今後益々の需要増に伴い、蓄電池の低コスト化・高安全・高容量・高出力など更なる高性能化が求められています。蓄電池の電極材料の候補材料として、炭素、窒素、酸素、水素などの軽い元素のみから成る有機材料が近年注目されています。現行の蓄電池の正極に使用されている、コバルトなどの重い金属元素を用いた酸化物材料と比べ、有機材料は環境負荷が小さく、資源的に豊富であり、化学修飾が容易で多彩な材料設計が可能です。また、コバルトなどの金属元素と比べて軽く、重量当たりのエネルギー密度を大きくすることができます。しかし、これら有機材料の多くは導電性が無く、絶縁性を示します。電極の導電性は電池の内部抵抗を下げるために必須であり、有機材料を電極に用いる場合、導電性を向上させるために大量の導電助剤が必要になります。そのため、電極中に占める有機材料の割合が下がり、電池の実質的なエネルギー密度が下がるという課題を抱えています。

比較的高い導電性を示す有機半導体材料としては、導電性ポリマー、電荷移動錯体、有機ラジカル塩などが知られています。ポリアセチレン、ポリアニリンなどの導電性ポリマーは良好な蓄電池電極特性を発揮し、また必要とされる導電助剤の量も少なく、一部実用化もされていますが、一方でポリマー化による骨格構造の制限や合成の煩雑化が問題となります。電荷移動錯体や有機ラジカル塩は低分子かつ多彩な材料設計が可能ですが、充放電によって電子状態が変化する際に導電性が低下するため可逆性に乏しく、実用化に大きな課題があります。



研究の内容

本研究では、多彩な導電性有機低分子材料群に着目し、充放電過程で導電性を担う有機材料が代わることで電極の導電性を保つ「導電性リレー機構」を考案しました(図1)。今回の研究では、有機分子材料であるテトラチアフルバレン(TTF)とテトラシアノキノジメタン(TCNQ)を混合した電極と、臭化ナトリウム(NaBr)水溶液(電解液)を組み合わせることで、導電助剤フリーかつ充電・放電時間が10分程の高速充放電が繰り返し可能であることを見出しました。

TTFとTCNQは混合することで粒子表面で電荷移動が起こり、表面で導電性を示します(図2)。また、TTFと臭化物イオン、TCNQとナトリウムイオンはそれぞれ有機ラジカル塩((TTF)Brn、NaTCNQ、0.7 ≤ n ≤ 0.8)を形成することが知られており、これらはTTFやTCNQと比べ高い導電性を示します。これら電荷移動現象と有機ラジカル塩を行き来することで、充放電による電子状態の変化に対しても電極の導電性を保つことが可能になります(図1)。今回の系では、TTFとTCNQの接触表面および(TTF)Brnが金属に匹敵する高い導電性を示すため、導電助剤フリーでの高速充放電が可能となりました。



今後の展開

TTFとTCNQは電荷移動錯体を形成することが知られていますが、本電池系では電荷移動錯体電極よりもTTFとTCNQの混合電極の方が高い特性を示しました。これは、粒子接触表面のみで電荷移動が起こる組み合わせであれば、電荷移動錯体を形成しない有機分子の多彩な組合せや多様な混合比でも応用が可能であることを示唆しています。「導電性リレー機構」では、低導電性のため利用できなかった多彩な有機材料群に、充放電に耐えられる高い導電性を容易に付与することができ、幅広い有機材料開拓が可能になるため、有機蓄電池の更なる高性能化が期待されます。



参考図

20200518_10.jpg

図1:有機分子材料表面での電荷移動を用いた導電性電極と 充放電反応の導電性リレー機構の模式図。


20200518_20.jpg

図2: (左)TTF結晶、(中)TCNQ結晶、(右)TTFとTCNQを乳鉢で20分混合した粒子。表面での電荷移動により導電性が発現し黒色を示す。



論文情報

タイトル:Electrical Conductivity-Relay between Organic Charge-Transfer and Radical Salts toward Conductive Additive-Free Rechargeable Battery
著者:Yui Fujihara, Hiroaki Kobayashi, Shinya Takaishi, Takaaki Tomai, Masahiro Yamashita, Itaru Honma
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
DOI:10.1021/acsami.0c03642



研究チーム

東北大学多元物質科学研究所 小林弘明 助教、笘居高明 准教授、本間格 教授 、
東北大学大学院理学研究科 藤原優衣 博士前期課程 (当時)、高石慎也 准教授、山下正廣 名誉教授



用語説明

(注1)導電助剤
蓄電池の電極の抵抗を低減するために使用する材料。カーボンブラックなどの炭素材料が主に使用される。蓄電池の電極はエネルギーを取り出す活物質と導電助剤、およびこれらを結着させるための結着剤から構成される。

(注2)電荷移動現象
二種類の分子(電子を与えるドナー、電子を受け取るアクセプター)間で電子の授受が起こる現象。二種類の分子が一つの結晶を形成することで起こる電荷移動錯体と、二種類の粒子の接触表面で電荷移動が起こる表面電荷移動の二種類の電荷移動現象が報告されている。

(注3)有機ラジカル塩
有機分子がハロゲンや金属イオンなどの小さいイオンと共に結晶化した塩。金属に匹敵する導電性を示すものや一部には超伝導を示すものも報告されている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻
准教授 高石 慎也(たかいし しんや)
E-mail:shinya.takaishi.d8[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る