東北大学 大学院理学研究科・理学部

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史上最大の生物の大量絶滅の原因を特定 地下の炭化水素の高温燃焼が気候変動を起し大量絶滅を起こした

発表のポイント

● 「ペルム紀末の大量絶滅の原因は大規模火山噴火」を確かにした。

● それは炭化水素の高温燃焼の証拠をとらえたことから言えた。

● 炭化水素の高温燃焼は温室効果ガスの大量発生を起こし、地球温暖化が起きて陸上から植物が消え、90%以上の動物の種が絶滅した。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地球史上最大の絶滅事象とされるペルム紀末の大量絶滅の原因はこれまで確定していませんでした。東北大学大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授)らの研究グループは、新しく開発した指標により、同大量絶滅とその前に起きた陸上生態系崩壊の原因は大規模火山噴火であるとしました。陸の生態系の方が、海の生態系よりも、小規模の地球環境変化で崩壊することも示しています。水銀の濃集を証拠に大規模火山噴火説が主張されて来ましたが、水銀は生態系崩壊によっても供給されるため、不完全な証拠と言われています。海保名誉教授らは、中国とイタリアのペルム紀末の地層を化学分析し、通常の森林火災より高温の火山活動等で生成される燃焼有機分子コロネンの濃集と、水銀濃集と、絶滅が同時に起きたことを世界で初めて発見し、ペルム紀末の大量絶滅の原因は大規模火山噴火であると結論づけました。地下の堆積岩中の炭化水素がマグマの熱で燃焼し、CO2などの温室効果ガスを発生しその圧力で噴火を起こし、大気中の温室効果ガス濃度が上昇し、地球温暖化が進行し、大量絶滅に至ったことを証拠立てました。本研究の成果は、米国地質学会発行の「Geology」2021年3月号に掲載されるのに先立ち、11月4日付電子版に掲載されました。



詳細な説明

地球上に各種の多細胞生物が出現して以来の過去6億年間で最大の生物の危機が起きたのは、約2億5000万年前でした。90%以上の真核生物の種が絶滅し、地球環境は一変しました。その環境激変と絶滅の原因の研究が世界中で活発に行なわれており、シベリア東部のバイカル湖の北に広がる直径約2000kmの火山岩地域での火山活動が有力な原因と考えられています。証拠は、シベリアの火山岩の放射年代と中国の大量絶滅を記録した地層の放射年代が一致したことと、火山噴火により供給される水銀の濃集がその地層で見つかったことです。しかし、前者は誤差があって正確に同時と言えません。後者の水銀は、生物に濃集しているので、原因にかかわらず陸上生態系崩壊が起きれば土壌や死んだ植物から供給されるので、不確かです。海保教授(当時)らは、中国とイタリアの当時の浅海で堆積した岩石を採取し、水銀の分析と堆積有機分子(注1)の分析をしました。その結果、6環の芳香族炭化水素のコロネン(注2)という有機分子の濃集を大量絶滅を記録した地層とその下と上の地層で見つけました。最初の2回の濃集は水銀の濃集と同時で、2回目が最大でした。そして、2回とも陸上植物の海への流出事件を示す有機分子指標のピークとその後の急減と言う変化と一致しました(陸上植生崩壊を示します)。1回目で陸の植物の絶滅、2回目で海の動物の絶滅も起きました。2つの事件の間隔は数万年です。コロネンは図1の化学式の炭化水素分子で、有機物の燃焼により生成しますが、分子量が同じかより小さい同類の分子より、生成するのにより大きな熱エネルギーを必要とします。海保教授らの別の研究でコロネンの濃集は大量絶滅時でのみ見つかっているため、その熱源は、高温マグマと小惑星・彗星衝突であるとしています。ペルム紀末の場合は高温マグマです。図1にあるような水平方向のマグマの堆積岩への貫入により加熱された堆積岩から気候を制御するガスが生成されると言われていましたが、その証拠は、水平方向の貫入岩の発達のみでした。今回、通常の森林火災では生成しないコロネンの濃集を大量絶滅を記録した3つの地層から見つけました。それらの地層は約千kmと約1万km離れていて、コロネンー水銀―絶滅の同時発生はグローバル現象であると言えます。最大の生物の危機の原因は、シベリア火山大規模噴火であることがより確実になりました。また、この研究は、陸上生態系崩壊は海の生態系崩壊よりも、より小さな気候変化で起きることも示しています。



今後の展望

この研究で使用したコロネンと水銀の指標の同調性が"大規模火山噴火燃焼事件"を示す事を使って、他の時代の大量絶滅の原因が近々明らかになるでしょう。私たちのコロネン指標は、世界で初めての有機分子の火山噴火指標で、遠く離れた場所で過去の大規模火山噴火の証拠を捉えるために使えると査読者から評価されています。



論文情報

雑誌名: Geology
論文タイトル: Pulsed volcanic combustion events coincident with the end-Permian terrestrial disturbance and the following global crisis.
著者:Kunio Kaiho, Md. Aftabuzzaman, David S. Jones, and Li Tian.
DOI番号:doi.org/10.1130/G48022.1
URL:https://doi.org/10.1130/G48022.1 (オープンアクセス:無料で論文を入手できます。)



参考図

202011_10.jpg

図1:ペルム紀末大量絶滅の原因(© Kunio Kaiho)



用語説明

(注1)堆積有機分子
生物が死後に堆積物中に残す有機分子と燃焼と熟成により生成する芳香族炭化水素の総称。前者は、安定な形に変化して保存されることが多い。粉末化した堆積岩から有機溶媒で抽出し、質量分析器で分子レベルで定量できる。

(注2)コロネンの化学構造:202011_20.jpg
普通の堆積岩には含まれる割合は小さい。生成に高温が必要なため。平均的な森林火災の温度より高い温度が必要。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
電話:022-394-3931
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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