東北大学 大学院理学研究科・理学部

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グリーンランドの地下深くに隠されていた「熱い流れ」 ―北極域の火山活動や氷床底部融解の根源となるホットプルームを発見―

発表のポイント

● グリーンランド、アイスランドを中心とした北極地域の下の全地殻・マントル構造を、世界で初めて高分解能で明らかにした。

● グリーンランド直下の核-マントル境界から上昇する熱い岩石の流れ(=ホットプルーム)を発見し、「グリーンランドプルーム」と命名。

● 大西洋中央海嶺に沿った火山・地熱活動や、グリーンランド氷床の特異な底部融解のメカニズムを統一的に説明。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

グリーンランドとその周辺地域では様々な地球科学的活動が起きていますが、氷床上での観測の難しさから、地下構造を調べるための地震観測は長らく行われていませんでした。

東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの豊国源知助教、修士学生の松野貴也氏(現:三菱ガス化学)、趙大鵬教授の研究グループは、11ヵ国共同での「グリーンランド氷床モニタリング観測網」に参加して氷床上に地震計を設置し、得られたデータの解析によって、グリーンランドとその周辺地域の地殻からマントル最深部までの3次元地下構造を明らかにしました。

その結果、グリーンランド直下に、核-マントル境界からマントル遷移層まで上昇する熱い岩石の流れ「グリーンランドプルーム」を発見・命名しました。さらにそれが、大西洋中央海嶺に沿って分布する活火山や地熱地帯への熱の供給源であることを明らかにしました。また氷床が底部で大規模に融解している特異な地域の成因を突き止めました。

本成果は、米科学誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に12月5日に二連の論文としてオンライン掲載されました。



詳細な説明

北極圏に位置するグリーンランドは、島の80%が氷床と呼ばれる厚い氷に覆われています。氷床底部には大規模に氷が融解している地域があり、海面上昇への影響が指摘されていますが、融解の原因はよくわかっていませんでした。またグリーンランドの東側にはプレートが生み出されている大西洋中央海嶺があり、それに沿ってアイスランドやヤンマイエン島の活火山や、スバールバル諸島の地熱地帯が分布しています(図1)。アイスランドやヤンマイエン島の火山は、それぞれアイスランドプルーム、ヤンマイエンプルームと呼ばれるホットプルームによって形成されていることが知られています。特にアイスランドの火山活動は激しく、噴火した場合には航空機の運航を長期間麻痺させることがあります。このようにグリーンランドとその周辺地域は、我々に影響を及ぼす様々な地球科学的活動が起きていますが、氷床上での観測の難しさから、地下構造を調べるための地震観測は長らく行われていませんでした。

2009年に11ヵ国の共同で「グリーンランド氷床モニタリング観測網(GLISN)」と呼ばれる地震観測計画が発足しました(図1)。特に日米合同観測隊は、最も過酷な作業である氷床上の観測点3点の新設とメンテナンスを担っています。観測網全体で氷床上には4点しか地震計がないことから、我が国の寄与は非常に大きいと言えます。隊員数は米国隊、日本隊それぞれ1~数名という小規模なものですが、2011年から2018年まで毎年観測隊を組織し、観測点の維持を続けてきました。豊国助教も隊員として全観測に参加しました。

今回、豊国助教らの研究グループは、GLISN観測網で得られた大量の地震波の到着時刻データを「地震波トモグラフィー法(注1)」と呼ばれる手法で解析し、グリーンランドとその周辺地域の地下構造を詳細に調べました。その結果、以下のような新知見を得ました:

① グリーンランド直下の核-マントル境界(深さ2900 km)からマントル遷移層の底(深さ660 km)まで上昇するホットプルームを発見し、「グリーンランドプルーム」と命名しました(図2, 3)。

② ヤンマイエンプルームが、上部マントルにおけるグリーンランドプルームの支流であることを明らかにしました(図2d, 3)。

③ スバールバル諸島西部直下の上部マントルにホットプルームを発見し、「スバールバルプルーム」と命名しました。またこれがグリーンランドプルームの支流であることを明らかにしました(図2e, 3)。この発見により、従来謎であったこの地域の高い地熱の原因が判明しました。

④ スバールバル諸島南部の上部マントルに、大規模な冷たい岩体を発見しました。これによりグリーンランドプルームの流れが一部遮られ、スバールバル諸島には火山ができなかったと考えられます(図2e, 3, 4)。

⑤ アイスランドプルームは、グリーンランドプルームと2箇所、西ヨーロッパの別のプルームと1箇所で繋がっていることが判明しました。熱いマントル物質の供給ルートが複数存在するせいで、アイスランドには周辺の他の地域に比べて圧倒的多数の火山が存在するものと思われます(図3)。

⑥ グリーンランド氷床直下の地殻内に、グリーンランドを乗せたプレートが過去(8~2千万年前)にアイスランドプルームの上を通過したことに伴う熱軌跡に対応する低速度域を見いだしました。類似した特徴は先行研究でも指摘されていましたが、本研究で初めて、低速度域が地殻内の高温域と一致することが確かめられ、熱軌跡であることが明確となりました(図4)。さらに本研究では、これまで未知であったヤンマイエンプルームの熱軌跡も発見しました。

⑦ グリーンランド氷床が底部で大規模に融けている地域は、⑥の2つの熱軌跡の交点に位置していることがわかりました(図4)。交点では他の地域よりも地殻の温度が上昇していると考えられます。これは従来謎であった氷床底部融解のメカニズムを初めて説明する概念で、氷床融解や全地球海面上昇の予測にも大きく寄与すると考えられます。

このようにグリーンランドと周辺地域の熱的活動は、グリーンランドプルームとその支流の活動によって統一的に説明できると考えられます。本研究の成果により、今後この地域の熱的活動の理解が大幅に進展すると期待されます。

本研究は文科省科研費(課題番号15K17742, 18K03794, 23224012, 26282105, 26241010)の支援を受けて行われました。GLISN観測の日本隊は海洋研究開発機構の坪井誠司博士、国立極地研究所の金尾政紀准教授、東京大学地震研究所の東野陽子博士と、東北大学の豊国源知助教からなり、その活動は文科省科研費(課題番号24403006)の支援を受けました。



用語解説

(注1)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。周囲よりも高速度の地域を青色、低速度の地域を赤色で示します。高速度域は低温で硬い岩石、低速度域は高温で柔らかい岩石に対応します。



論文情報1

雑誌名:Journal of Geophysical Research: Solid Earth

論文タイトル:P wave tomography beneath Greenland and surrounding regions: 1. Crust and upper mantle

著者:Genti Toyokuni, Takaya Matsuno, Dapeng Zhao

URL:http://dx.doi.org/10.1029/2020JB019837



論文情報2

雑誌名:Journal of Geophysical Research: Solid Earth

論文タイトル:P wave tomography beneath Greenland and surrounding regions: 2. Lower mantle

著者:Genti Toyokuni, Takaya Matsuno, Dapeng Zhao

URL:http://dx.doi.org/10.1029/2020JB019839



参考図

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図1:グリーンランドとその周辺地域。グリーンランド内の白色部分が氷床。は本研究で利用したGLISN観測網の地震観測点、は活火山、は温泉。赤点線で囲まれた領域は地熱地帯。


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図2:本研究のトモグラフィーによる5つの断面図。(a)アイスランド、ヤンマイエン、スバールバルを通る断面。(b)グリーンランドとアイスランドを通る北西-南東方向の断面。(c)グリーンランドとアイスランドを通る東西方向の断面。(d)グリーンランドとヤンマイエンを通る断面。 (e)グリーンランドとスバールバルを通る断面。断面の位置は左下の平面図に示す。平面図は深さ2400 kmにおけるトモグラフィーで、グリーンランドプルームの根元部分が赤色で見える。


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図3:本研究で明らかとなったプルームとその相互関係。


20201207_40.jpg

図4:本研究で得られた地殻内のP波速度構造(左)と先行研究による地殻熱流量(右)の比較。左図の赤色の低地震波速度域の分布が、右図の赤色の高地殻熱流量域とよく一致している。左図の白点線は、低地震波速度域をなぞって得られるアイスランドプルームとヤンマイエンプルームの熱軌跡。黒点線で囲まれた地域は、氷床の底部融解による流れが存在する地域(北東氷流)で、その水源は2つの熱軌跡の交点に位置している。は活火山、○は温泉。温泉の色は最高水温を表わしており、低地震波速度・高地殻熱流量域には高温の温泉が分布していることがわかる。色付きの実線は、様々な先行研究で推定されたアイスランドプルームの軌跡。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター
助教 豊国 源知(とよくに げんち)
E-mail:toyokuni[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学 大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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