東北大学 大学院理学研究科・理学部

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太陽系形成より古い有機分子を炭素質隕石から検出 ~ただ古いだけじゃない!太陽系に存在する有機物生成に不可欠な分子~

ポイント

● 炭素質隕石から世界で初めてヘキサメチレンテトラミン(HMT)という有機分子の検出に成功。

● 検出されたHMTは太陽系形成(約46億年前)以前に生成した,極めて始原的な分子。

● HMTは隕石中及び原始地球上でのアミノ酸や糖など,種々の有機化合物生成のカギとなる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

北海道大学低温科学研究所の大場康弘准教授,海洋研究開発機構の高野淑識主任研究員,九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授,東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授,東京大学大学院理学系研究科の橘 省吾教授らの研究グループは,世界で初めて炭素質隕石からヘキサメチレンテトラミン(HMT)という有機分子の検出に成功しました。

星・惑星系誕生の場である星間分子雲に存在する水やアンモニア,メタノールなど比較的単純な構造を持つ分子は,極低温(-263℃)環境での光化学反応によってより複雑な構造を持つ分子へと変化し,その一部は惑星系形成時に星の材料として取り込まれます。そのため,小惑星のかけらである隕石に含まれる有機物は星間分子の寄与があると考えられています。HMTは星間分子雲で起こりうる光化学反応の主要生成物のため,太陽系形成の材料になったとしても不思議ではありませんが,これまでにHMTが隕石など地球外物質の分析で検出されたことはありませんでした。

本研究グループは,マーチソン隕石をはじめとする3種の炭素質隕石から世界で初めて隕石固有のHMT検出に成功しました。隕石中HMTは主に太陽系形成(約46億年前)以前に星間分子雲で生成したと考えられ,これまで隕石から確認された中で最古の有機分子であるだけでなく,隕石に存在するアミノ酸や糖など種々の有機化合物生成に不可欠な分子です。探査機「はやぶさ2」によって採取され,まもなく地球に帰還予定の小惑星リュウグウのサンプルにも同様にHMTが存在することが予想されるため,本研究成果は宇宙における分子進化解明の糸口になると期待されます。

なお,本研究成果は,日本時間2020年12月7日(月)午後7時(英国時間2020年12月7日(月)午前10時)公開のNature Communications誌に掲載されました。


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星間分子雲から太陽系形成に至るまでの分子進化



背景

現在,はやぶさ2が小惑星リュウグウでのサンプリングに成功し,小惑星サンプルの地球への帰還が心待ちにされています。また,アメリカ主導の小惑星サンプルリターン計画でも探査機OSIRIS-REx(NASA)が小惑星ベンヌでのサンプリングに成功したとの報道があり,炭素質の小惑星探査への注目が世界的に高まっています。いずれの小惑星も有機物に富むと考えられているため,両プロジェクトでは小惑星固有の有機分子検出に加え,地球外有機分子の生成メカニズム解明も強く期待されています。

小惑星を含む太陽系に存在するすべての物質は,太陽系が形成された星間分子雲に存在した化学種から形成されたのですが,どのような化学種がどのように変化したのかなど,宇宙における分子進化に関して多くの謎が残されていました。特に,隕石に含まれるアミノ酸や糖などの複雑な生体関連分子生成に多くの興味が集まり,それらの生成にはホルムアルデヒドとアンモニアが不可欠だとわかってきました。しかし,揮発性の極めて高いそれらの分子がどのようにして小惑星での反応の材料となりえたのか,その詳細はあまり明らかになっていませんでした。その謎を解明するカギとなるのがヘキサメチレンテトラミン(HMT)です(図1)。HMTは揮発性が低く,星間分子雲における光化学反応の主生成物のため,太陽系形成時に星の材料となったと考えられています。さらに,水とともに加熱すると前述の2種の分子(ホルムアルデヒド,アンモニア)を生成するので,小惑星上での分子生成反応の材料として期待されていたものの,これまでの宇宙空間での赤外・電波天文観測及び隕石など地球外物質の分析で,HMTが検出された例はありませんでした。

そこで本研究では,従来とは異なる手法で炭素質隕石を分析し,世界で初めてのHMT検出を試みました。



研究手法

3種の炭素質隕石(マーチソン隕石,タギッシュレイク隕石,マレー隕石:いずれもアミノ酸など有機化合物を豊富に含む)から,HMTを分解させないように高濃度の強酸や熱湯を用いずに水溶性成分を抽出し,HMTを含む画分の精製を行いました。その後,高速液体クロマトグラフ-超高分解能質量分析計を用いて,分子レベルでの精密な分析を行いました。



研究成果

すべての炭素質隕石からHMTが検出され,その濃度は最大で隕石1グラム当たり846ナノグラム(1ナノグラムは10-9グラム)含まれることがわかりました。この量は同じ隕石に含まれるアミノ酸量に匹敵するほど多いことがわかりました。また,隕石を用いないブランク実験や隕石落下地点の土壌サンプルの分析では,ほとんどHMTが検出されなかったので,検出されたHMTは隕石固有であると結論されました。比較的温度の高い小惑星環境ではHMTが生成するよりも分解するほうが有利なので,本研究で検出されたHMTは主に約46億年前の太陽系形成に先立って,星間分子の光化学反応で生成したと考えられます。これまでに,隕石有機物に一般的に見られる高い重水素濃集*1が太陽系形成以前の化学反応の関与を示唆するパラメーターとして認識されていましたが,太陽系形成前に生成した有機分子が具体的に確認されたのは本研究が初めてです。



今後への期待

検出されたHMTは隕石ごとにその濃度が大きく異なることがわかり,その原因の一つとして小惑星での熱水活動の程度の違いや,小惑星誕生当時のHMT量の多様性などが示唆されました。つまり,隕石ごとのHMTの分布を明らかにすることで,宇宙における分子進化だけでなく,太陽系形成に至るまでの天体進化を紐解くうえで重要な情報を得ることができるはずです。今後は本研究で用いた3種以外の隕石や,小惑星リュウグウやベンヌから帰還するサンプルからもHMTの検出を試み,その存在量を比較することで,宇宙の物質進化の理解が進むことが強く期待されます。

※本研究グループには,はやぶさ2(初期分析 代表PI:橘 省吾)とOSIRIS-REx(初期分析 代表PI:ジェイソン ドワーキン)プロジェクトそれぞれのPI及び初期有機分析メンバー(奈良岡浩,高野淑識, ダニエル グラビン)が構成員として参画しています。



謝辞

本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業(15H05749, 16H04083, 17H04862, 20H00202),NASA Astrobiology Institute及びSimons Foundationの支援を受けて行われました。



論文情報

論文名 Extraterrestrial hexamethylenetetramine in meteorites - a precursor of prebiotic chemistry in the inner solar system
(隕石中地球外ヘキサメチレンテトラミン-太陽系内部における生命誕生前の化学反応の材料物質)

著者名 大場康弘1,高野淑識2,奈良岡浩3,古川善博4,ダニエル グラビン5,ジェイソン ドワーキン5,橘 省吾6,7
1北海道大学低温科学研究所,2海洋研究開発機構,3九州大学大学院理学研究院,4東北大学大学院理学研究科,5アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター,6東京大学大学院理学系研究科,7宇宙航空研究開発機構(JAXA)

雑誌名 Nature Communications

DOI 10.1038/s41467-020-20038-x

公表日 日本時間2020年12月7日(月)午後7時(英国時間2020年12月7日(月)午前10時)(オンライン公開)



参考図

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図1.ヘキサメチレンテトラミン(HMT)の分子構造



用語説明

*1 高い重水素濃集
隕石中有機物は地球上に存在する分子に比べて,分子内の重水素(水素の安定同位体のこと。質量数は2)の存在度が高く,同様に重水素存在度の高い星間分子の寄与が示唆されている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学 大学院理学研究科
准教授 古川善博(ふるかわよしひろ)
電話:022-795-3453
E-mail:furukawa[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学 大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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