東北大学 大学院理学研究科・理学部

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オーロラ粒子の加速領域は超高高度まで広がっていた -オーロラ粒子の加速の定説を覆す発見-

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の今城 峻特任助教、三好 由純 教授、塩川 和夫 教授、台湾Academia Sinica(中央研究院)の風間 洋一 客員研究員、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の浅村 和史 准教授、篠原 育 准教授、金沢大学の笠原 禎也 教授、東北大学の笠羽 康正 教授、京都大学の松岡 彩子 教授、栗田 怜 准教授、米国UCLAの Vassilis Angelopoulos教授および日本、台湾の研究者からなる共同研究グループは、JAXAジオスペース探査衛星「あらせ」(以下、「あらせ」)搭載の高角度分解能電子観測機器「LEPe」を含む包括的な宇宙空間観測機器と、米国THEMISチームの展開する高時間空間分解能の地上全天カメラを用いたオーロラ協調観測によって、オーロラアーク上空において、高度30,000km以上もの超高高度まで広がるオーロラ電子が加速されている領域を発見しました。この発見は、オーロラの電子は数千km高度で加速されているという過去50年にわたって信じられてきた定説を覆すもので、オーロラ発生機構に新たな謎をもたらします。今後、超高高度加速域の謎を解き明かすことで、木星や土星でのオーロラや、パルサーなどの天体磁気圏における電子の加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2021年1月18日付(日本時間1月18日19時)Nature系学術誌『Scientific Reports』オンライン版に掲載されました。

なお、ISEEには、JAXA宇宙科学研究所と共同で「あらせ」のサイエンスセンター(統合データサイエンスセンター)が設置されており、世界中にデータを公開しています(https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/)。



ポイント

● 過去50年にわたり信じられていた数千kmの加速高度の10倍も高い、高度30,000km以上もの超高高度で、すでにオーロラを光らせる電子は加速されているという、予想外の発見がもたらされた。

● 今回の発見は、オーロラ電子が加速されている高度方向の広がりの定説を覆し、加速電場形成の考え方の見直しを迫る。

● 独特な軌道・高性能な観測機器を持つ「あらせ」衛星と米国THEMISチームの展開する広域視野の地上全天カメラによって、超高高度におけるオーロラ電子加速を検証できる、これまでにない稀なオーロラ-宇宙空間同時観測が実現した。

● 本研究で新たに提起された謎を追究することで、木星や土星のオーロラ、パルサー磁気圏など、地球の典型的高度の加速域とは異なるプラズマ環境を持った太陽系や天体磁気圏における電子の加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待される。



研究背景と内容

明るく東西に長くのびるオーロラアークは、夜側極域において一般的に見られるオーロラの形態であり、その美しさで多くの人々を惹き付けてきました。このような形態のオーロラは、そのさらに上空の静電場のあるオーロラ加速域で下向きに加速された電子と大気の衝突、励起・緩和によって高度約100km付近で発光しています。

この電子加速を引き起こす静電場が生成する原因ははっきりとは特定されておらず、電子がどの高さで加速されているかがその謎を解く鍵とされています。過去50年間にわたるロケットや人工衛星の観測から、オーロラ加速域は低い高度の冷たいプラズマと高い高度の熱いプラズマが混じり合う高度数千kmの領域を主に、高度20,000km以下までは存在しうるものの、高高度側の寄与は小さいと考えられていました。これまでのオーロラ加速の理論はこういった低い高度を中心とした加速域の高度分布を前提としていました。

ジオスペース探査衛星「あらせ」はその独特の軌道により、過去の人工衛星があまり観測を行ったことがない領域を飛翔しています。「あらせ」は本来、地球の放射線帯の高エネルギー電子の加速・消失メカニズムの解明を主なターゲットとした衛星ですが、非常に高い角度分解能を持った電子観測機器を搭載しているほか、総合的な宇宙プラズマの観測機器を搭載しているため、オーロラ加速域に特徴的な電磁場、粒子の振る舞いを高い精度で検知することもできます。今回、広域視野と高空間分解能をもった米国THEMIS全天カメラネットワークによってオーロラアークが観測されているときに、「あらせ」が高度約30,000kmで観測するというきわめて稀な同時観測が実現し、「あらせ」のいる超高高度でも電子が加速されているのか、加速された電子が実際にオーロラの発光領域まで降り込んでいるかどうかを見るユニークな機会を得ることができました。

その結果、これまで数百から数千kmの低高度で観測されてきた典型的な加速域の特徴と非常によく似た粒子、電磁場の変動が、オーロラアークに繋がる磁力線の高度30,000km付近もの超高高度でも発見されるという予想外の結果がもたらされました (図1)。特に、単一エネルギーを持った下向きの電子が観測されたことは、衛星より上側での静電的な加速の強い証拠です。そのエネルギーから推定される衛星より上側の加速のオーロラ発光域までの加速全体への寄与は20~45%にも及ぶことが分かりました。

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図1:オーロラの緯度分布と「あらせ」観測の時系列データ。粒子、電場、磁場の特性はこれまで低い高度で観測された典型的なオーロラ加速域の描像と整合する。


さらに、「あらせ」の低エネルギー電子分析器LEPeのもつ高角度分解能チャンネルにより、下向きに加速された電子がオーロラ発光高度で消失し、対応する上向き電子が欠損する様子を高高度で初めて捉えました(図2)。

これらの結果から、図3で示すように、これまで考えられていた高度より遙かに高い高度にわたりオーロラ加速域が広がっており、非常に高い高度から加速されてきた電子が観測されたオーロラの発光領域まで降り注いでいることが初めて明らかになりました。

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図2:図1の(1)の時刻での、電子の位相空間密度の速度分布と、衛星より下側の加速から予測される降り込み可能な領域の境界(青線)。下向き加速された電子が、降り込み可能な領域の内側で観測され、さらに対応するオーロラ発光高度での消失による上向き電子の欠損が観測された。



成果の意義

図3で示すように、本研究の結果は、高度数千kmの領域を中心として高度20,000km以下までと考えられていた加速域の高度方向の広がりの定説を覆すものです。「あらせ」の高度では、典型的な加速域の高度での背景のプラズマ・磁場の状態が大きく異なることから、これまで提唱されてきたどの加速領域生成メカニズムでも今回発見された高度30,000km以上の加速領域の広がりを説明することはできません。したがって、本研究成果によって、高度30,000km以上のどの高度から加速がはじまるか、超高高度加速域の環境において、なぜ加速メカニズムが存在しうるのかという新たな謎が生まれました。オーロラは木星や土星などにも普遍的に見られる現象です。超高高度加速域の発見から生まれた新たな謎を解き明かすことで、これらの他惑星磁気圏や、パルサー磁気圏など、異なるプラズマ環境を持った太陽系や天体磁気圏における準静電的電子加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待されます。また、本成果は「あらせ」のユニークな軌道と高い性能により実現した、本来の目的を大きく越えた予想外の成果です。

本研究グループは今後、複数事例の解析、低高度衛星との同時観測、電位構造の数値シミュレーションにより超高高度加速域の研究を進めます。

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図3:本研究のまとめ。高高度の「あらせ」と地上の全天カメラにより、オーロラ加速領域は「あらせ」の上側にまで広がり、超高高度から加速された電子がオーロラ発光領域まで降り注いでいることが示された。



用語説明

オーロラ(電子)加速領域/加速域:
ディスクリートオーロラと呼ばれる、明るく境界のはっきりしたオーロラを光らせるもととなる電子を加速する静電場のある領域。中心に向かうほど電位の低いU字型の電位構造を持っている。電子を下向きに加速する上向き電場があるのは、主に高度数千kmの領域とされる。この電場が生成される仕組みには多くの仮説があり、今のところはっきりとはしていないが、典型的な加速域高度では性質の異なるプラズマが混じり合うことで生じる局所的な電子とイオンの分離(ダブルレイヤー)が有力な説の一つとされる。



論文情報

雑誌名:Scientific Reports (ネイチャー・リサーチ社刊行の学術雑誌)

論文タイトル:Active auroral arc powered by accelerated electrons from very high altitudes

著 者:今城 峻(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
三好 由純(名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授)
風間 洋一(Academia Sinica 客員研究員)
浅村 和史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)
篠原 育(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)
塩川 和夫(名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授)
笠原 禎也(金沢大学総合メディア基盤センター 教授)
笠羽 康正(東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター 教授)
松岡 彩子(京都大学地磁気世界資料解析センター 教授)
Shiang-Yu Wang(Academia Sinica 主任研究員)
Sunny W. Y. Tam(National Cheng Kung University 教授)
Tzu-Fang Chang(National Cheng Kung University 客員助教)
Bo-Jhou Wang(Academia Sinica 補助研究員)
Vassilis Angelopoulos(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授)
Chae-Woo Jun(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
小路 真史(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
中村 紗都子(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
北原 理弘(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
寺本 万里子(九州工業大学工学部 助教)
栗田 怜(京都大学生存圏研究所 准教授)
堀 智昭(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任准教授)

DOI:10.1038/s41598-020-79665-5



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター
教授・センター長
笠羽 康正(かさば やすまさ)
E-mail: kasaba[at]pparc.gp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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