東北大学 大学院理学研究科・理学部

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日本地下の3次元地震波異方性構造を解明 ―プレート変形・マントル対流・地震火山の理解に重要な手がかり―

発表のポイント

● 日本列島下の精確な3次元地震波速度異方性(注1)構造を初めて明らかにした。

● 太平洋プレートの沈み込みとその変形がマントル対流のパターンを支配することを発見した。

● 日本列島の火山と地震の成因を理解する重要な手がかりとなる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地球内部の岩石には、「地震波速度異方性」という性質があります。地震波の伝播する方向によって地震波の伝播速度が異なるという物理性質で、地球内部岩石の変形、地殻の応力場、およびマントル対流のパターンなどを反映していると考えられています。

東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授とZewei Wang博士(PD研究員、現在は中国南方科技大学 助教)は、従来の地震波トモグラフィー法(注2)を改良し、日本列島下の精確な3次元地震波速度異方性構造を明らかにしました。これにより、日本海溝から日本列島下に沈み込んでいる太平洋プレートおよびその周りのマントルにおける詳細な3次元地震波速度異方性構造を解明し、太平洋プレートの沈み込み、ならびに、太平洋プレートそれ自体の変形が日本列島下のマントル対流のパターンを支配することがわかりました。本研究成果は、日本列島の火山と地震の成因および地殻変動を理解する重要な手がかりになると思われます。

本成果は、米科学誌「Science Advances」に1月20日に論文としてオンライン掲載されました。



詳細な説明

日本海溝から日本列島下に斜めに沈み込んでいる太平洋プレート(スラブとも呼びます)は、日本の地下に存在する最大の構造異常体です。スラブの沈み込みによって、地殻の応力場の変化やマントル対流が起こるので、地震と火山の根本的な成因と言えます。これまで多くの研究では、「地震波トモグラフィー」と呼ばれる手法で地震波データを解析し、日本地下の3次元速度構造を調べてきました。しかし、従来型のこの手法で求めた結果は、地下の「静的」な構造しか反映できず、地殻の応力場やマントル対流のような「動的」な情報を読み取れません。一方、地球内部の岩石には、「地震波速度異方性」という性質があります。地震波の伝播する方向によって地震波の伝播速度が異なるという物理性質で、地球内部岩石の変形、地殻の応力場、およびマントル対流のパターンなどを反映していると考えられています。そこで、従来型の地震波トモグラフィー法を改良して、今まで考慮に入れていなかった地震波速度異方性も解析対象に加えると、地下の3次元的な「静的」構造のみでなく、マントル対流などの「動的」な情報も抽出できます。

趙教授の研究グループでは、これまでこのような「地震波速度異方性トモグラフィー法」の開発と改良を進めてきました。その適用で、日本列島および世界の多くの地域の地下3次元構造を解明し、この分野の研究で世界をリードしてきました。しかし、地震波速度異方性を完全に明らかにするには多数の未知数パラメータを解くことが必要で、観測データに起因する制限条件のため、それら全てを求めることは非常に困難です。これまでの研究では、いくつかの仮定を置いて未知数を少なくすることで3次元地震波速度異方性構造を推定してきました。その中での仮定の一つは、異方性の対称軸を水平もしくは鉛直に限定してしまうことです。この仮定は、地下に斜めに沈み込んでいるスラブの内部およびその付近のマントルに成り立つとは考えにくく、これまで得られた結果の解釈の妥当性に影響を及ぼしていると思われます。

本研究では、この難問を解決し、水平もしくは鉛直という仮定を置くことなく、任意の角度の異方性対称軸を求められるように地震波トモグラフィー法を改良しました。

そして、改良された手法を日本列島に設置された稠密な地震観測網(図1)で記録された、近地地震と遠地地震から得られた合計100万個以上の観測データに適用し、日本地下の深さ300 kmまでの精確な3次元異方性構造を初めて明らかにしました(図2)。その結果、以下のような新知見を得ました。

① 太平洋プレートの沈み込みとその変形は日本地下のマントル対流のパターンを支配します。

② これまで多くの研究で報告されている前弧域(大まかには日本列島の太平洋側)における海溝に平行する異方性は、太平洋プレートの沈み込みに伴う変形と緊密な関係があります。

③ 火山前線と背弧域(大まかには日本列島の日本海側)下のマントルウェッジ(図3と図4)における異方性は、スラブとほぼ平行し、火山を作る熱い上昇流を反映すると確定できます。

④ スラブの下側のマントルにも顕著な地震波異方性が存在し、スラブの沈み込みと弯曲に関係すると推測されます(図3と図4)。

今後このような研究を世界の他の沈み込み帯地域に展開すれば、地球内部の3次元構造とダイナミクスおよび地震・火山成因の理解が大幅に進展すると期待されます。

本研究は文科省科研費(課題番号19H01996)の支援を受けて行われました。また、東北大学災害科学研究拠点からの研究費の支援を受けました。



用語説明

(注1)地震波速度異方性
ある物質において、地震波の伝播速度が地震波の伝播方向によって異なるという物理的性質です。地球内部岩石の変形、応力場およびマントル対流の方向やパターンを反映していると考えられます。

(注2)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。周囲よりも高速度の地域を青色、低速度の地域を赤色で示します。高速度域は低温で硬い岩石、低速度域は高温で柔らかい岩石に対応します。



論文情報

雑誌名:Science Advances

論文タイトル:3D anisotropic structure of the Japan subduction zone

著 者:Zewei Wang, Dapeng Zhao

URL :https://advances.sciencemag.org/content/7/4/eabc9620



参考図

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図1:日本列島とその周辺地域。青色のコンター線は沈み込んでいる太平洋プレート(スラブとも呼びます)上面の等深線。赤色のコンター線は沈み込んでいるフィリピン海プレート上面の等深線。白四角は本研究で利用した基盤観測網の地震観測点、は活火山。白矢印と数値はプレート沈み込みの方向と速さ。


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図2:本研究のトモグラフィーによる平面図(A-C)と深さ250kmまでの断面図(D-F)。断面の位置は平面図Bに示す。平面図の深さは10 km (A), 70 km (B)と200 km (C)。背景の色はP波速度を示す。赤色、緑色と青色はそれぞれ低速度、平均速度と高速度を表す。黄色と赤色のT字型のシンボルはそれぞれ太平洋スラブ(青色の板状の部分)の内部と外部における異方性を示す。は活火山。黒色の+印は小地震。緑色の小丸印は火山性の低周波微小地震。


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図3:本研究の結果から推定した東日本下のマントル対流パターンの模式図。(A)赤、紫、白と灰色の楕円はそれぞれマントルウェッジ(mantle wedge, 地殻とスラブ間の楔状の部分)、スラブ下のマントル、スラブ上部とスラブ内部の異方性を示す。(B)赤色と暗紫色の矢印はそれぞれスラブの上と下のマントル対流のパターンを示す。スラブ弯曲部の真上(鮮やかな紫矢印)では対流パターンが周囲と異なるのが今回の結果から得られた特徴的な推定。


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図4:本研究の結果を示す模式図。(A)東西方向の断面図。青色は沈み込んでいる太平洋プレート(スラブとも呼ぶ)。灰色は地殻。赤色はマントルウェッジ(mantle wedge, 地殻とスラブの間にある楔状の部分)にある熱い上昇流(太い赤矢印)を示す。細い赤矢印はマントル対流の方向を示す。青色の矢印はスラブ脱水からの水(流体)が真上のマントルウェッジに浸透することを表す。オレンジ色の四角はかんらん石(上部マントルの主要鉱物)の軸を示す。スラブ上部の白線はプレートの沈み込みによって生じた海水が浸透した正断層を示す。(B)深さ150-300 kmの平面図で、スラブの弯曲(紫色の矢印)がその下のマントルの異方性に影響を及ぼすことを示す。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙 大鵬(ちょう たいほう)
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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