東北大学 大学院理学研究科・理学部

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潮汐に由来する大気中ラドン濃度の変動を検出 ~兵庫県南部地震発生前の5年間に周期的に変動~

発表のポイント

● 1995年兵庫県南部地震前の5年間のみ、大気中ラドン(注1)濃度の変動に潮汐の影響が認められた

● ラドン濃度変動に潮汐(注2)の影響が認められた時期は、地震観測や測地観測でも異常が報告

● 地殻にかかった力の状態の変化が大気中のラドン濃度の特異的な変化をもたらした

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地震の発生前後に、地中に含まれる元素ラドンの濃度が異常に変化したという報告がなされていますが、ラドン濃度の異常な変化が生じるメカニズムと地震発生との関係など、地震予知へ利用するために検討すべき課題が数多くあります。

東北大学大学院理学研究科の長濱裕幸教授、武藤潤准教授らは、福島県立医科大学、神戸薬科大学と共同で、1995年兵庫県南部地震発生前に観測されたラドン濃度データを詳細に解析しました。その結果、地球に周期的な荷重をもたらす潮汐に由来する変化が、ラドン濃度データに存在することが分かりました。さらに、この周期的な変化は地震発生前5年間(1990年から1994年)のデータに認められました。この時期はラドン観測点近傍の断層において地殻の圧縮速度が小さくなったと報告されており、これがラドンの周期的な変化が生じるきっかけとなった可能性があります。

本研究成果は、2021年2月18日付で「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。



詳細な説明

地震の発生の前後において、地中に含まれる元素の1つであり温泉の成分としてよく知られるラドンの濃度が異常に変化したという報告がなされています。このような現象は日本のみならず世界中で報告されており、ラドン観測を利用した地震予知の実現が期待されています。しかし、ラドン濃度の異常な変化が生じるメカニズムと地震発生との関係など、地震予知へ利用するために検討すべき課題が数多くあります。

東北大学大学院理学研究科地学専攻断層・地殻力学グループでは、大気中に含まれるラドンに着目し、ラドン濃度の変化と地震発生との関連性について研究をおこなっています。大気中のラドンは地中のラドンが移行したもののため、地中の変化をとらえていると考えられます。これまでに我々のグループがおこなった研究により、1995年兵庫県南部地震や2011年東北地方太平洋沖地震などで、地震の発生に先立ち大気中のラドン濃度が異常に変化していたことが明らかとなりました。

今回の研究では、1995年兵庫県南部地震のときに観測された大気中ラドン濃度のデータを詳細に解析しました。本地震発生時には、地震を引き起こした六甲・淡路断層帯の近傍において大気中ラドンのモニタリングが11年間おこなわれていました(図1)。このモニタリングデータについて周期解析をおこなった結果、潮汐(K1分潮)に対応するラドン濃度の周期的な変化が存在することが分かりました(図2)。これは、地球への載荷と除荷の繰り返しに応じてラドンが地中から大気へ放出されたことを示しています。また、この周期的な変化は、地震発生前5年間(1990年から1994年)のデータには認められたものの、それよりも前のデータ(1984年から1988年)には認められませんでした(図2)。さらに、潮汐による周期的な変化が認められた時期は、地震観測や地殻歪(大地の伸縮)観測で異常が認められた時期とよく一致しました。特に、断層において地殻の圧縮の速度が小さくなったと報告されており、これがラドンの周期的な変化が生じるきっかけとなった可能性があります。地震発生の数か月前に地殻歪が圧縮から伸張に転換した時にラドンが異常に増加したことを我々の先行研究で見出しており、今回の結果はこれと調和的です。地殻歪、つまり地殻にかかった力の状態の変化が大気中のラドン濃度の特異的な変化をもたらしたことがわかりました。

今回の研究により、地殻にかかる力がラドン濃度の変化に深く関与することが示唆されました。今後は、この力とラドン濃度変化を結びつけるメカニズムを明らかにしていきます。また、断層・地殻力学グループでは、災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の支援を受けて全国の研究機関とともに大気中ラドンモニタリングのネットワークの構築を進めています。



参考図

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図1:兵庫県南部地震前に観測された大気中ラドン濃度。1989年は欠測。1984年から1988年の間のデータおよび1990年から1994年の間のデータに対して周期解析をおこなった。


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図2:周期解析の結果。a)における潮汐周期(半日および一日周期)の範囲を拡大した図をb)に示した。主要分潮の内、K1分潮(23.934時間)に相当するピークが1990年から1994年のデータ(b)右図の赤線)で認められたが、1984年から1988年のデータ(青線)では認めらなかった。12.000時間と24.000時間のピークは、潮汐よりも気象の影響によるものと考えられる。



論文情報

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:Radon degassing triggered by tidal loading before an earthquake

著 者:Yasutaka Omori1, Hiroyuki Nagahama2, Yumi Yasuoka3 & Jun Muto2
1 福島県立医科大学 医学部 放射線物理化学講座
2 東北大学大学院理学研究科 地学専攻
3 神戸薬科大学 放射線管理室

DOI :doi:10.1038/s41598-021-83499-0



用語の説明

(注1)ラドン
自然界に存在する気体。土壌や大気、水中など、いたるところに存在する。土壌中で生成されたラドンは、一部は土壌の間隙や割れ目を通って大気へ移行し、一部は地下水へ取り込まれる。


(注2)潮汐
天体の引力によって引き起こされる地球の変形。地球と太陽、月の位置関係によって地球の変形の大きさが周期的に変化し、主に12.000時間(S1分潮)や12.421時間(M2分潮)の半日周期と、23.934時間(K1分潮)や25.819時間(O1分潮)の一日周期をもつ。



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 武藤 潤(むとう じゅん)
E-mail:jun.muto.a3[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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