東北大学 大学院理学研究科・理学部

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光ファイバーケーブルと分散型音響計測器DASによる 火山地震観測 高精度での火山性地震・微動の震源決定が可能なことの世界初の実証

発表のポイント

● 光ファイバーケーブルとDAS(分散型音響計測器、以下、DAS)(注1)により超高密度多点の火山性地震モニタリングが可能となった。

● 10mの空間分解能で火山性地震の波動場を詳細に捉えることに成功した。

● 着信時刻と振幅を使って高精度の火山性地震・微動の震源決定が可能であることを示した。

● コーダ波規格化法による地盤増幅特性は、溶岩流や火砕堆積物、降雨による浸食地形とよい一致を示す。

● 光ファイバーケーブルとDASは噴火時にも安定して観測が可能で、火山・噴火活動のモニタリングに適している。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

通信用に地下に敷設されている光ファイバーケーブルにDASを接続することにより、火山性地震の震源決定や複雑な火山構造を調べることが可能になります。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻西村太志教授・江本賢太郎助教らのグループは、超多点高密度観測が行えるDASを福島県の吾妻山に展開し、地震波の着信時刻と振幅をもとに火山性地震の震源決定を精度よく行えることを世界で初めて示しました。また、遠地地震のコーダ波(注2)の解析を行い、溶岩流や噴出物の堆積地域、降雨による浸食地形と地盤増幅特性がよい相関を示すことを明らかにしました。この観測方法は、噴火中の火山灰や火山弾、雷などの影響を受けにくく、今後火山活動のモニタリングなどに利用されることが期待されます。本研究成果は、2021年3月18日に、Scientific Reportsに掲載されました。



詳細な説明

情報通信に使われる光ファイバーケーブルをセンサーとした振動計測が、近年急速に、地震観測にも利用されるようになってきました。光ファイバーケーブルの一端にDASを接続するだけで、数十kmにわたり数m間隔で地震動をひずみ速度として計測することが可能です。本研究は、この計測システムを火山地域に展開し、はじめて火山性地震を捉えることに成功しました。また、溶岩流などの火山特有の地形の特徴が、地震波の地盤増幅率とよく相関していることを示しました。

火山性地震や火山性微動は、地下の火山性流体(マグマや熱水)により発生していると考えられていることから、その発生場所を明らかにすることにより、火山活動の評価や噴火発生の予測に利用することが可能です。しかしながら、P波やS波が明瞭な火山性地震は限られ、火山性微動はそもそも位相が不明瞭なため、通常の地震で使われるP波やS波の着信時刻を利用した震源決定ができません。


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図1.(左)吾妻山と光ファイバーケーブルの位置。紫線は光ファイバーケーブルの敷設位置。DASは南端の土湯に設置。赤丸は、+印の定常観測点でP波、S波の着信時刻が読み取れた火山性地震の震源。(右)記録された火山性地震の波形例。赤と青は、地震波形の正負の振幅を示す。左側の数字は光ファイバーケーブルの測定位置。上が浄土平、下が土湯に対応し、北から南に地震波が伝播する様子を捉えている。Carは自動車によるノイズ。


本研究は、磐梯吾妻スカイラインの道路脇に国土交通省が敷設している光ファイバーケーブル(地中50cm程度)を借用し、南端の土湯にシュルンベルジュ社のDAS(hDVS)を接続して、2019年7月に3週間ほど吾妻山で観測を行いました(図1)。吾妻山では、噴気活動・火山活動が活発な浄土平で火山性地震が発生しています。光ケーブル沿いに10m間隔で火山性地震波を捉えられることを利用し、波形相関を利用して着信時差を読み取り、震源決定を行いました。また、地震波が震源から距離に従って減衰する特徴を利用した震源決定を行いました。その結果、火山活動を評価する上で十分な精度で震源決定をすることに成功しました(P波やS波の読み取れる火山性地震の位置と500m程度の差で求められました(図2c)。)

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図2.吾妻山で記録された6個の火山性地震の震源決定の結果。(a)波形相関から読み取った着信時差から決定した震源、(b)振幅の距離減衰により求められた震源、(c)着信時差と振幅を利用した震源。黒星はP波S波の着信時から求められた7月4日の火山性地震の震源、白星は光ファイバーケーブルのデータによる震源。白丸はそのほか5個の火山性地震を光ファイバーケーブルのデータを用いて決めた震源。赤黄青の色コンターは、観測値と理論値との差を示す。白いラインは光ファイバーケーブルの位置。


火山体は溶岩流や火山灰で覆われ、また、地下には熱水や岩脈などがあります。このような火山特有の地形は、数百m程度のスケールであるため、従来の地震観測では空間分解能が十分でありませんでした。本研究は、光ファイバーケーブルとDASで記録された東北地方周辺で発生する地震の相対振幅を測定することにより、火山体浅部の地盤構造の増幅係数を調べました。その結果、溶岩流や火砕物の堆積物、浸食された地形とよい相関があることを示しました(図3)。

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図3.地盤増幅係数と火山地形の比較。赤色は地盤増幅係数が大きい軟弱な地盤、青色は地盤増幅係数が小さい比較的固い地盤。地形の傾斜を強調した赤色立体地図上にプロットすると、東吾妻山からローブ状にのびる溶岩流の先端付近の地盤増幅係数が大きい。また南部の谷地形の発達する地点の地盤増幅係数が小さいことがわかる。


従来の観測システムは、地表にアンテナや太陽電池等を設置する必要があることから、噴火発生時には故障する可能性があります。一方、光ファイバーケーブルは地下に埋設されていて高温環境下でも動作するので、火口から離れたところにDASを設置すれば被災することはありません。火山性地震だけでなく、火山性微動の震源決定も行えることから、火山活動・噴火活動のモニタリングに有用であることが示されました。また、地盤増幅特性の評価は、火山構造の探査だけでなく、強震動による揺れの強さの評価にも利用できます。



謝辞

国土交通省の光ファイバーを借用しました。また、観測に当たって、国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所の方々に便宜を図っていただきました。本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画」の支援を受けました。



語句説明

(注1)DAS(分散型音響計測器)
光ファイバーケーブルの一端から入射する。光ファイバーケーブル内で散乱し、戻ってくる波の位相の揺らぎをもとに振動を計測する。

(注2)コーダ波
地殻内部の不均質な構造によって散乱されてP波やS波の到着後に引き続き現れる波。



論文情報

雑誌名 :Scientific Reports

タイトル:Source location of volcanic earthquakes and subsurface characterization using fiber-optic cable and distributed acoustic sensing system

著  者:Takeshi Nishimura, Kentaro Emoto, Hisashi Nakahara, Satoshi Miura, Mare Yamamoto, Shunsuke Sugimura, Ayumu Ishikawa & Tsunehisa Kimura

DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-021-85621-8



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 西村太志(にしむらたけし)
電話:022-795-6531
E-mail:takeshi.nishimura.d2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください



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