東北大学 大学院理学研究科・理学部

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三陸の砂に消えた過去の激しいマグマ活動 〜日本列島は6回の大規模マグマ活動を通して成長した〜

発表のポイント

● 失われた古いマグマ活動の記録を、三陸の古い砂岩の地層と現世の砂浜海岸の砂に含まれるジルコン(ジルコニウムのケイ酸塩鉱物)(注1)から明らかにした

● 約2000粒のジルコンのウラン・鉛年代−ハフニウム同位体比同時分析(注2)から、6回の大規模マグマ活動が明らかになった

● 約2.7億年前のマグマ活動が最も激しく、それまでに存在した古日本列島の大陸地殻のほとんどが新しく生まれ変わった

□ 東北大学ウェブサイト



概要

日本列島の周辺は、約5億年前からプレート沈み込み帯と呼ばれる地殻変動が非常に活発な地域で、長期にわたって浅い海に堆積した砂には、過去のマグマ活動が記録されています。東北地方(岩手県・宮城県)の北上山地南部から三陸海岸に至る地域には、雄勝石に代表されるシルル紀から白亜紀前期の浅い海に堆積した砂や泥の地層が広く分布しています(図1)。東北大学学際科学フロンティア研究所のパストルガラン ダニエル助教(兼務 東北アジア研究センター/大学院理学研究科地学専攻)と同東北アジア研究センターの辻森 樹教授(兼務 大学院理学研究科地学専攻)らの国際研究チームは、三陸のさまざまな時代の古い砂岩と現世の砂浜海岸の砂の中の鉱物を調べることで、大きなマグマ活動が過去4億年間に6回(約4.3、3.6、2.7、1.8、1.1億年前、約770万年前)あったことを明らかにしました(図1)。約2.7億年前のマグマ活動は特に激しく、既存の地殻が新しく生まれ変わりました。

本成果は、2021年4月6日Earth and Planetary Science Letters誌電子版に早期公開されました。

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図1:三陸の浅い海に堆積した砂岩が記録する大規模マグマ活動。堆積岩の分布と研究で用いた試料産地も示した。ジルコンのウラン・鉛年代−ハフニウム同位体比同時分析によって約2.7億年前のマグマ活動でそれまでの地殻が一新されたことが分かった。



詳細な説明

日本列島周辺はプレート沈み込み帯と呼ばれる地殻変動が激しく、地震や火山噴火を伴うマグマ活動が活発な地域として知られています。約7億年前の太平洋の誕生まで遡ることができる日本列島の歴史のなかで、約5億年前に現在の北米大西洋沿岸のような非活動的大陸縁から現在のようなプレート沈み込み帯(活動的大陸縁)に転じたと考えられています。しかしながら、古い時代のマグマ活動の痕跡は激しい地殻変動によって大部分が失われ、その記録の解読が十分に進んでいませんでした。

日本列島の地殻は、プレート沈み込みによって海溝に沿って成長した付加体と火山弧・火山帯直下のマグマ活動でできた花崗岩から構成されます。花崗岩は古い付加体に貫入することで地殻を成長・改変させてきました。ところが地表に露出した花崗岩のほとんどが白亜紀(約1億年前)より若いもので、それよりも古いマグマ活動の歴史を連続して紐解くことは容易ではありません。今回、東北大学学際科学フロンティア研究所のパストルガラン ダニエル助教(兼務 東北アジア研究センター/大学院理学研究科地学専攻)と同東北アジア研究センターの辻森 樹教授(兼務 大学院理学研究科地学専攻)らの国際研究チームは、東北地方(岩手県・宮城県)の北上山地南部から三陸海岸にかけて広く分布するシルル紀から白亜紀前期の浅い海に堆積した古い砂岩の地層や現世の砂浜海岸の砂に含まれるジルコンに着目することで、失われたマグマ活動の記録を読み解きました。クイーンズ大学(カナダ)のクリス・スペンサー助教及び、本学大学院理学研究科地学専攻博士課程前期の古川旦さんを含むパストルガラン助教・辻森教授の研究チームは、三陸の古い砂岩と砂から抽出した約2000粒のジルコンについて、先端的な局所ウラン・鉛年代−ハフニウム同位体比同時分析をオーストラリアのカーティン大学で行い、約4.3、3.6、2.7、1.8、1.1億年前と約770万年前の6回の大規模マグマ活動を明らかにしました(図1)。ジルコンのハフニウム同位体比はジルコンを結晶化させたマグマの性質を反映します。同時分析によって、約2.7億年前のマグマ活動は最も激しく、それまでに存在した古日本列島の大陸地殻のほとんどが新しく生まれ変わったことが分かりました。

近年、ジルコンの局所ウラン・鉛年代測定技術の進歩によって、日本列島の地質学的な歴史が詳細に分かりつつあるなかで、シルル紀以降の古い砂岩から現世までの浅い海に堆積した砂岩を系統的に調べたことは画期的で、日本列島の地史の理解を大きく前進させるものです。これより、プレート沈み込み帯で約5億年間長期にわたって続く日本列島の大規模マグマ活動の周期や、それがもたらす地殻進化のダイナミクスのより定量的な理解が期待されます。



用語の説明

(注1)ジルコン
ジルコニウムのケイ酸塩鉱物でZrSiO4の化学組成をもつ。比較的にウランに富み、鉛に乏しく、ウラン・鉛法放射年代測定の対象鉱物となる。花崗岩や流紋岩をつくる珪長質のマグマから比較的たくさん結晶化することが知られている。風化だけでなく、変成作用や二次的な火成作用に対しても化学的な強靭さをもち、砂岩などの堆積岩にも砕屑粒子として含まれる。ハフニウムにも富む。

(注2)ジルコンのウラン・鉛年代−ハフニウム同位体比同時分析
ジルコンに細い径(0.03 mm程度)に絞ったレーザーを当て、2台の質量分析装置を用いることで、ウラン・鉛年代と同時にハフニウム同位体比を測定する先端的な局所分析方法。ハフニウム同位体比からはジルコンが結晶化したときのマグマの性質を推定することができる。



助成

本研究はJSPS科研費JP15H05212、JP18H01299、JP19K04043の助成・支援を受けたものです。



論文情報

雑誌名 :Earth and Planetary Science Letters

タイトル:Evidence for crustal removal, tectonic erosion and flare ups from the Japanese evolving forearc sediment provenance

著  者:Daniel Pastor-Galán1,2,3, Christopher J. Spencer3,4, Tan Furukawa3, Tatsuki Tsujimori2,3
1 Frontier Research Institute for Interdisciplinary Sciences, Tohoku University, Aoba, Sendai 980-8578, Japan
2 Center for Northeast Asian Studies, Tohoku University, Aoba, Sendai 980-8576, Japan
3 Department of Earth Science, Tohoku University, Aoba, Sendai 980-8578, Japan
4 School of Earth and Planetary Sciences, Curtin University, GPO Box U1987, Perth 6845, Australia
5 Department of Geological Sciences and Geological Engineering, Queen's University, Kingston, Ontario, K7L 3N6, Canada

URL  :https://doi.org/10.1016/j.epsl.2021.116893



問い合わせ先


東北大学東北アジア研究センター
担当 パストルガラン ダニエル・辻森 樹
電話 022-795-3614
E-mail tatsukix[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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