東北大学 大学院理学研究科・理学部

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巨大地震発生箇所のプレート下に異常構造を発見 ―構造異常体が巨大地震の発生に影響―

発表のポイント

● マグニチュード(以下、M)9.0以上の巨大地震が起った6つの地域の詳細な3次元地震波速度構造(注1)を調べた。

● 沈み込むプレート下の異常構造が巨大地震の発生に影響を及ぼしたことを初めて発見した。

● 巨大地震発生メカニズムの解明およびその震源位置と破壊範囲の予測の重要な手がかりとなる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

M9.0以上の巨大地震の発生メカニズムについてこれまで数多くの研究が行われましたが、多くの未解明な点が残されています。東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授とJianke Fan博士(PD研究員、現在は中国科学院青島海洋研究所 准教授)は、地震波トモグラフィー法(注2)を用いて、これまでにM9.0以上の巨大地震が起った、日本列島を含む世界の6つの沈み込み帯の地下の詳細な3次元地震波速度構造を調べました。その結果、沈み込んでいる海洋プレート下のマントルに顕著な低速度異常体(注3)が存在することを明らかにしました。これらの低速度異常体の位置と、巨大地震の震源位置や破壊範囲に顕著な関連性が見られ、異常体の存在が巨大地震の発生や範囲に影響を及ぼしたと推測できます。本研究成果は、巨大地震発生メカニズムの解明およびその震源位置と破壊範囲の予測への重要な手がかりとなります。

本成果は、英科学誌「Nature Geoscience」に4月27日(日本時間)に論文としてオンライン掲載されました。



詳細な説明

地震の大きさ(マグニチュード、M)を精確に決定できる地震計が発明された1880年代から今日まで、世界でM9.0以上の巨大地震が5つ発生しました。それは、1952年M9.0カムチャッカ地震、1960年M9.5チリ地震、1964年M9.2アラスカ地震、2004年M9.2スマトラ地震、2011年M9.0東北地方太平洋沖地震です。また、正確な震源位置が不明ですが、1700年にM9.0クラスのカスカディア地震がアメリカとカナダの西海岸で起こったと言う研究結果があります。これら6つの巨大地震は全て沈み込み帯(海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる地域)で発生しました。

巨大地震の発生メカニズムについて、これまで数多くの研究が行われましたが、そのほとんどが沈み込む海洋プレート(スラブとも呼ぶ)の上面付近やスラブの上盤側のプレートの構造と応力場(注4)に関するものです。一方、スラブの下側の構造と巨大地震との関係に関する研究はほとんどありませんでした。

本研究で趙教授の研究グループは、独自に開発した世界最先端の地震波トモグラフィー法を用いて数百万の地震波観測データからなるビッグデータを解析し、巨大地震が起った6つの沈み込み帯地域の地殻・上部マントルの詳細な3次元P波速度構造を調べました。その結果、以下のような新知見を得ました。

① スラブ下のマントルに顕著なP波速度の遅い(低速度)異常体(SLVA)が存在する(図1)。これは、熱いマントル上昇流を反映すると思われる(図2)。

② 巨大地震の震源(つまり、破壊の開始点)はSLVAの端部や複数のSLVAの間(SLVAギャップ)の真上に位置する(図1と図2)。

③ 巨大地震の地震時すべり(つまり、破壊の範囲)は主にSLVAギャップの真上に分布する(図1と図2)。

④ SLVAとSLVAギャップの浮力の違いが巨大地震発生の一因となる。

⑤ 巨大地震の発生には、スラブ上面付近や上盤プレートの構造と応力場だけでなく、スラブ下の不均質構造も影響を及ぼすと推定できる。

本研究の成果は、巨大地震発生メカニズムの解明およびその震源位置と破壊範囲の予測の重要な手がかりになると思われます。

本研究は文部科学省科学研究費補助金(課題番号19H01996)の支援を受けて行われました。また、東北大学災害科学研究拠点からの研究費の支援も受けました。



用語解説

(注1)地震波速度構造
地震波速度とは地震波が地球の中を伝わる速さのことです。地震波には、性質の違うP波とS波があります。地震波速度は場所によって異なり、だいたい地中深くなるほど速くなります。地球の内部構造や状態を表すには幾つかの物理量(例えば、密度、温度など)を使うことができますが、現在は地震波速度の分布が最もよく用いられています。また、地震波トモグラフィー法を使って、地球内部におけるP波(あるいはS波)速度の3次元分布を推定でき、得られた結果は3次元P波(あるいはS波)速度構造と言います。地震波速度の分布から、地球内部の密度、温度、強度などに関する情報も得られるため、P波(あるいはS波)速度の空間分布を使って、地球内部構造を表します。

(注2)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学分野のCTスキャンと同じです。周囲よりも高速度の地域を青色、低速度の地域を赤色で示します。高速度域は低温で硬い岩石、低速度域は高温で柔らかい岩石に対応します。

(注3)低速度異常体
周囲に比べて地震波速度が小さくなる部分です。高温や流体を含むなどの成因によって、周りより軽くなり、浮力で上昇できます。例えば、活火山下のマグマ溜まりは顕著な低速度異常体です。

(注4)応力場
地層にどのような力が加わっているかを示すもので、水平方向を基準にして押されていれば圧縮応力場、引っ張られていれば引張応力場といいます。応力場の変化は、プレートの運動に関係しています。特に日本のような沈み込み帯では、海洋プレートの沈み込みの方向と角度が応力場を変化させると考えられています。



論文情報

雑誌名 :Nature Geoscience

タイトル:Subslab heterogeneity and giant megathrust earthquakes

著者 :Jianke Fan, Dapeng Zhao

URL  :https://dx.doi.org/10.1038/s41561-021-00728-x



参考図

20210427_10.jpg

図1:6つの巨大地震(M> 9.0)が起った地域における沈み込むプレート(スラブとも呼ぶ)下のP波速度分布(カラー)と巨大地震の地震時すべり分布(紫色のコンター線)。(a) 日本、 (b) アラスカ、(c) カムチャッカ、 (d) スマトラ、 (e) チリ、 (f) カスカディア(北米西海岸)。赤色と青色はそれぞれP波の低速度と高速度の部分で、速度異常のスケールを各地図の下に示す。は巨大地震(M> 9.0)の震央(破壊の開始点)。はM 8.5-8.9の地震の震央。●はM 8.0-8.4の地震の震央。点線は海溝軸。赤矢印と数値は海洋プレート沈み込みの方向と速さ。JFP: Juan de Fucaプレート、NAP: 北米プレート、OP: オホーツクプレート、PP: 太平洋プレート、PSP: フィリピン海プレート、SLVA: スラブ下の低速度異常体。


20210427_20.jpg

図2:本研究の結果を示す模式図。沈み込んでいる海洋プレート(スラブとも呼ぶ)と上盤の大陸プレートをそれぞれ青色と灰色で示す。は巨大地震(M> 9.0)の震源(破壊の開始点)。黒色のコンター線は巨大地震の破壊範囲。SLVA: スラブ下の低速度異常体。SLVAG: スラブ下の低速度異常体のギャップ。紫色と緑色の太い線はそれぞれSLVAとSLVAGの上方にある断層面(megathrust)上の部分。本研究によって、巨大地震の発生ならびに破壊範囲はSLVAGの上部であり、SLVAの上部ではないと推測される。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
附属地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙 大鵬(ちょう たいほう)
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>

東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室

電話: 022-795-6708

E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください



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