東北大学 大学院理学研究科・理学部

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模擬実験で隕石アミノ酸の同位体組成を再現 -小惑星有機物の主要生成反応のひとつが明らかに-

発表のポイント

● 隕石中のアミノ酸の炭素同位体組成の特徴が、糖を化学的に合成する反応として知られるホルモース型反応(注)によって再現できることを発見した。

● ホルモース型反応が、小惑星有機物の主要な生成反応の一つであった。

● 小惑星に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物は、極低温環境に特異的に存在する材料ではなく、これまで考えられていたよりもはるかに広範囲に分布していた一般的な材料から生成されていた。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

20210430_100.jpg隕石に含まれるアミノ酸や糖、核酸塩基などの低分子有機物は、その特異的な炭素同位体組成(13Cの濃縮)から、太陽系外縁部や太陽集積前の極低温環境でできた分子から作られたと考えられてきました。

東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、岩佐義成さん(当時博士課程前期2年)、北海道大学低温科学研究所の力石嘉人教授の研究グループは、隕石に含まれる主要な有機物である不溶性有機物とアミノ酸や糖などの低分子有機物との間に存在する大きな炭素同位体組成の差が、隕石有機物の生成反応の一つとして提案されてきたホルモース型反応によって再現できることを明らかにしました。

本研究の成果によって、小惑星に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物は、これまで考えられていたよりもはるかに広範囲に分布した一般的な材料から生成されていたことが示されました。

本研究成果は、2021年4月29日に米国科学振興協会(AAAS)が発行する『Science Advances』で公開されました。



発表内容

20210430_20.jpg隕石は小惑星から飛来した物質で、一部の隕石は約46億年前に生成したアミノ酸や糖などの生命の材料となる有機物を含んでいます。そのため、隕石に含まれる有機物が生命誕生前の地球に飛来して、生命の材料となった可能性が指摘され、JAXAの探査機はやぶさ2やNASAの探査機OSIRIS-Rexよって精力的に探査が行われています(図2)。しかし、隕石の含まれる有機物が、どのような材料からどのような反応で生成したのかは、多くの可能性があってこれまで明らかになっていませんでした。

東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、岩佐義成さん(当時博士課程前期2年)、北海道大学低温科学研究所の力石嘉人教授の研究グループは、炭素質隕石に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物が炭素の13C同位体を多く含み、逆に隕石中の主要な有機物である不溶性有機物が炭素の12C同位体を多く含む特徴を持つことに着目し、この同位体組成の特徴が糖を化学的に合成する反応として知られるホルモース型反応に伴う炭素同位体の挙動で説明できるという仮説を立て、それを検証するための模擬実験を行いました。生成したアミノ酸と不溶性有機物の炭素同位体組成の分析を行った結果、アミノ酸は炭素の13C同位体を多く含み、不溶性有機物は炭素の12C同位体を多く含み、その差は隕石有機物の特徴に合致することが明らかになりました(図3)。さらに、生成したカルボン酸とアミンの相対濃度が隕石中のカルボン酸とアミンの総体濃度と合致することも明らかになりました。

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図3.隕石有機物とホルモース型反応合成有機物の炭素同位体組成


これまで、隕石アミノ酸の炭素同位体組成の特徴はアミノ酸を作った材料分子が10 K(-263℃)以下の極低温環境で生成することによるものと考えられてきました。しかし、実際にそのような環境で隕石有機物の炭素同位体組成に相当する特徴を持つアミノ酸や不溶性有機物が生成する実験結果は得られていません。本研究の成果は、隕石アミノ酸と不溶性有機物の炭素同位体組成の特徴が極低温環境で生成する材料に限らず、はるかに広範囲に分布する炭素同位体組成に差のない材料から作り出されていたことを示すものです。また、先行研究によってホルモース型反応の生成物組成が隕石中に含まれる不溶性有機物、アミノ酸、糖、含窒素ヘテロ環化合物などの様々な有機物組成と類似することが明らかになっており、本研究でさらにカルボン酸とアミンの含有量の類似性、主要な有機物である不溶性有機物とアミノ酸の炭素同位体組成の一致を明らかにしたことは、ホルモース型反応が小惑星有機物を生成した主要な反応の一つであったことを示しています。

ホルモース型反応は、小惑星内部の水熱反応だけでなく、小惑星集積以前の微粒子表面での光化学反応でも起こった可能性があり、低温環境でも炭素同位体組成に差のない材料から13C同位体を多く含むアミノ酸や糖などの低分子有機物が生成した可能性があります。将来的に計画されつつある彗星からのサンプルリターンが実現すれば、その生成環境の特定が期待されます。

以上の成果は、今週、米国科学振興協会(AAAS)が発行する『Science Advances』に出版されました。



謝辞

本研究は日本学術振興会科研費補助金(18H03728, 19K21888, 20H00185)と北海道大学低温科学研究所共同研究(20G049)の支援を受けて行いました。



語句説明

(注)ホルモース型反応
アルカリ溶液中でホルムアルデヒドから多種類の糖を合成する反応として1860年代に発見されたホルモース反応を主体とする反応。近年、隕石有機物の生成反応の一つとして、提案された反応。



論文情報

雑誌名 :Science Advances

タイトル:Synthesis of 13C-enriched amino acids with 13C-depleted insoluble organic matter in a formose-type reaction in the early solar system

著者 :Yoshihiro Furukawa, Yoshinari Iwasa, and Yoshito Chikaraishi

DOI  :10.1126/sciadv.abd3575



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 古川 善博 (ふるかわ よしひろ)
電話:022-795-3453
E-mail:furukawa[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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