東北大学 大学院理学研究科・理学部

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沈み込む含水プレートにおける無水カンラン石の存在 ~深発地震とプレートの大変形解明へ新たな糸口~

研究成果のポイント

● 沈み込む湿ったプレート内部の条件下では、「水が含水鉱物に吸い取られ、カンラン石には全く含まれない」という、従来の常識とは正反対の結果を得ました。

● 湿ったプレート内部でも乾燥したカンラン石が存在し、その相転移(注1)によって、深発地震が起こることが判明しました。これは、深発地震が存在することが、プレートに水が含まれない証拠という従来の定説を覆す実験結果です。

● 沈み込んだプレートの温度上昇によって含水鉱物が分解して流体水が生じ、プレートの大変形の原因になり得ることを示しました。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

プレートの主要鉱物である無水のカンラン石の相転移が、深発地震やプレート大変形の原因と考えられています。その一方で、プレートは水を地球深部へ運んでおり、湿ったプレート内に無水カンラン石が存在することには矛盾があるとされていました。北京高圧科学研究センターの石井貴之研究員(研究当時:ドイツバイロイト大学バイエルン地球科学研究所)と東北大学の大谷栄治名誉教授(理学研究科地学専攻)は、高温高圧実験によって水を含み沈み込むプレート内部の条件を再現することで、カンラン石の含水量を決定し、「含水鉱物が水を吸収し、共存するカンラン石には水が全く含まれないこと」を明らかにしました。これは、水が優先的にカンラン石に含まれ、その溶解度を超えた時に含水鉱物が生成するという従来の定説を覆す実験結果です。また、これにより湿ったプレート内でも深発地震が起こり、プレートの大変形も起こり得ることが明らかになりました。

本研究成果は、日本時間2021年5月25日午前0時(英国時間:2021年5月24日午後16時)公開のNature Geoscience誌に掲載されました。



詳細な説明

地球は深さ約30 kmの地殻、深さ2900 kmまでのマントル、中心の深さ6400 kmまでの核の3つの領域からできています。マントルは深さ410kmまでの上部マントル、410 kmから660 kmまでのマントル遷移層、660 km以深の下部マントルに区分されます(図1)。カンラン石は、上部マントルの主要構成鉱物で、平均的なマントルにおいては深さ410 kmでウォズレアイトという高密度の鉱物へと相転移します。私たちの住む地表(地殻)は、何枚ものプレートが張り合わさって構成されています。プレートは、マントルに比べ非常に硬く、マントルの上に浮いた状態にあり、マントルの流れによって、ゆっくりと移動しています。移動しながら、プレートは海水によって長い時間をかけて冷やされ重くなり、マントルへと沈み込んでいます。このプレートの沈み込みによって、地震や火山噴火など私たちの生活に大きな影響を与える地質現象が起こっています。

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図1:沈み込むプレート内部構造・ダイナミクスの新しいモデル


沈み込む冷たいプレートの環境下では、相転移を引き起こすために必要な熱エネルギーが十分ではなく、相転移が起こる深さを超えてもカンラン石として存在することが知られています。このようなカンラン石を準安定カンラン石と呼んでいます。準安定カンラン石は、深さ約410 km以深のプレート内部(図1の黄色の部分)に存在すると考えられており、深さ660 kmまでに発生する深発地震(注2)はこの準安定カンラン石の相転移によって引き起こされていると考えられています。カンラン石は、最大約1%の水をその結晶中にため込むことができることがわかっています(図2)。この少量の水でさえもカンラン石のウオズリアイトへの相転移を促進し、準安定カンラン石の生成を妨げます。その為、プレート内部に準安定カンラン石が存在し、その相転移によって深発地震が発生することは、プレートはほとんど無水である強い証拠であると考えられてきました。一方で、プレートはカンラン石中の不純物として、また主成分の一つとして構造中に水を含む含水鉱物として、地球深部へ水をと運んでいると考えられています。これまでの研究結果をまとめると、"湿った(水を含む)"プレート内で "乾燥した(水を含まない)"カンラン石が存在するという一見矛盾した結論が得られていました。

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図2:カンラン石の含水量の温度変化


カンラン石はプレートの主要構成鉱物であるため、カンラン石の性質がプレートの変形挙動を決定します。カンラン石が水を含むと、カンラン石自体が柔らかくなり、プレートも柔らかくなります。このように、カンラン石の含水量は、深発地震やプレートの大変形に大きな影響を与えます。

カンラン石が水を含むことは、高温高圧実験(注3)を通して明らかにされてきました。これまでのカンラン石の含水化実験は、プレート内部よりも高温で、水が流体水としてカンラン石と共に存在する条件で行われてきました。しかし、沈み込むプレート内では、これまでの実験温度よりも低温であるため、流体水ではなく含水鉱物がカンラン石と共存していると考えられています。その為、プレート内部の水の分布は共存するカンラン石と含水鉱物の間の水の保有しやすさ(水の分配)で決まります。これまで、「水は優先的にカンラン石に含まれ、その溶解度を超えた時に、含水鉱物が生成する」と考えられてきました。しかし、これを実際に決定した例はありませんでした。この研究は、このような従来の「定説を覆す」結果を明らかにしたものです。

北京高圧科学研究センターの石井貴之研究員(研究当時:ドイツバイロイト大学バイエルン地球科学研究所)と東北大学の大谷栄治名誉教授(理学研究科地学専攻)は、高温高圧実験によって湿ったプレート内部を再現して、主要含水鉱物の一つである含水A相(注4)と共存する条件で合成したカンラン石の含水量を決定しました。その結果、これまでの予想に反して、カンラン石は、含水量が1万分の1%以下であり、水をほとんど含まないことが明らかになりました(図2)。この結果から、湿ったプレート内でも無水カンラン石が存在し、無水の準安定カンラン石の相転移によって深発地震の発生が説明できることがわかりました。また、深さ660 km周辺で生じているプレートの大変形と滞留も、準安定カンラン石の相転移や温まってゆくプレート内で含水鉱物の脱水分解により生じた流体水によるカンラン石の軟化が原因になることが判りました。

この実験結果は、含水鉱物が水を地球深部に運ぶために重要な役割を果たすばかりではなく、プレート内で生じる深発地震の発生やプレートの大変形の原因にもなっていることを示唆しています。また、含水鉱物の脱水は、これまで深発地震より浅い地震を引き起こす原因の一つと考えられてきましたが、本研究結果は、準安定カンラン石の相転移で説明できない660 kmより深い深発地震の原因にもなり得ることを示唆しています。この研究結果は、深発地震の発生やマントル深部の大変形など、プレートの振る舞いの完全な理解のための重要な糸口となることが期待されます。



謝辞

この研究は、日独教育研究協力の一環として行われたものです。日本学術振興会(JP15H05748 and JP20H00187)、ドイツ科学財団、フンボルト財団に感謝します。



用語解説

(注1)相転移
結晶を構成する原子は規則正しく配列しているが、圧力・温度が変化すると、全く違った配列に変化することがある。これを相転移と言う。地球を構成する鉱物は、地球深部で様々な相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になる。


(注2)深発地震
地球深部の深さ300 km以深で発生する地震のこと。日本列島直下の沈み込むプレートの内部で特に多く発生し、最大深さ700 kmで観測されている。その発生メカニズムは未だよくわかっていない。


(注3)高温高圧実験
地球内部の高温高圧条件を再現できる装置を用いて、地球内部に存在する鉱物を合成し、その性質を決定する実験のこと。代表的な実験装置として、マルチアンビルプレスとダイヤモンドアンビルセル(DAC)があり、この研究では前者を用いて実験を行った。この装置はプレート内の条件をより精密に再現することが可能である。


(注4)含水A相
地球の深部(上部マントル下部、マントル遷移層など)に存在する高圧で安定な含水鉱物の一つ。地球の深部に水を輸送する重要な鉱物の一つと考えられている。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学名誉教授(理学研究科地学専攻)
大谷 栄治(おおたに えいじ)
E-mail:eohtani[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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