東北大学 大学院理学研究科・理学部

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水星の核はなぜ大きい? 天体の密度の多様性の起源論に新たな説を提唱

研究成果のポイント

● 岩石天体の密度の多様性は、原始太陽由来の磁場が太陽からの距離に応じて減少していたことに起因する、という説を提案した。

● 水星表層の化学組成や、小惑星も含めた太陽系内の岩石天体の密度分布を包括的に説明できるようになった。

● 今後の天体探査との組み合わせにより、天体の金属核の形成進化過程のさらなる理解が期待される。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

太陽系の惑星のうち、水星、金星、地球、火星は、主に岩石から成る「岩石惑星」と呼ばれます。岩石惑星のうち、水星は特に密度が高く、火星は密度が小さいことが知られています。金属と酸化物の密度に基づき、密度が高い惑星ほど金属核が占める質量比が大きいとされてきました。しかし、この密度の多様性の起源はこれまでよくわかっていませんでした。

東北大学大学院理学研究科地学専攻のWilliam F. McDonough教授(メリーランド大学カレッジパーク校 兼務)と、吉崎 昂(研究当時:博士課程後期3年、日本学術振興会特別研究員)は、岩石惑星の化学組成のモデル化と、太陽系の岩石天体の密度の多様性に基づき、これらの天体の密度差は原始太陽由来の磁場によってもたらされたとする説を発表しました。この説によれば、水星表層の化学組成や、小惑星も含めた太陽系内の岩石天体の密度分布など、従来の説では説明できていなかった課題が包括的に説明できます。

地球上で人類が生活できるのは、金属核が生み出す磁場のおかげで有害な宇宙線が地表に到達することが妨げられるためです。すなわち、惑星がハビタブル天体(注1)となるためには、その金属核の大きさや化学組成が重要な役割を果たしているといえます。本研究で提案された説と、将来の探査ミッションによる水星や金属小惑星の観測結果を組み合わせることで、天体の金属核の形成進化過程に関して、さらなる新知見が得られることが期待されます。

本研究成果は、7月2日付でProgress in Earth and Planetary Science誌にてオンライン公開されました。



詳細な説明

太陽系の惑星のうち、水星、金星、地球、火星は、主に岩石から成る「岩石惑星」と呼ばれます。岩石惑星の内部は、中心の金属核の周囲を、酸化物であるマントルや地殻が覆う構造となっています。

岩石惑星のうち、水星は特に密度が高く、火星は密度が小さいことが知られています。金属は酸化物よりも密度が高いため、密度が高い惑星ほど、金属核が占める質量比が大きいとされています。さらに、主に火星と木星の間に分布する小惑星は、岩石惑星の物質に比べさらに密度が低く、少量の金属しか含まないことが知られています。岩石天体間でこのような密度差が生じた理由は、これまでよく分かっていませんでした。

これまで特に注目されてきたのが、水星の高い密度の起源です。従来は、天体衝突により水星表面の岩石層が剥ぎ取られることで、金属核が占める割合が高くなったとする説が支持されていました。その一方で、2010年代初めに行われたアメリカ航空宇宙局(NASA)のMESSENGERミッションによって、水星の表層は、揮発性(注2)の高い元素を含む岩石から成ることが明らかになりました。これらの揮発性元素は、天体衝突によって容易に失われてしまいます。従って、前述した従来の水星形成論を再考する必要性が指摘されていました。

東北大学大学院理学研究科地学専攻のWilliam F. McDonough教授(メリーランド大学カレッジパーク校 兼務)と、吉崎 昂(研究当時:博士課程後期3年、日本学術振興会特別研究員)の研究チームは、岩石天体を構成する物質中で金属が占める割合が、太陽からの距離の関数として減少することを発見しました。太陽系最初期に存在した原始惑星系円盤の中では、原始太陽が発した強い磁場が生じていたことが知られています。この磁場は太陽に近いほど強くなり、また空間磁場が強いほど金属が選択的に天体に取り込まれやすくなることが知られています。これらの知見を踏まえ、本研究チームは、太陽系の岩石天体の密度差が原始太陽磁場によってもたらされたとする説を提案しました。

この説は、水星の高い密度を表層物質の剥ぎ取り過程無しに説明することができるという点で、水星表層の高い揮発性元素量と整合的です。さらに、地球型惑星に加え、小惑星の密度のバリエーションまでを包括的に説明することができます。

天体の金属核の存在は、その天体のハビタビリティ(注1)を保つうえでも重要な役割を果たしています。例えば、地球では、金属核が生み出す磁場によって、有害な宇宙線が表層に届かないため、人類が生活できています。天体磁場を発生させ、それを長期間保つためには、金属核の大きさや化学組成が重要であるため、これらの特徴を決定した要因を知ることは、天体がハビタブルとなる条件を制約することにもつながります。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)が現在共同で進めている水星探査計画BepiColomboミッションや、NASAが計画している金属小惑星の探査計画Psycheミッションなどの観測結果と、本研究で提案された説を組み合わせることで、今後さらに天体の金属核の形成進化過程に関する新知見が得られることが期待されます。

本研究は、米国国立科学財団 (National Science Foundation) グラントEAR1650365、日本学術振興会JSPS科研費 JP18J20708、東北大学環境・地球科学国際共同大学院プログラム、東北大学学際高等研究教育院の助成を受け遂行されました。



論文情報

雑誌名: Progress in Earth and Planetary Science
論文タイトル:Terrestrial planet compositions controlled by accretion disk magnetic field
著者: William F. McDonough and Takashi Yoshizaki
DOI番号:10.1186/s40645-021-00429-4
URL:https://doi.org/10.1186/s40645-021-00429-4



用語説明

(注1)ハビタビリティ、ハビタブル天体
生命の生存可能性。生命の生存が可能な天体のことを、ハビタブル天体と呼ぶ。


(注2)揮発性
物質の蒸発のしやすさ。揮発性が高い物質ほど、固体ではなく気体として安定に存在できる。MESSENGERミッションによって、水星の表層は、カリウムや塩素という揮発性が高い元素に富むことが明らかにされた。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
吉崎 昂(よしざき たかし)
E-mail:tky[at]dc.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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