東北大学 大学院理学研究科・理学部

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宇宙空間で電波を生み出す陽子の集団を発見 ~JAXAの人工衛星「あらせ」の観測と解析から~

本研究科・惑星プラズマ・大気研究センターの笠羽康正教授が、名古屋大・宇宙地球環境研究所の小路真史助教ほか国内外の研究者と進めている共同研究で、JAXA・宇宙科学研究所の科学衛星「あらせ」の観測データから、宇宙空間で電磁波を生み出すイオン(陽子)の集団を検出することに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、2021年6月29日付でNature系学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。詳しくは以下のプレスリリースをご覧ください。
科学衛星「あらせ」は、本研究科・小野高幸名誉教授を始めとするメンバーが中核を担ってきたもので、地球周辺の宇宙空間に広がる高エネルギー電子が蓄積される「バンアレン帯(放射線帯)」の成因を調べ、電子と電磁場を同時観測してその相互作用を解明しつつあります。
本プレスリリースの成果は、笠羽教授が開発の責任を担ったPWE(電場・プラズマ波動観測機)によるものです。本論文開発された手法は、2025年到着を目指して水星に向かいつつある日欧共同BepiColombo探査機、2022年打上を目指して最終試験に向かいつつある欧州木星探査機JUICEに東北大が搭載する電磁場観測装置にも適用されていきます。両探査機には「あらせ」から発展した本学開発の観測装置が搭載されており、将来につながる貴重な成果です。




国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の小路 (しょうじ)真史 特任助教、三好 由純 教授、Lynn M. Kistler (リーン・キスラー)特任教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 浅村 和史 准教授、京都大学の松岡 彩子 教授、東北大学の笠羽 康正 教授、金沢大学の笠原 禎也 教授らの研究グループは、JAXA・宇宙科学研究所の科学衛星「あらせ」注1)の観測データから、宇宙空間で電波を生み出すイオン(陽子)の集団を検出することに世界で初めて成功しました。

これは、本研究グループが開発している新しい解析手法によって実現したもので、イオンの集団が動くことによって、電波の周波数が下げられる様子を直接検出したことで明らかになりました。この発見によって、宇宙空間で自発的に電波が生み出されている仕組みが明らかになりました。

本研究グループが開発した手法は、宇宙空間に存在するイオンによって作り出される電波の発生過程を、観測データを用いて、電波とイオンの運動を詳細に対応づけることで明らかにするもので、2022年打ち上げ予定の欧州、日米の国際共同木星探査ミッション「JUICE」でも活用され、木星系の超高層大気で、イオンが電波を生み出す過程を明らかにしようとしています。このように、宇宙に存在する様々な種類の電波が生まれる仕組みを解明するのに活用されていくことが期待されます。

本研究成果は、2021年6月29日付英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。



ポイント

● ジオスペース注2)のプラズマにおける新しい解析手法の開発
ジオスペースの電波が生まれてくる瞬間を特定することが可能となる。

● ジオスペースの電波の発生場所の特定と発生メカニズムの解明
ジオスペースの電波の一種である「電磁イオンサイクロトロン波動」注3)の発生源の特定とジオスペースのプラズマ分布の観測を新しい手法で解析することによって、発生メカニズムの解明に成功した

□ 東北大学ウェブサイト



研究背景と内容

地球周囲の宇宙空間、ジオスペースに存在する電子と、イオンからなるガス「プラズマ」からは、様々な電波が自然発生しており、プラズマの分布やエネルギーを変えてしまうことが知られています。特に周波数1ヘルツ程度の「電磁イオンサイクロトロン波動」と呼ばれる電波は、放射線(放射線帯の電子)の分布を変えたり、オーロラの発生に寄与したりすると考えられています。この電波が放射される様子は図1に示すような理論的な予想によりプラズマの中から発生すると考えられてきていましたが、これまでの観測では、プラズマの中から電波が発生する瞬間は捉えられていませんでした。

名古屋大学ISEEの小路 真史 特任助教、三好 由純 教授、Lynn M. Kistler特任教授を中心とする国際共同研究グループは、電波とプラズマの位相関係からプラズマ分布の揺らぎを特定し、相互のエネルギー授受を求める新しい解析手法を開発しました。JAXAの科学衛星「あらせ」のデータを、本手法を用いて詳細に分析することによって、図2に示すように「電磁イオンサイクロトロン波動」の周波数が下がる様子を特定することに成功しました。そして、電波が発生しているときには、その場所に存在する陽子群の中に、対称にできた陽子の集団が電波の周波数が変動するに従って非対称な陽子の集団に変化していく様子を発見しました。また、このイオンの固まりの存在によって、イオンのエネルギーが、周波数を降下させる電波を生み出していることを実証しました。

本研究グループが開発した手法は、今後、宇宙プラズマの中で発生している様々な種類の電波の分析に応用されていくことが考えられています。特に、「あらせ」の電子の高時間分解能データに本解析手法を適用することにより、明滅するオーロラを作り出している起源といわれる、周波数数千ヘルツの電波「ホイッスラー波動・コーラス」注4)が生まれる様子が解明されることが期待されています。


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図1:地球周囲の宇宙空間であるジオスペースにおける電波「電磁イオンサイクロトロン波」発生の様子。図右の上は周波数が下がる電磁イオンサイクロトロン波との共鳴の様子、下は周波数が変わらない電磁イオンサイクロトロン波が発生した時の陽子との共鳴の様子を示す。どちらも密度の不均一(山)が観測されるが、周波数が一定の場合から降下するものに変化した時、山が位相角(図中波動磁場Bwと粒子の山のなす角度)の小さい方に移動することが示唆されている。


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図2:上の図は、「あらせ」衛星で観測された電波「電磁イオンサイクロトロン波」の磁場の強さの時間変化を、下の図は「あらせ」衛星による宇宙空間の陽子の観測の時間変化を示す。縦軸に図1に示した波との位相角度を表す。色で陽子の数の多さを示し、各時刻の最大値を点で示している。点線で示した、電波の周波数が下がる時間前後から位相角度が中心(180度)付近から小さい値に移る様子を示しており、図1における陽子の密度の山の移動に対応している。



成果の意義

宇宙空間には多種多様な電波が自然に発生しており、そこに存在する電子やイオンに様々な影響を及ぼすことが知られています。科学衛星「あらせ」に搭載されている、イオン観測機器「LEPi」と波動観測器「PWE」、磁場観測器「MGF」のデータを組み合わせて解析することにより、宇宙空間で、電波「電磁イオンサイクロトロン波」が数キロ電子ボルトのエネルギーを持つ陽子により発生する瞬間を捉えました。これまで理論的に存在が予想されていた、電波の影響によって生まれる陽子の固まりの存在を実証し、短時間での動きが周波数の変調を引き起こしていることを明らかにしました。自発的に周波数が変調する電波は宇宙プラズマに多く存在しており、特に電子が生み出していると考えられている「ホイッスラーモード・コーラス放射」と呼ばれる電波放射現象は、明滅するオーロラとの関連が注目されています。本研究で開発された手法は、今後これらの電波と宇宙空間に存在する電子・イオン環境と結果的に起きるオーロラなどの地球への影響を明らかにする上で役立つと期待されます。



用語説明

注1)科学衛星 「あらせ」
JAXA・宇宙科学研究所が2016年12月にイプシロンロケットで打上げた人工衛星。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。


注2)ジオスペース
高さ400kmから約10万kmの間の宇宙空間には、プラズマ(電気を帯びた粒子群)が存在している。このプラズマの分布が変化することにより、オーロラの活動が変化したり、また、宇宙空間の放射線(放射線帯と呼ばれる領域のエネルギーの高い粒子群)が変化したりする。


注3)電磁イオンサイクロトロン波動
宇宙空間で自然発生する電波の一種。宇宙空間に存在する高温イオンの磁力線周りの旋回運動と共鳴することでエネルギーを得て発生すると考えられており、地球周辺では1ヘルツ程度の周波数を持つ。


注4)ホイッスラー波動・コーラス
「コーラス」とも呼ばれる宇宙空間に自然に存在する、電子の旋回運動と共鳴する電波の一種。周波数が数キロヘルツの可聴帯の電波で、第一次世界大戦のころから、"小鳥のさえずり"にように聞こえる電波として知られている。



論文情報

雑誌名: Scientific Reports(Nature Research)
論文タイトル:Discovery of proton hill in the phase space during interactions between ions and electromagnetic ion cyclotron waves
著者:
小路 真史     名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任助教
三好 由純     名古屋大学宇宙地球環境研究所  教授
Lynn M. Kistler  名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任教授
          ニューハンプシャー大学  教授
浅村 和史     宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所  准教授
松岡 彩子     京都大学地磁気世界資料解析センター  教授
笠羽 康正     東北大学大学院理学研究科
          惑星プラズマ・大気研究センター  教授
松田 昇也     宇宙航空研究開発機構  特任助教
笠原 禎也     金沢大学学術メディア創成センター  教授
篠原 育      宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所  准教授
DOI: 10.1038/s41598-021-92541-0 



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院 理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター
教授 笠羽 康正(かさば やすまさ)
TEL:022-795-6734
E-mail:kasaba[at]pparc.gp.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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