東北大学 大学院理学研究科・理学部

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スノーボールアース後に真正細菌、その後、真核生物繁栄 6億5〜3千万年前のスノーボールアースに微量の光合成生物

発表のポイント

● 動物の初期進化の時代にスノーボールアース(以下、全球凍結)が生物に与えた影響を考察した。

● 堆積岩中の有機分子を分析し、光合成生物、真正細菌、真核生物のダイナミックな盛衰を解明した。

● 全球凍結中には光合成生物が少ないながら存在していた証拠を得た。

● 凍結中に増加した二酸化炭素が異常に高い気温を引き起こし、地球を解氷した後、二酸化炭素が海に吸収される間にバクテリアが増加し、吸収後に真核生物が栄えた。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地球では過去に少なくとも3度、ほぼ地球全体が凍結する「全球凍結」と呼ばれる氷河期があったことがわかっています。これらの時期に大陸氷河の移動によって形成された地層(氷成層)は、当時の赤道域にまで分布しています。典型的な氷成層は炭酸塩岩に覆われていますが、これは大気中に蓄積した二酸化炭素による温室効果によって全球凍結が終了した後に、大気中の二酸化炭素が海で沈殿し形成されたものと考えられています。東北大学大学院理学研究科地学専攻の静谷あてな氏(博士課程後期3年、現:福井県立恐竜博物館研究職員)と海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授)らは、6億5〜3千万年前(注1)の全球凍結―解氷時に形成されたこれらの地層の岩石試料を分析し、全球凍結中にも光合成生物(藻類)が存在した証拠、及び、解氷後に生物量極小を経て真正細菌が増え、その後、真核生物が栄えた証拠を得ました。これらの証拠から、解氷時の異常に高い気温で生物量極小化し、気温が下がる途中で真正細菌が増え、気温が普通の状態になると真核生物が増えたと解釈できます(図)。

本研究の成果は、国際誌「Global and Planetary Change」2021年特集号に掲載されるのに先立ち、8月17日付電子版として掲載されました。



参考図

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図:全球凍結時とその後の地球環境と生物の変化。黒矢印は時間変化を示す。複数の大陸が衝突してひとつになった超大陸発達時には、CO2放出量が減少し氷期になる。氷が海表面を覆い、CO2が吸収されなくなり、大気中CO2濃度が上昇することで全球凍結後の解氷は起きる。赤字は今回の発見。©海保邦夫



詳細な説明

地球は、その46億年の歴史において氷床がある時期(氷室期)と氷床がない時期(温室期)を繰り返してきました。その中で、まれに、地球全体が氷に覆われる「全球凍結」が起きたことが分かっています。この全球凍結は、24億年前と7〜6億年前に起こり、後者の凍結は2回起きています。

氷室期に発達する大陸氷河は、移動に伴って岩盤を削り込み、底面に石(礫)を取り込みます。氷河の先端が海洋に達すると、底面の石は海底の泥に落ち、石を含む泥岩が形成されます。これが当時低緯度(注2)だった場所の地層から発見されると、それが全球凍結の証拠となります。陸から遠ざかるほど堆積物の粒子は細かくなるので、普通は、礫は遠洋の堆積物には含まれませんが、氷山が運ぶ場合には、遠洋の堆積物にも礫が含まれることになります。河川の堆積物は砂の中に礫が入りますが、氷山が礫を海へ運ぶ場合は、氷が陸から遠く離れてから礫を落とすので泥に礫が含まれます。

海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授)の研究グループは2011年に中国地質大学(武漢)の教授(著者のひとり)と共に中国の三峡ダム付近の6億5千万年前から5億4千万年前の地層を調査し、岩石試料を採取しました。2015年以降、東北大学大学院理学研究科地学専攻の静谷あてな氏(博士課程後期3年、現:福井県立恐竜博物館研究職員)は海保教授と共に、6億5〜3千万年前の岩石試料中の堆積有機分子(注3)を分析し、光合成生物・真正細菌・真核生物に特徴的な堆積有機分子の量比を算出しました。

地層表面近くは、植物土壌や排気ガスにより有機分子的に汚染されることがあるため、堆積有機分子の分析は、地層を掘って採取された岩石試料に対して行っています。堆積当時以外の有機分子の混在がないかを確認し、堆積当時の有機分子と判断されるデータのみを使用して上記(概要)の結論を導きました。

海保邦夫教授のコメント「地球の生物は真正細菌から古細菌、そして真核生物へと進化してきました。8〜7億年前に真核生物の中から多細胞動物が現れ、それは海綿動物から刺胞動物(イソギンチャク、クラゲなど)へ、そして左右相称動物(節足動物、軟体動物、脊椎動物など)へと進化しました。本研究で扱った時代は、左右相称動物の大進化時代(カンブリア爆発)の一つ前の時代で、まさに動物の進化の時代です。その進化と全球凍結の関係は未解明ですが、本成果が全球凍結と動物の進化の関係を解明する重要な鍵になるかもしれません。」



論文情報

雑誌名: Global and Planetary Change
論文タイトル: Marine biomass changes during and after the Neoproterozoic Marinoan global glaciation
著者:Atena Shizuya, Kunio Kaiho*, Jinnan Tong (*責任著者)
DOI番号:10.1016/j.gloplacha.2021.103610
URL:https://doi.org/10.1016/j.gloplacha.2021.103610
https://authors.elsevier.com/a/1db3d3HcE1fblc どなたでも、ここから無料で論文を入手できます(ただし、10月5日まで)。



注釈・用語説明

(注1)
今回研究した時代はクリオジェニアン紀からエディアカラ紀初期の時代。

(注2)
方位磁石と同じ原理で、堆積物中の鉄粒子が堆積した時の地球の磁場方向(磁北)に向き固定される。堆積岩を採取する際に、地層の走行(水平面との交線の方位)と傾斜を堆積岩とノートに記入し、実験室の機械で鉄粒子の向きを測る。地層と鉄粒子の向きの角度が緯度になる。

(注3)堆積有機分子
生物が死後に堆積物中に残す有機分子や燃焼と熟成などにより非生物介在で堆積物中に生成する有機分子の総称。前者は、安定な形に変化して保存されることが多い。粉末化した堆積岩から有機溶媒で抽出し、濃縮、種類分け後、質量分析器にその試料を入れて分子レベルで定量する。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学名誉教授(元 理学研究科地学専攻 教授)
海保 邦夫(かいほ くにお)
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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