東北大学 大学院理学研究科・理学部

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大地震によって誘発される火山噴火 火山噴火が誘発されるメカニズムと噴火発生頻度を提示

発表のポイント

● 地震と火山噴火について、信頼性の高い世界規模のデータベースを解析し、大地震による火山噴火の誘発メカニズムを明らかにした。

● 大地震発生の応力解放によって膨張を受ける火山では、マグマ内の気泡成長などによりマグマ上昇が促され、噴火が発生しやすくなることを示した。

● 誘発メカニズムの一つとして考えられていた強震動は、それだけでは火山噴火を誘発するとは言えないことを明らかにした。

● 0.5μ(マイクロ、マイクロは10の-6乗) strain以上の膨張場となる火山では、大地震の発生から10年ほどの間は火山噴火の発生頻度が2-3倍高まることを示した。

● 大地震が発生した際には周辺火山の歪み場を計算することで、誘発される火山噴火に備えることができる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

大地震が発生すると火山噴火が誘発されることはよく知られていますが、その発生メカニズムは不明でした。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻西村太志教授は、地震と火山噴火について、信頼性の高い世界規模のデータベースを解析することにより、火山噴火が誘発されるのは、大地震の応力解放により0.5μ strain以上の膨張場となる火山であること、噴火の発生頻度は大地震発生後10年ほどの間、2-3倍高まることを世界で初めて示しました。この解析結果は、大地震が発生した際に火山体が受ける歪み場を計算することにより噴火が誘発される可能性のある火山を把握し、火山災害の発生に備えることができることを示しています。

本研究成果は、2021年8月26日に、Scientific Reportsに掲載されました。



詳細な説明

1707年の宝永地震(M8クラス)の発生から49日後に富士山が噴火したり(宝永噴火)、フィリピンではM7.8ルソン地震の約1年後に20世紀最大の噴火といわれる1991年ピナツボ噴火が発生したりしたように、大地震が発生すると近くの火山が噴火することはよく知られていました。このように大地震が火山噴火を誘発するのは、大地震によって強く揺すられ、断層の応力解放に伴い火山体が膨張あるいは圧縮を受けることにより、地下のマグマや火道に変化が生じるためと考えられてきました。しかし、その主要因は明らかでなく、誘発メカニズムは長年議論の対象となってきました。そこで本研究は、信頼性の高い世界規模のデータベースを用いて、強震動の大きさや応力解放に伴う静的歪み場の内、どの要因によって火山噴火が誘発されているのかを調べました。

地震のデータは、1976年から世界規模の地震観測によって整備された、信頼性の高いGlobal CMTカタログを利用しました。火山噴火の誘発を調べるため、大地震発生前後10年間の噴火記録(米国スミスソニアン博物館Global Volcanism Programによる)を抽出し、35年間(1976-2010年)の地震データおよび55年間(1966-2020年)の火山噴火データを解析しました。なお、漏れなく記録されている、マグニチュード6以上の地震、火山爆発指数(VEI)(注1)が2以上の中規模以上の噴火のみを解析対象としました。

大地震により励起される強震動の大きさは、地震のマグニチュードと火山までの距離などから求められている経験式で求められます。また、地震波の通過後も残る静的歪み場(注2)は、地震のメカニズム解をもとにして理論的に計算することができます(図1)。


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図1:大地震の発生による静的応力場。赤青色のコンターは静的歪み量(μのオーダ)で、赤色は膨張場、青色は収縮場を示す。赤と白からなる丸印は震源球で、地震のメカニズム解を示す。黄色三角の印は活動的火山、茶色三角は地震後に噴火した火山を示す。


そこで、それぞれの大地震に対して、周辺の火山が受けた強震動の大きさや静的歪み場の大きさを条件として火山噴火のデータを分類します。さらに、それぞれの大地震の発生した時間をゼロとして、±10年間の噴火発生数を調べました(図2)。その結果、静的収縮場になった場合や強い強震動を受けた場合には顕著な噴火数の変化は見られないことがわかりました。一方、静的な歪み場が0.5μ strain以上の膨張場になった場合には、大地震の発生後の約10年間、噴火の発生数が増えることがわかりました。噴火の発生数は、大地震の前の約2-3倍になります。膨張場となった火山で噴火数が増えたのは、気泡成長によってマグマが浮力を獲得する、あるいは、火道の閉塞が緩むことにより、マグマ上昇が起き易くなったためと推察されました。


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図2:大地震の発生前後10年間の噴火発生数(-10年からの積算数)。大地震によって生じる静的歪み量や強震動の条件毎に噴火の発生数が異なるため、比較しやすいように大地震が発生した時間(ゼロ)での積算数で規格化してある。e は静的歪み量(μのオーダで表記)で、正は膨張場、負は圧縮場を示す。強震動の大きさはPGV(Peak Ground Velocity、最大地動速度)で示す。それぞれの場合分けの右側の数字は、噴火の発生総数を示す。(a)静的歪み場による違い(全火山を対象)。(b) 静的歪み場による違い(噴火発生頻度の高い火山を除いた場合)。(c)強震動による違い(0.5μ strain以上の静的歪み場)。(d)強震動による違い(0.5μ strain未満の静的歪み場)。(a)(b)に見られるように、静的歪み場が0.5μ strain以上の場合(赤色・橙色)に大地震発生後にグラフの傾きが大きくなる、つまり噴火発生数が多くなる。


火山の噴火履歴を調べた結果、噴火を頻繁に起こしている火山の方が誘発されやすい傾向があるものの、静穏期の長い火山でも噴火が誘発されていることがわかりました。また、大地震により静的歪みが0.5μ strain以上の膨張場となるのは、世界で年間2-3火山であり、そのうちの15-25%で VEI 2以上の噴火が発生すると見積られました。この数はそれほど大きくありませんが、VEI 1の小規模な噴火の発生頻度はVEI2の約7倍であるので、大地震の発生により噴火が発生する可能性は、この見積もりよりは大きくなると指摘しました。



謝辞

コロンビア大学によるGlobal CMT地震データカタログおよびスミスソニアン博物館(米国)のGlobal Volcanism Programの火山噴火データベースを利用しました。本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第二次)」および「次世代火山研究・人材育成総合プログラム」、東北大学「災害科学世界トップレベル研究拠点」の支援を受けました。



語句説明

(注1)火山爆発指数(VEI; Volcanic Explosivity Index)
火山噴火の規模を示す指数のひとつで、噴煙高度や噴出物量などから決められる。概ね、VEI1は小規模噴火、2-3は中規模噴火、4-5は大規模噴火、5以上は巨大噴火噴火と言われる。20世紀最大の噴火といわれるピナツボ山1991年の噴火はVEI6、2014年御嶽山噴火はVEI2クラス。

(注2)静的歪み場
大地震が発生した際に、地震波が通過した後にも残る歪みを、静的歪みと呼ぶ。一方、地震動のような短周期の揺れは動的歪みと呼ばれる。



論文情報

雑誌名: Scientific Reports
タイトル:Volcanic eruptions are triggered in static dilatational strain fields generated by large earthquakes
著者 :Takeshi Nishimura
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-021-96756-z
URL:www.nature.com/articles/s41598-021-96756-z



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻
教授 西村太志(にしむらたけし)
電話:022-795-6531
E-mail:takeshi.nishimura.d2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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