東北大学 大学院理学研究科・理学部

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地球の内核の構造を解明 ~異なる結晶構造をもつ二種の鉄合金の混合物からなる地球の内核~

発表のポイント

● 地球の核の条件での高温高圧実験によって、鉄-ニッケル-シリコン(Fe-Ni-Si)合金の相平衡関係を明らかにし、この合金の融点付近の高温領域においてB2構造(注1)と六方最密充填(Hcp)構造(注2)という二つの結晶構造が共存することを初めて解明した。

● 異なる化学組成を持つB2構造とHcp構造の二種の結晶構造のFe-Ni-Si合金の混合物により、地球の内核の密度と地震波速度が説明可能となった。

● これまで指摘されてきた遅い横波速度、低い粘性率(注3)などの内核の特徴も、この二種類の結晶構造を持つFe-Ni-Si合金の混合物からなる内核モデルによって説明が可能になる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地球内核の構造と物質は、地球科学にとって未解明な最重要課題の一つです。東北大学大学院理学研究科の生田大穣博士、大谷栄治名誉教授、高輝度光科学研究センターの平尾直久主幹研究員は、大型放射光施設SPring-8(注4)のBL10XUにおける世界最高輝度の放射光X線(注4)とダイヤモンドアンビルセル(注5)を用いた地球核の条件での高温高圧実験によって、Fe-Ni-Si合金の相平衡関係を明らかにしました。そしてこの合金の融点付近の高温高圧下においてB2構造とHcp構造という二つの結晶構造が共存する領域が存在することを解明しました。この実験から、地震波観測で明らかになっている内核の密度と縦波速度は、B2とHcp構造の二種の結晶構造をもつFe-Ni-Si合金の混合物で説明できることがわかりました。また、これまで指摘されてきた遅い横波速度、低い粘性率などの内核の特徴がこの二種の結晶構造を持つFe-Ni-Si合金の混合物よって説明出来る可能性があることを示しました。本研究成果は、日本時間2021年10月28日午後6時(英国時間:2021年10月28日午前10時)公開のCommunications Earth & Environment誌に掲載されました。



詳細な説明

地球の内核は、ニッケルを5-10 wt%含むと考えられるが、内核の温度圧力において鉄-ニッケル合金よりも5%程軽いため、鉄およびニッケルより軽い元素を含んでいると考えられています。この研究では、内核の軽元素として最も有力なシリコンの影響を高温高圧相平衡実験によって明らかにしました。その結果、この合金の融点付近の高温高圧条件においてB2構造とHcp構造という二つの結晶構造が共存する領域が存在することを解明しました(図1)。そして、Hcp構造を持つ合金はシリコンの濃度が低く、B2構造を持つ合金はシリコンに富んでいることも明らかにしました。さらに、今回の高温高圧実験により、これらの合金の高温高圧下での体積変化を決定しました。

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図1:a-cは今回明らかにしたFe-7wt%Ni、Fe-7wt%Ni-5wt%Si、Fe-7wt%Ni-9wt%Siの合金の相平衡図。a-cのように、低温領域(青色の◆印)ではHcp構造の一種類の合金のみが存在するが、高温領域(黄色の〇印)では、B2構造とHcp構造の二種類の合金が共存する。

以上の実験結果に基づいて、地震波速度の解析から得られる内核の密度と縦波速度を説明するHcp構造とB2構造の合金のシリコンの濃度、二種類の合金の存在割合を決定しました(図2)。

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図2:内核の密度と縦波速度は約6 wt%のシリコンを含み、シリコン量の少ないHcp構造の合金と、シリコン量の多いB2構造の合金からなる混合物で説明出来る。


最近の地震学研究によると、内核は極めて遅い横波速度、低い粘性率、縦波速度の異方性などの特徴的な性質を持つと報告されています。このような内核の性質は、これまで予想されているHcp構造の一種類の合金では説明が不可能でした。しかしながら、内核がHcp構造とB2構造の二種類の合金の混合物からなる場合には、これらの共存する二種類の合金の相互作用によって、このような特徴的な性質を説明出来る可能性があることが明らかになりました。



謝辞

この研究は、日本学術振興会の科学研究費(JP15H05748、JP20H00187)によって支援されました。また、高温高圧実験は高輝度光科学研究センターのSPring-8の実験課題(2017B1514、2018A1447、2018B1500)によって行われた。日本学術振興会および高輝度光科学研究センターの支援に感謝します。



論文情報

雑誌名: Communications Earth & Environment
論文タイトル:Two-phase mixture of iron-nickel-silicon alloys in the Earth's inner core
著者:Daijo Ikuta, Eiji Ohtani, Naohisa Hirao
DOI番号:10.1038/s43247-021-00298-1
URL:https://doi.org/10.1038/s43247-021-00298-1



用語説明

(注1) B2構造
下図aに示すように、体心立方の原子配列を持つ構造の亜種。組成が複数の原子からなる場合に体心位置(赤丸)に異なる原子が配置される構造である。

(注2) Hcp構造
下図bに示すように、原子が最も密に配列する構造の一種。

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(注3) 粘性率
物質の粘りの度合いを示す係数。一般に水飴のような流体が持つ性質であるが、氷からなる氷河のように、固体においても長時間力を受けると流動する。地球の自転の解析に基づいて、固体の内核の粘性率は氷河の粘性率よりも小さい(柔らかい)と推定されている。

(注4) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが利用者支援等を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光とは、光速に近い速度まで電子を加速し、その進行方向を電磁石によって曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことである。SPring-8ではこの放射光を用い、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

(注5) ダイヤモンドアンビルセル
ダイヤモンドを用いた高圧発生装置。最も固い物質とされるダイヤモンドのアンビルで試料を挟み込むことで高圧を発生させる。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学名誉教授(理学研究科地学専攻)
大谷 栄治(おおたに えいじ)
E-mail:eohtani[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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