東北大学 大学院理学研究科・理学部

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世界初!統一シミュレーションにより、 木星や土星などの「巨大ガス惑星」の形成過程を解明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の小林 浩 助教は、国立大学法人東北大学大学院理学研究科の田中 秀和 教授との共同研究で、世界で初めて、0.1ミクロンサイズのダスト注1)から1万kmサイズの惑星までの成長過程を、惑星形成の母体となる原始惑星系円盤注2)全体(地球から太陽の距離の100倍程度の大きさ)で取り扱う、精密かつ統一的な計算機シミュレーションにより解明しました。この統一シミュレーションにより、長年の謎であった、太陽系の木星や土星のような「巨大ガス惑星注3)」の形成の道筋を新たに発見しました。

惑星系の中で最も重い巨大ガス惑星は、他の惑星の環境にも影響を与えます。巨大ガス惑星形成の道筋が明らかになったことで、地球の環境形成にも示唆が与えられるとともに、太陽系外惑星注4)系において、生命を育む惑星(ハビタブル惑星)の形成についても議論ができるようになりました。

本研究は、太陽系の惑星だけでなく、系外惑星も含めたハビタブル惑星起源の全容解明につながることが期待されます。

本研究成果は、2021年11月17日午前1時(日本時間)付アメリカ天文学会雑誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。

本研究は、平成30年度から始まった新学術領域「星・惑星形成」の支援のもとで行われたものです。

□ 東北大学ウェブサイト



ポイント

● 惑星の形成現場である原始惑星系円盤の全体での、0.1ミクロンサイズのダストから1万kmサイズに及ぶ惑星までの、天体の衝突成長過程を追う統一的な計算機シミュレーションを世界で初めて行った。

● 木星のような巨大ガス惑星は、他の恒星の周りにも普遍的に存在することが分かってきたが、これらの形成をうまく説明できる理論モデルはこれまでなかった。最も大きな問題は、巨大ガス惑星がガス集積を起こすことができる、地球質量の10倍程度の巨大な固体核注5)の形成に時間がかかりすぎ、固体核は十分に大きくなる前に中心星に落下してしまうことであった。本研究の統一的なシミュレーションにより、指摘されてきた困難が全て解決された。

● 本研究により、形成後の木星が周りに残る氷微惑星注6)を散乱し、どれほどの氷微惑星が地球に持ち込まれて「海」になるかという議論が可能になった。そして、太陽系以外の惑星系でも、巨大ガス惑星形成により、生命を育む「ハビタブル惑星」の出現に及ぼす影響について示唆が与えられた。



研究背景と内容

太陽系のような惑星系は、原始惑星系円盤の中で形成されます。惑星系の母体である原始惑星系円盤は、数多く詳細に観測されています。一方、太陽系以外の惑星(系外惑星)も数多く発見されていますが、原始惑星系円盤の中でどのように惑星が形成されるのかは不明でした。

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図1:惑星形成の概念図


原始惑星系円盤は、太陽のような恒星が形成される時に副産物として星の周りに形成されます。この原始惑星系円盤の中で、惑星は形成されていきます(図1)。最初は非常に小さな0.1ミクロンサイズのダストと呼ばれる微粒子が、衝突・合体注7)をくり返して大きくなっていきます。その過程で、大きなダストともいえる小石のような天体となり、小惑星のような大きさの微惑星、そして、惑星と同等な質量の原始惑星(図1では固体核として表示)にまで、ずっと衝突をくり返して成長していきます。原始惑星の質量が、地球質量の10倍程度になると、強い重力により急速に大量のガスを集積します。このように重い原始惑星は、巨大ガス惑星の固体核となり、大量のガスを集めて巨大ガス惑星は形成されます。惑星系の中で最も大きい惑星は、この巨大ガス惑星で、太陽系の木星や土星も巨大ガス惑星です。木星は地球の300倍程の質量ですが、ほとんどの質量が水素やヘリウムのガスです。しかし、上述のようにガスが直接集まったのではなく、氷や岩石からなる大きな固体核が作られることで巨大ガス惑星は形成され、この固体核形成に致命的な困難が指摘されていました。つまり、惑星の「王様」である巨大ガス惑星の形成過程が明らかになっておらず、他の惑星形成過程まで不明瞭にしていました。

ガス集積を起こせるほど大きくなるために成長中の固体核は、周りの原始惑星系円盤との重力相互作用により、角運動量を失い、らせん軌道を描き中心星に少しずつ落下していきます。実は、固体核が落下してしまう時間は、固体核がガス集積を起こすほど十分に大きくなる時間に比べて、ずっと短く(10倍以上)、そのため固体核は十分に大きくなる前に、中心星に落下してしまいます。これが巨大ガス惑星形成の大問題でした。一方、太陽系外惑星の軌道は、惑星が中心星に向かい落下したことを示唆しており、惑星落下問題は避けては通れない課題でした。

これまでの固体核の成長を調べる研究では、微惑星がまず形成され、微惑星の群れの中から1つずつ固体核が形成され、固体核が残りの微惑星を集積して成長すると考えられてきました。この成長過程では、先述のように成長時間が長すぎ、固体核は落下してしまいます(図2中心、微惑星集積モデル)。近年、微惑星よりもずっと小さい小石サイズの天体を集積することで固体集積時間を短くして、巨大ガス惑星形成を成し遂げる試みがなされてきました。原始惑星系円盤の遠方で、小石サイズまで成長した天体が、ガス抵抗により内側に移動しますので、円盤の外側から固体核のある内側に小石が移動してきて、付近を移動中の小石を固体核が集積すると言うモデルです。このモデルは、多くの研究者に注目され調べられてきました。その結果、固体核は落下しながら成長し、ぎりぎりで巨大ガス惑星になれる可能性が示唆されました。しかし、このモデルにも致命的な問題がありました。小石サイズの天体のほとんどは、固体核に集積されずに落下してしまい、原始惑星系円盤の中のすべての固体質量が小石として固体核付近を移動しても、材料が足りなくなって巨大ガス惑星を作る固体核にまで成長できませんでした(図2右、小石集積モデル)。これらの従来のモデルの問題は、微惑星と固体核、または、小石と固体核など、限られた天体に限定して扱っていたことです。実際の惑星形成では、図1に示したような40桁以上の質量進化が起こるため、この質量進化を正確に取り扱うことが必要でした。一方で、この途方もない質量進化を取り扱うことは非常に難しいため、従来のモデルの問題も仕方がないことでした。

本研究では、ダストから固体核がガス集積を起こすまでの衝突成長過程を、統一的に取り扱うことができるシミュレーション法を開発しました。数学的な正確性を担保して、それぞれのサイズでの必要な物理を過不足なく取り扱うこと、そして最新のコンピュータを効率よく使用することで、このような膨大なシミュレーションが可能になりました。このシミュレーションは、これまでのダストだけ、微惑星だけを取り扱ったシミュレーションと同等な精度で計算可能とし、ダストから惑星まで広い質量進化が取り扱えます。そのため、真の惑星形成統一シミュレーションと言えるものを構築することができました。

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図2:惑星形成モデルの比較


統一的なシミュレーションが可能になったことで、現在の土星軌道(大体10天文単位注8))の内側(太陽から近い距離)では、微惑星集積モデルで予測されていたように、微惑星がまず形成されます。まず、この微惑星群を集積して固体核が成長していきました。一方で、小石集積モデルで考えたように、中心星から離れた円盤外側で形成された小石は、円盤内側に移動してきます。しかし、小石集積モデルでは予測していませんでしたが、移動してきた小石は円盤の内側で微惑星へと成長し、小石を無駄にすることなく大量の微惑星が形成されます。そして、この微惑星群を集積することによって、急速に固体核が形成されます。固体核の微惑星集積は非常に早いため、大問題だった惑星移動が起きる前にガス集積を起こす固体核へと成長しました(図3)。そして、結果として巨大ガス惑星は木星軌道の少しだけ外側(太陽からの距離が少し遠い位置)で形成されました。太陽系では、海王星がかなり外側に移動したことが示唆されています。その反作用で木星も少し内側に移動したと見積もられています。このことから、シミュレーションで得られた巨大ガス惑星の軌道は現在の木星軌道の少しだけ外側で、木星形成としては上々の結果が得られたことになります。

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図3:本研究のシミュレーションの結果


このシミュレーションの結果を概念図にしたのが図4です。今回、木星の位置に巨大ガス惑星を作ることができたのは必然でした。移動してくる小石が微惑星へと成長するのは現在の土星のような位置です。その結果、大量の微惑星が作られるのは、現在の木星と土星の軌道に挟まれる領域になりました。また、同じ量の微惑星群があるならば、中心星に近い方が固体核の成長は速くなります。この2つの効果により、非常に自然に太陽系の木星の位置に巨大ガス惑星が形成されます(図4)。また、太陽系外惑星では巨大ガス惑星の多くがもう少し内側に分布していますが、固体成分が少ない原始惑星系円盤でシミュレーションすると、系外惑星のような巨大ガス惑星の軌道が説明できました。

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図4:新しい惑星形成の概念図



成果の意義

1995年に初めて太陽系外惑星が発見されてから、多くの惑星系が発見されました。最初は、そのほとんどが太陽系と軌道分布が異なる惑星系でした。一方で、理論的に予測されていた惑星移動が一般的に起こっていて、避けることができない問題であることを決定づけました。その後、20年以上にわたって、惑星移動のせいで巨大ガス惑星が形成できないという大問題は解決されませんでした。本研究で行った統一シミュレーションにより、大問題である惑星移動よりも早く巨大ガス惑星形成を可能にすることで、これらの大問題を解決することができました。

また、惑星系の「王様」である巨大ガス惑星が形成されることは、地球の生命を育む環境を作ることに多大な影響を及ぼします。木星の形成後に木星付近の氷微惑星が地球軌道にまで散乱されて、氷微惑星が地球に取り込まれ地球の海が作られたと考えられています。生命を育むことができる「ハビタブル惑星」を議論する上で「海」の形成は非常に重要です。本研究により、巨大ガス惑星の形成後に氷微惑星がどれくらい生き残ることができるか、さらに氷微惑星がどれくらい地球のような惑星に運ばれて海の形成に寄与するかということもわかります。そのため、本研究では巨大ガス惑星形成について調べましたが、「ハビタブル惑星」の形成条件にもつながっていくのです。

惑星形成の初期状態である原始惑星系円盤と、終状態である系外惑星は、天文観測により多くのサンプルがもたらされました。しかし、これまでは惑星形成過程が明らかでなかったため、直接的に結びつけて議論することが困難でした。今までの研究では、原始惑星系円盤ではダストの成長が主に考えられ、一方、系外惑星の形成では原始惑星の成長にだけ注目されて議論されてきました。本研究の結果をもとに原始惑星系円盤と系外惑星を理論的に結びつけて議論することで、惑星形成過程の理解や検証が進んでいくでしょう。



用語説明

注1) ダスト
星が形成される時、原始惑星系円盤に持ち込まれる。最初は0.1ミクロン程度の大きさであり、付着成長をくり返し「ぶどうの房」のような形状で大きくなる(図1参照)。

注2) 原始惑星系円盤
星形成過程で星の周りに作られる円盤。大きさは地球と太陽の距離(天文単位)の100倍ほど。この円盤の中で惑星は作られる。

注3) 巨大ガス惑星
木星や土星のような惑星。主に水素やヘリウムのガスで構成されるが、まず地球の10倍ほどの重い固体核が形成され、それがガスを大量に集積して形成される。

注4) 太陽系外惑星(もしくは、系外惑星)
太陽以外の恒星の周りを公転する惑星のことである。すでに5000個以上の系外惑星が発見されている。

注5) 固体核
木星や土星のような巨大ガス惑星の固体核。この固体核が地球質量の10倍程に大きくなるとガス集積が急速に起こり、巨大ガス惑星になる。一方、原始惑星系円盤のガスが晴れ上がるとガスを集積することができず、この固体核の生き残りは天王星や海王星のような惑星になると考えられている。

注6) 微惑星
惑星を作った材料。現在の小惑星や彗星のような大きさの天体。

注7) 衝突・合体(衝突進化)
惑星形成過程で固体天体同士が衝突を起こし合体することで起こる。ダストのような小さな天体は物質的な力により付着するが、微惑星のような大きな天体は重力で引き合って合体する。この過程を過不足なく考慮することが重要である。

注8) 天文単位
距離の単位で、地球と太陽の距離が1天文単位である。



論文情報

雑誌名:The Astrophysical Journal
論文タイトル:Rapid formation of Gas Giant Planets via Collisional Coagulation from Dust Grains to Planetary Cores
著者:小林浩(名古屋大学)、田中秀和(東北大学)
DOI:10.3847/1538-4357/ac289c



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
教授 田中 秀和(たなか ひでかず)
電話:022-795-6504
E-mail:hidekazu[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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