東北大学 大学院理学研究科・理学部

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現在進行中の海洋酸性化がサンゴ礁の 大型底生有孔虫(ホシズナの仲間)の脅威に

発表のポイント

● 大気中二酸化炭素濃度の急増による海洋酸性化による影響を評価するため,サンゴ礁に生息する大型底生有孔虫(ホシズナの仲間)を異なる海水pHで飼育した.

● 酸性化による海水のpH低下に伴い,大型底生有孔虫の炭酸カルシウムの殻の体積(量)だけでなく殻密度(質)までも低下した.

● 今後,海洋酸性化や地球温暖化がさらに進行した場合,熱帯サンゴ礁域の炭酸塩の生産性に重大な影響を及ぼす可能性が高い.



概要

近年の大気中の二酸化炭素濃度の増加により,海水の酸性度(pH)が低下する,海洋酸性化が差し迫った環境問題の一つになっています.海洋酸性化により,多くの海洋生物が影響を受けることが報告されていますが,サンゴ礁に生息する大型底生有孔虫(ホシズナの仲間)の殻形成率の低下の詳しい影響についてはこれまで不明でした.東北大学学術資源研究センターの黒柳あずみ助教らの研究グループは,将来の海洋酸性化が大型底生有孔虫の炭酸カルシウムの殻の体積(量)だけでなく殻密度(質)までも低下させることを発見しました.本研究の成果は,将来の熱帯サンゴ礁生態系および炭素循環への影響の評価に寄与することが期待されます.



詳細な説明

人為起源の二酸化炭素増加により,温暖化や気候の激甚化(台風や干ばつの強度と頻度が増加)など,人間社会への様々な影響が指摘されています.その一つに,海水の酸性度(pH)が低下する,海洋酸性化があります.国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書では,地球上の気温が産業革命前より2℃上昇するとサンゴ礁の99%が消滅するとありますが,サンゴ礁に生息する大型底生有孔虫(ホシズナやその仲間)への影響も懸念されています.

東北大学学術資源研究センターの黒柳あずみ助教らの研究グループは,マイクロフォーカスX線CTを使って,大気中の二酸化炭素が増えることによる海洋の酸性化で,大型底生有孔虫の炭酸カルシウムの殻の体積(量)だけでなく殻密度(質)までも低下させることを発見しました(図).これまで,海洋の酸性化により,海洋生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作りにくくなることは知られていましたが,その詳しい影響については今まで不明でした.本研究により,人間活動による二酸化炭素排出がこのままのペースで継続した場合,比較的海洋酸性化の影響を受けにくいと考えられていたサンゴ礁域の星砂にまで重大な影響を及ぼす可能性を示しました.

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図1:海水のpHが低下すると,大型底生有孔虫のAmphisorus kudakajimensis(和名:ゼニイシ)の殻の大きさ(上段)や殻の厚さ(中段)だけでなく,殻の密度(下段:濃い青になるほど低密度)も変化する.



論文情報

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル:Decrease in volume and density of foraminiferal shells with progressing ocean acidification
著者:  黒柳 あずみ(東北大学 学術資源研究センター 助教)*
     入江 貴文 (東京大学 大気海洋研究所 助教)
     木下 峻一 (国立科学博物館 研究員)
     川幡 穂高 (東京大学 大気海洋研究所 名誉教授)
     鈴木 淳  (産業技術総合研究所 グループ長)
     西 弘嗣  (福井県立大 恐竜学研究所 教授)
     佐々木 理 (東北大学 学術資源研究センター 准教授)
     高嶋 礼詩 (東北大学 学術資源研究センター 教授)
     藤田 和彦 (琉球大学 理学部 教授)
     *は研究代表者
DOI番号: 10.1038/s41598-021-99427-1
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-99427-1
公開日: 2021年10月7日



問い合わせ先

東北大学学術資源研究公開センター
東北大学総合学術博物館
助教 黒柳 あずみ(くろやなぎ あずみ)
電話:022-795-6771
E-mail:a-kuroyanagi[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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