東北大学 大学院理学研究科・理学部

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「超多点」民間GNSS観測網による地殻変動モニタリング 携帯電話事業者が運用するGNSS観測網の地球科学への応用

発表のポイント

● ソフトバンク株式会社が運用する独自の超多点GNSS(注1)観測網(全国3,300点超)によって地殻変動の様子をこれまでにない高い空間分解能および十分な精度で把握できることを初めて実証した。

● 大きな地震の震源像の把握や、内陸活断層における地震発生の長期評価等、防災・減災に大きく貢献することが今後期待できる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地震や火山活動にともなう地殻変動を高い精度で把握することは、現象の理解のみならず、それらの発生予測を実現する上で非常に重要です。日本では国土地理院が運用するGNSS観測網 (電子基準点、全国1,300点超)により、高い精度で地殻変動場(注2)が調べられています。その一方で、2019年11月以降、ソフトバンク株式会社により、測位サービスの高度化を目的とした超多点(全国3,300点超)の独自GNSS観測網(以下、ソフトバンク独自基準点)の運用が開始されました。

東北大学大学院理学研究科の太田雄策准教授および北海道大学大学院理学研究院の大園真子准教授は、ソフトバンク独自基準点により、国土地理院の電子基準点網とおおよそ同等の精度で地殻変動を把握できることを初めて定量的に明らかにしました。この結果は、同観測網が大きな地震の震源像の把握や内陸活断層における地震発生の長期評価の高度化などに貢献しうることを示す重要な結果であり、国土地理院の電子基準点を補完する重要なインフラとして防災・減災に大きく貢献することが期待できるものです。

この研究成果は2022年2月9日に国際学術誌 Earth, Planets and Space にオンライン掲載されました。



詳細な説明

地震や火山活動にともなう地殻変動を高い精度で把握することは、現象の理解のみならず、それらの発生予測を実現する上で非常に重要です。日本では国土地理院が運用するGNSS観測網(電子基準点(GEONET)、全国1,300点超)によって高い精度で地殻変動場が調べられています。一方、2019年11月以降、ソフトバンク株式会社による測位サービスの高度化を目的とした超多点 (全国3,300点超)の独自GNSS観測網(ソフトバンク独自基準点)の運用が開始されました。しかし、測位サービスを目的とした同観測網の地殻変動を始めとした地球科学用途に活用するための精度検証はこれまでに実施されていませんでした。

本研究では、ソフトバンク独自基準点によるGNSS観測データの提供を受け解析を行うことで、同観測網による地殻変動場の把握のための精度検証を実施しました。評価は長期的な地殻変動場(宮城県、2020年9月〜2021年3月を対象)および地震にともなう地殻変動場(2021年2月13日 福島沖地震(M7.3)を対象)の二種類を対象として実施しました。図1に宮城県内における2020年9月〜2021年3月の水平・上下地殻変動場を示します。同図を見ると、青丸で示すソフトバンク独自基準点と赤丸で示す国土地理院の電子基準点が調和的な変動を示していることが明らかです。また図2に2021年2月13日 福島沖地震(M7.3)にともなう地震時水平変動場を示します。福島県の沿岸を中心として西南西の2cm程度の水平変動が確認され、ソフトバンク独自基準点が長期的な地殻変動だけではなく、地震時変位も正確に捉えられることが明らかになりました。

これらの成果は、観測網が大きな地震の震源像の把握や内陸活断層におけるひずみ蓄積の推定による地震発生の長期評価の高度化に貢献しうることを示す重要な結果であり、国土地理院の電子基準点を補完する重要なインフラとして防災・減災に大きく貢献することが期待できるものです。さらに、GNSSは地殻変動現象だけではなく、対流圏内の水蒸気量の把握等、幅広い地球科学分野での活用が進んでおり、ソフトバンク独自基準点はそれら分野へ大きなインパクトを与えることもあわせて期待されます。

本研究はJST 創発的研究支援事業、JPMJFR202Pおよび、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」、ならびに東京大学地震研究所共同利用 特定共同研究(B)(2020-B-03)の支援を受けたものです。



用語説明

(注1)GNSS(Global Navigation Satellite System)全地球測位システム
上空を周回するGNSSから送信される電波を利用して、受信点の位置を正確に把握するためのシステム。地面に固定された受信点であれば、時間間隔をおいて計測することでその間に生じた地殻変動を三次元的に把握することができる。

(注2)地殻変動場
ある地点や領域の地殻(地面)がどの方向にどの程度動いているかを示したもの。GNSSを用いることで、日毎やそれよりも短い時間間隔で変動を調べることができる。



論文情報

雑誌名: Earth, Planets and Space
論文タイトル:Potential for crustal deformation monitoring using a dense cell phone carrier global navigation satellite system network
著者:Yusaku Ohta and Mako Ohzono
DOI番号:10.1186/s40623-022-01585-7
URL:https://doi.org/10.1186/s40623-022-01585-7



参考図

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図1:2020年9月〜2021年3月の宮城県内における地殻変動場。(a) 水平変動であり、矢印で変動の向きと大きさを示す。 (b) 上下変動場であり、上向きの棒線が隆起、下向きの棒線が沈降を示す。赤丸が国土地理院 電子基準点、青丸がソフトバンク独自基準点をそれぞれ示す。青丸と赤丸が調和的な変動を示している。

20220210_20.png

図2:2021年2月13日に発生した福島沖地震にともなう水平地殻変動場。赤丸が国土地理院 電子基準点、青丸がソフトバンク独自基準点をそれぞれ示す。福島県の沿岸を中心として西南西の2cm程度の水平変動が確認され、ソフトバンク独自基準点が長期的な地殻変動だけではなく、地震時変位も正確に捉えられることを明らかにした。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
附属地震・噴火予知研究観測センター
准教授 太田雄策(おおた ゆうさく)
電話:022-225-1950
E-mail:yusaku.ohta.d2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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