東北大学 大学院理学研究科・理学部

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世界最古のベレムナイト化石を発見 従来の進化・拡散過程を一新させる世界的成果

発表のポイント

● 中生代を代表する海生動物化石のひとつである、ベレムナイト(矢石)の新属・新種(Tohokubelus takaizumii)を宮城県南三陸町歌津地域の下部三畳系大沢層から発見しました。

● 従来ベレムナイトの出現は後期三畳紀初期(約2億3千500万年前)と考えられていましたが、大沢層は約2億4千800万年前の地層で、今回の化石は世界最古のベレムナイトです。

● 今回の発見から、ベレムナイト目は、前期三畳紀に当時の大洋パンサラッサ海西端の低緯度地域に出現し、次いでその生息範囲を、パンサラッサ海から西方に向かう赤道海流によってテチス海域へと広げ、ジュラ紀にヨーロッパに到達したと考えられます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

広島大学大学院先進理工系科学研究科 児子修司(にこしゅうじ)博士と東北大学総合学術博物館永廣昌之(えひろまさゆき)協力研究員(東北大学名誉教授)の研究チームは、宮城県南三陸町歌津地域の下部三畳系大沢層から発見された化石が、世界最古のベレムナイト化石Tohokubelus takaizumii(新属・新種)であることを明らかにしました。

ベレムナイト類(頭足綱 鞘形亜綱 ベレムナイト目)は、中生代を代表する海生動物化石のひとつで、従来その出現は後期三畳紀の初期と考えられていました。今回の発見はそれを1千万年余さかのぼらせるもので世界最古のベレムナイトです。これはベレムナイトの発生や拡散過程を考える上で大変重要な成果です。

この研究成果は、2022年4月1日発行の日本古生物学会の国際学術誌「Paleontological Research」において発表されます。



詳細な説明

南部北上帯に属する、宮城県歌津地域に分布する下部三畳系大沢層の泥岩から産したベレムナイト類化石を新属・新種のTohokubelus takaizumii Niko and Ehiro(トウホクベルス・タカイズミイ:Tohokubelus takaizumii が種名、Niko and Ehiroが命名者)として記載(注)・公表しました(図1、図2)。

新属名Tohokubelusは、東北地方、地質学的には東北日本、の「東北」に由来します。また、種小名のtakaizumiiは新属新種のホロタイプ標本の採集者である高泉幸浩氏に献名したものです。

新属Tohokubelus は、鞘(rostrum)の背面にタテ方向の1本の溝があることで特徴づけられ、Sinobelemnitidae科に含まれると考えられます。Sinobelemnitidae科には、これまで2つの属、Sinobelemnites Zhu and Bian、 1984(南中国の上部三畳系および南三陸の最下部ジュラ系から産する)と Sichuanobelus Zhu and Bian、 1984(南中国の上部三畳系産)が知られていました。これらのうち、新属Tohokubelus は、Sichuanobelus に類似しますが、Sichuanobelus 属は円錐形でやや扁平な横断面をしめすこと、および背面の溝がTohokubelus。に比べて浅いことで異なります。また、Sinobelemnites 属は表面に条線をもつ点で明瞭に区別されます。


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図1:下部三畳系大沢層産ベレムナイト Tohokubelus takaizumii。鞘と房錐の先端部が保存されている。(写真:東北大学総合学術博物館)

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図2:ベレムナイトの構造(前甲~鞘部分は断面図)と各部の名称(図:東北大学総合学術博物館)


大沢層は、世界最古の魚竜化石のひとつであるウタツサウルス(Utatsusaurus hataii)を産することで知られていますが、同層は共産するアンモノイド化石から、前期三畳紀オレネキアン期後期(およそ2億5千万年前~2億4千700万年前)の地層であることがわかっています。ベレムナイト類(ベレムナイト目)は中生代を代表する頭足類の仲間で、その最初の出現は従来後期三畳紀初期のカーニアン期(およそ2億3千500万年前~2億2千500万年前)とされていました。したがって、大沢層からのベレムナイトの発見は、その生存期間の下限を1千万年以上さかのぼらせるもので、ベレムナイト類の発生や拡散過程を考える上で重要です(図3)。

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図3:頭足類の分類と生存期間
ベレムナイトの発生はこれまで後期三畳紀であったが、今回の発見で前期三畳紀まで遡った(赤色部分)(図:東北大学総合学術博物館)


中国の後期三畳紀のベレムナイトや歌津地域の初期ジュラ紀の大型のベレムナイトなどの産出記録をあわせて考えると、ベレムナイト目は、前期三畳紀に、当時の大洋パンサラッサ海最西端の低緯度地域に最初に出現し、次いでその生息範囲を、パンサラッサ海から西方に向かう赤道海流によって、テチス海域へと広げ、ヨーロッパに到達したと考えられます(図4)。

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図4:三畳紀の大陸配置と三畳紀-初期ジュラ紀ベレムナイトの産出地域(図:東北大学総合学術博物館)


ヨーロッパの研究者たちは、ベレムナイトは初期ジュラ紀にヨーロッパ地域にあらわれ、その後世界の海に広がって行ったと考え、中国産後期三畳紀ベレムナイトは疑問視されたり、半ば無視されたりしてきました。北海道大学の伊庭靖弘博士らの研究グループは、南三陸の初期ジュラ紀の地層から多様なベレムナイト化石を報告するとともに、中国の後期三畳紀ベレムナイトを再検討し、ベレムナイトの発生が三畳紀にさかのぼること、ベレムナイトの起源が東アジアに求められる可能性が大きいと主張しました(Iba et al., 2012)。 今回の南三陸の下部三畳系からのベレムナイトの発見は、ベレムナイトの発生が前期三畳紀までさかのぼることを明らかにするとともに、ベレムナイトの起源が東アジアにあった可能性をますます確実にしました。

大沢層からは、魚竜やアンモノイドのほか、日本で唯一の嚢頭類化石や日本最古のエビ化石などの産出も知られていて、わが国の三畳紀の古生物研究において極めて重要な地層で、今後も新たな発見が期待されています。

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図5:南三陸地域の地質略図とベレムナイトの産地(南三陸町歌津平成の森)(図:東北大学総合学術博物館)

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図6:南三陸地域の地質層序とベレムナイト化石の産出層準(下部三畳系大沢層上部)(図:東北大学総合学術博物館)



語句説明

(注)記載
「記載」とは、「学術記載」のことで、標本(群)にもとづき、その標本(群)の特徴を述べ(記載し)、必要であれば他の種との比較検討を行うことを言います。新種や新属を提唱する(新種や新属であるとの考えを他の研究者に公表する)際はもちろん、既存の種に同定する(ある種と同種であると認定する)際にも、適切な学術誌に必要な事項(標本のサイズ、形態、他の種と区別される特徴など)を記述し、必要な資料(図や写真)を添付する必要があり、そのような行為を「記載」と呼びます。正式な記載行為がないと、新種の提唱は「無効」となります。(「国際動物命名規約」で定められています)



論文情報

雑誌名: Paleontological Research, vol. 26, no. 2, 2022.
論文タイトル:Tohokubelus gen. nov., the oldest belemnite from the Olenekian (Lower Triassic) of Northeast Japan. vol. 26, no. 2.
著者:Niko, Shuji and Ehiro, Msasayuki
児子修司(広島大学総合科学部)・永廣昌之(東北大学総合学術博物館)
DOI番号:10.2517/PR200036



その他

ミニ企画展「南三陸で発見された世界最古のベレムナイト化石」の開催:
上記の世界最古のベレムナイトTohokubelus takaizumii に関するミニ企画展示を4月1日から、東北大学総合学術博物館(理学部標本館)で実施しています。
東北大学総合学術博物館:http://www.museum.tohoku.ac.jp/



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学総合学術博物館
協力研究員(東北大学名誉教授)
永廣 昌之(えひろ まさゆき)
電話:022-795-3177
E-mail:masayuki.ehiro.d4[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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