東北大学 大学院理学研究科・理学部

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ナノ磁石で発現する磁気の渦を光で検出 電気と磁気を結びつける機能を持つ、室温動作ナノデバイスの開発に期待

発表のポイント

● 数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルの大きさの微小な磁石(ナノ磁石注1))の中に、電気と磁気を結びつける機能を持つ磁気の渦を実現

● 光の波長が変換される現象を利用して、磁気の渦を非破壊・非接触で直接検出する手法を開拓

● 室温動作する新規ナノデバイスの開発や、物質科学の諸分野にまたがる最先端物質の機能解明に期待

□ 東北大学ウェブサイト

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図1:研究の概念図
数百ナノメートルの大きさのナノ磁石の中に実現された磁気の渦を、光の波長が変換される非線形光学効果を利用して非破壊・非接触で検出する。



概要

近年、電子が持つ小さな磁気の性質(スピン注2))を積極的に利用するスピントロニクス技術が、低消費電力・高密度なデバイス実現の観点から注目を集めています。この磁気が特殊な配列をするとき、物質中で電気と磁気を結びつける機能が発現することが知られていますが、そのような磁気の配列は室温よりもはるかに低い温度でしか起こらないことが多く、また、それを自然物質で実現する確実な方法論が存在しないという問題がありました。

今回、東北大学大学院理学研究科の松原正和准教授らは、ナノテクノロジーを用い作製した数百ナノメートルの大きさのナノ磁石の中に、電気と磁気を結びつける機能を持つ磁気の渦を実現し、光の波長が変換される非線形光学効果注3)を利用して、磁気の渦を非破壊・非接触で直接検出する手法を開拓しました(図1)。この成果は、室温動作する新規ナノデバイスの開発に新たな道を拓くだけでなく、磁気を組み込んだサブ波長人工物質(磁性メタマテリアル注4))を用いた新しい光-電気-磁気融合変換技術の開拓など、物質科学の諸分野にまたがる最先端物質の機能解明や新機能の創出への貢献が期待されます。

本研究成果は、2022年4月20日(米国時間)発行の米国科学雑誌「Applied Physics Letters」に掲載されました。



詳細な説明

背景

物質の構成要素の1つである電子は、マイナス符号の電荷を持っているだけでなく、小さな磁気の性質(スピン)を持っています。この磁気が、時間反転対称性注5)と空間反転対称性注6)を同時に破る特殊な配列をするとき、物質中で電気と磁気を結びつける電気磁気交差相関機能注7)が発現します。この機能を利用すると、高密度・低消費電力なデバイスの実現や革新的なエレクトロニクスの創成が期待されているため、現在、そのような特性を持つ磁気秩序の研究が世界中で行われています。しかしながら、そのような磁気配列は室温よりも低い温度でしか起こらないことが多く、また、磁場が外部に漏れにくいため検出が簡単ではないという問題があり、そのため、そのような特殊な磁気配列"そのもの"を直接的に検出・評価する新しい手法の開拓が求められていました。


研究内容

今回、松原准教授らは、ナノテクノロジーを用いることで、ニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合金であるパーマロイ(NiFe)のナノ磁石を作製し、その中に電気と磁気を結びつける機能を持つ磁気の渦を実現しました。ナノ磁石は、形状や大きさ、配列などを自由に設計することができ、それにより、特殊な磁気配列を室温で系統的かつ精密に制御することができます。また、小さな磁場で容易に磁石の性質を変えることができるため、新規な磁気配列を実現する舞台として注目されています。これまでに、正三角形の形状のナノ磁石を用いると、外部磁場により磁気の渦の方向制御が可能であることが知られていました。今回、磁気シミュレーションにより磁気の渦の振る舞いを定性的に評価する手法を開発し、磁場ゼロ付近で磁気の渦が実現すること、また、磁場を掃引する方向を逆にすると渦の向きも反転することを確かめました(図2)。

研究グループは、ナノ磁石の中に実現される磁気の渦を直接的に検出するために、非線形光学効果の一種である光第二高調波発生注8)(SHG)を用いた高感度検出システムを構築しました。SHGは、物質の対称性に敏感な性質を持つ、入射した光の半分の波長の光が生じる現象です。今回作製したナノ磁石および磁気の渦の対称性を考えると、左回りの円偏光注9)を照射すると波長が半分になった右回りの円偏光が生じることが予想されましたが、実際その原理を利用して磁気の渦を検出することに成功しました(図3)。さらに、磁気の渦を反転すると、SHG強度に明瞭な違いが生じることが分かり、これにより方向までをも含めた磁気の渦の非破壊・非接触な直接検出の基礎原理を確立しました。

今回得られた結果は、特殊な磁気配列を磁気シミュレーションにより予測し、それをナノテクノロジーにより実現、さらに、光により直接検出することでその詳細を明らかにでき、従来の物質合成手法とは異なるアプローチによる電気磁気交差相関機能の精密制御や室温動作に新たな道を拓くものです。


今後の展開

電気と磁気を結びつける、時間反転対称性と空間反転対称性を同時に破る磁気配列は、今回対象とした磁気の渦(磁気トロイダル双極子とも呼ぶ)の他、磁気単極子や磁気四極子と呼ばれるものが知られています(図3)。今回得られた結果は、このような機能的磁気秩序をナノテクノロジーにより人工的に実現することで、その秩序が持つ基本的な物理法則の解明と、それに基づく新しい機能を開拓するためのモデルとなりうるものです。さらに、磁気を利用した光の波長変換技術の開発や、磁気を組み込んだサブ波長人工物質(磁性メタマテリアル)を用いた新しい光-電気-磁気融合変換技術など、物質科学の諸分野にまたがる最先端物質の機能解明や新機能の創出が期待されます。


付記

本研究は、東北大学大学院理学研究科の関根大輝さん(博士課程後期)の博士論文研究および佐藤佳史さん(当時博士課程前期)の修士論文研究の一環として行われたものです。本研究を遂行するにあたり、東北大学高等研究機構先端スピントロニクス研究開発センター(CSIS)、スピントロニクス国際共同大学院(GP-Spin)の支援を受けました。また、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金・基盤研究(A)[課題番号:21H04649]および若手研究(A)[課題番号:17H04844]などの助成を受けて行われました。



論文情報

雑誌名:Applied Physics Letters
論文タイトル:Nonlinear optical detection of mesoscopic magnetic toroidal dipoles 著者:Daiki Sekine, Yoshifumi Sato, and Masakazu Matsubara
DOI番号:10.1063/5.0089235
URL:https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/5.0089235



用語解説

注1)ナノ磁石(ナノ磁性体)
数~数百ナノメートルの大きさの磁石(磁性体)をナノ磁石(ナノ磁性体)と呼ぶ。近年の微細加工技術の進展により、任意の大きさや形状を持つナノ磁石をある程度自由に作製できるようになっている。

注2)(電子)スピン
電子が持つ自転のような性質で、電子スピンは磁気(微小な磁石)を帯びている。電子スピンは物質の磁性の源である。

注3)非線形光学効果
物質に強い光を照射したときに起きる、光と物質の非線形な(光の電磁場強度に比例しない)相互作用に由来した光応答のこと。入射光強度の2乗、3乗、・・・に比例する光学効果を、それぞれ2次、3次、・・・の非線形光学効果と呼ぶ。

注4)メタマテリアル
自然界の物質では不可能な光応答を可能とする、光(電磁波)の波長よりも小さな構造を持つサブ波長人工物質のこと。メタマテリアルを使うと、例えば、負の屈折、完全レンズ、クローキング(透明マント)など、これまで不可能だった新しい技術の開発が期待されている。

注5)時間反転対称性
時間の流れを逆転させるような操作を時間反転操作と呼び、そのような操作を行っても状態が変化しないとき、時間反転対称性があると呼ぶ。

注6)空間反転対称性
空間座標の符号を反転するような操作のことを空間反転操作と呼び、そのような操作を行っても状態が変化しないとき、空間反転対称性があると呼ぶ。

注7)交差相関機能(または交差相関物性または電気磁気効果)
一見すると自明でない物理量が入出力として関係する機能を交差相関機能と呼ぶ。例えば、通常の、電場(磁場)による誘電性(磁性)の制御と異なり、電場(磁場)による磁性(誘電性)の制御は電気磁気効果として知られ、代表的な交差相関機能の1つである。

注8)光第二高調波発生
非線形光学効果の一種で、光を物質に照射したときに、元の光の半分の波長の光が出射される現象を光第二高調波発生(Optical Second Harmonic Generation: SHG)と呼ぶ。一般に、空間反転対称性が破れた物質で強く観測される。

注9)偏光
光は電磁場の振動が空間を伝わる波であり、この振動方向が揃ったものを偏光と呼ぶ。振動方向の軌跡が直線のものを直線偏光、円のものを円偏光と呼ぶ。



添付資料

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図2:磁場による磁気の渦の制御と光第二高調波発生を用いた検出
(a) 磁気シミュレーションを用いた、ナノ磁石で実現される磁気の渦の定性的な見積もり。磁場を掃引する向きの違いにより、磁場ゼロ付近で反対向きの磁気の渦が実現される。(b) 光第二高調波発生(SHG)を用いた磁気の渦の検出。左回りの円偏光が、波長が半分になった右回りの円偏光に変換される。磁気の渦の向きの違いを反映して、SHG強度に差が見られる。


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図3:電気と磁気を結びつける磁気配列の例
(a) 磁気トロイダル双極子(磁気の渦)。 (b) 磁気単極子。 (c) 磁気四極子。これらはどれも、時間反転操作あるいは空間反転操作により、元と異なる状態になる。すなわち、時間反転対称性と空間反転対称性をともに破っている。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
准教授 松原 正和(まつばら まさかず)[web
電話:022-795-6421
E-mail:m-matsubara[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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