東北大学 大学院理学研究科・理学部

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高層大気に見られる夜光雲の形成メカニズムを解明
~新しい理論モデルを用いて夜光雲の形成メカニズムを特定~

ポイント

● 中間圏(高層大気)に観測される夜光雲の形成メカニズムを新しい理論モデルを用いて解明。

● 水蒸気から雪や雨の核が形成する基本的なプロセスの理解に寄与する成果。

● 地球外の惑星大気の雲の生成予測にも適用可能。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

北海道大学低温科学研究所の木村勇気准教授,東北大学大学院理学研究科の田中今日子客員研究員,ノルウェーのトロムソ大学のイングリッド・マン教授は, 中間圏*1に観測される夜光雲*2の形成メカニズムを新しい理論モデルを用いて解明しました。

中間圏では,高度80-90kmの低温度の領域(マイナス130度以下)で夜光雲が頻繁に観測されていますが, これまで中間圏での氷粒子の生成を説明するために2つのメカニズムが提案されてきました。本研究では氷粒子の形成過程を新しい理論モデルを用いて調べることにより, 形成メカニズムを特定することに成功しました。本研究の手法は汎用性があり,他の惑星大気の雲の生成を考える際にも適用することが可能です。

なお,本研究成果は,2022年4月28日(木)公開のAtmospheric Chemistry and Physics誌に掲載されました。

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北海道大学低温科学研究所が紋別市のスカイタワーに設置したカメラで撮影した夜光雲



背景

通常の雲は地上からの高度10km程度までの対流圏で作られますが, 高度80〜90km付近の中間圏でも氷の雲が形成されることがあります。この雲は主に夏の極域地域において日の出前や日没後に見られることから夜光雲と呼ばれています。 夜光雲は半世紀にも及ぶ長い期間にわたって観測されており, 近年は出現頻度が高まっており,地球温暖化との関連が指摘されています。人工衛星による観測では, 温度は110K-140K(マイナス160度からマイナス130度)の領域で形成し, 氷粒子は大きさがわずか数十ナノメートルと考えられています。

水蒸気から氷粒子へと変化する現象は, まずナノサイズの凝縮核を生成する過程から始まる均質核生成*3と, もともと大気に存在する不純物を核として凝縮が進む不均質核生成*4が考えられます。対流圏で作られる通常の雲は雲核*5(エアロゾル)を核とした不均質核生成で作られますが,中間圏ではエアロゾルはほとんど存在しておらず, 均質核生成が起こりやすい急冷現象などが観測されたことから, 蒸気から凝縮核を作る均質核生成が起きると考えられていました。一方, 中間圏の領域は宇宙から降ってくる微隕石*6が蒸発する領域と考えられており, 微隕石が蒸発した後の塵を核として氷の凝縮が進む不均質核生成が起きるとも言われています。 このように, 夜光雲の形成過程には2つの説が考えられており,どちらの氷粒子の生成メカニズムが支配的かは明らかになっていませんでした。


研究手法

研究グループは理論的な手法を用いて夜光雲の生成メカニズムを調べました。先行研究では均質核生成を調べる際に, 古典的核生成理論を用いていましたが, 氷の凝縮核が作られる生成頻度の予測が実験値とは桁で大きく一致しないことが知られており, 不定性が残されていました。そこで本研究では, 核生成実験や分子動力学シミュレーション*7などの数値実験と良く一致する, 半現象モデルと呼ばれるより正確な核生成過程の理論モデルを採用しました。さらに, 均質核生成と不均質核生成のどちらが支配的になるのかについて調べ条件を導き出しました。条件は塵の量や大気の冷却などの環境に依存し, 中間圏に十分な微隕石による塵が存在していれば, 氷は塵の表面に凝縮して不均質核生成が卓越しますが, 塵の数が不足すると均質核生成が起きます。近年の観測データから得られている塵の量や大気環境を用いて中間圏において均質核生成と不均質核生成のどちらが卓越するかについて調べました。


研究成果

2つのメカニズムを理論的に検証した結果, 中間圏では均質核生成は極めて起こりにくいことが明らかになりました。我々の結果は, もし均質核生成が起きた場合, 温度は100K(マイナス170度)以下という非常に低い温度でしか起きないことがわかりました(図1)。この温度は均質核生成が起きた場合の雲の形成温度に対応しますが, 実際の夜光雲の観測とは一致しませんでした。つまり本結果は中間圏では水蒸気からナノサイズの凝縮核が直接作られる均質核生成は起きていないことを示しています。

一方, 均質核生成と不均質核生成のどちらが卓越するのか中間圏での大気の条件と比較した結果, 不均質核生成が中間圏で効果的に行われることが示されました。微隕石の蒸発で作られる塵はこの領域に少量しか存在していませんが, そのわずかな量でも氷粒子が十分成長できることがわかりました(図2)。中間圏に形成される夜光雲は微隕石が蒸発,再凝縮した結果として存在している微小な塵の表面に氷が凝縮することで作られた氷粒子と考えられます。


今後への期待

夜光雲の長期観測から, 近年夜光雲の発生頻度が増加していることが示されており, 地球温暖化の影響と考えられています。 気候変動の長期的な指標となりうる夜光雲の形成メカニズムは重要であり, 本研究は長期的な気候変動の解明に役立つことが期待されます。また蒸気からの凝縮核生成という基本的な問題に寄与する本研究の手法は汎用性があり, 他の天体の雲の生成を考える際にも適用することが可能です。



論文情報

論文名 Formation of ice particles through nucleation in the mesosphere(中間圏の核生成による氷粒子の生成)
著者名 田中今日子1,Ingrid Mann2,木村勇気31東北大学大学院理学研究科,2トロムソ大学,3北海道大学低温科学研究所)
雑誌名 Atmospheric Chemistry and Physics(大気学の専門誌)
DOI 10.5194/acp-22-5639-2022
公表日 2022年4月28日(木)(オンライン公開)



参考図

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図1:徐々に冷却する水蒸気から均質核生成した場合の凝縮核の生成頻度の温度変化。 温度が下がると凝縮核の生成頻度が上昇し, ある温度でピークになる。従来の古典的核生成理論で得られた結果(点線)と比べ, 本研究で得られた結果(赤線)は, 凝縮が100K(マイナス170度)以下の非常に低い温度まで凝縮が起こらないことを示している。


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図2:氷粒子の形成メカニズムは大気に存在する塵の数密度と大気の冷却率に依存する。水色で示された中間圏の条件では不均質核生成が卓越する領域になり, 夜光雲は微隕石が蒸発や再凝縮することにより存在する微小な塵の表面に氷が凝縮することを示す。



用語解説

*1 中間圏
地球大気の高度50-90km付近の領域で, 85km付近の温度が地球上で最も低くなる。

*2 夜光雲
中間圏の高度80-90km付近に作られる雲で主に夏の極域地方で見られる。

*3 均質核生成
相変化の初期に起きる現象で, 蒸気から凝縮核が生成すること。

*4 不均質核生成
もともと存在する不純物を核として相変化が起きること。

*5 雲核
雲粒の核となる微粒子のこと。

*6 微隕石
宇宙から降ってくる微小な隕石のこと。

*7 分子動力学シミュレーション
計算機を用いて分子ひとつひとつの運動を計算すること。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
客員研究員 田中今日子(たなかきょうこ)[web
電話:022-795-6501
E-mail:kktanaka[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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