東北大学 大学院理学研究科・理学部

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A型インフルエンザウイルスRNAと結合して蛍光検出する分子プローブを開発
混ぜて測るウイルス診断を目指して

ポイント

● インフルエンザRNA(注1)の特定構造(プロモーター領域)(注2)に強く選択的に結合する蛍光性分子プローブを開発

● ウイルスRNAと混ぜて即時検出できる診断技術への応用が期待

● 薬剤耐性インフルエンザウイルスにも有効な新規抗ウイルス剤の開発にも有用

□ 東北大学ウェブサイト



概要

A型インフルエンザウイルス(以下、IAV)のRNAプロモーター領域は遺伝子変異による薬剤耐性獲得のリスクが低いため、ウイルス感染診断や抗ウイルス剤開発における重要な標的です。

東北大学大学院理学研究科佐藤雄介准教授、西澤精一教授らのグループは、IAV RNAプロモーター領域に対して、優れた結合能と蛍光応答能を併せ持つ分子プローブ(tFIT-DPQ)の開発に成功しました。tFIT-DPQはインフルエンザウイルス感染細胞から抽出したRNAに添加するのみで蛍光応答を示すため、簡便かつ迅速なIAV診断への応用として期待できます。また、tFIT-DPQの蛍光応答を利用することで、薬剤探索にも用いることができます。

なお,本研究成果は、2022年5月23日(米国東部時間)にアメリカ化学会(ACS)が出版するAnalytical Chemistry誌に掲載されます。



詳細な説明

インフルエンザはインフルエンザウイルスが引き起こす感染症で、そのうちIAVは数年から数十年ごとに大きな大流行(パンデミック)を引き起こします。これまでにも抗インフルエンザウイルス薬が開発されてきましたが、これら既存薬が効きにくい耐性ウイルスが出現しており、新たなインフルエンザウイルス対策技術が重要となってきています。このうち、インフルエンザウイルスが持つゲノムRNAにおいてRNAポリメラーゼによる転写と複製の両方に直接関与する領域(プロモーター領域)は遺伝子変異のリスクが低いため、診断および薬剤における重要な標的として注目されています。

今回、我々の研究グループでは、IAV RNAのプロモーター領域に優れた結合能と蛍光応答能を併せ持つ分子プローブを開発しました。プロモーター領域はインターナルループ構造(注3)と複数のミスマッチ塩基対(注3)を含む二重鎖構造を取ることが知られており(図)、こうした複雑な高次構造を認識するための有効な分子設計はほとんど確立されていません。我々はこれまでに開発を進めてきたRNA二重鎖と三重鎖構造(注4)を形成し蛍光応答を示すThiazole orange(TO)擬塩基含有ペプチド核酸(tFIT)に、インターナルループ構造を認識する小分子(DPQ)を連結させたコンジュゲート型分子(tFIT-DPQ)が生理条件下においてプロモーター領域を強くかつ選択的に認識し、蛍光強度が著しく大きくなることを見出しました。一般に三重鎖形成に基づく分子プローブでは酸性での利用に限定されていますが、今回の分子設計ではDPQ部位をアンカーとして機能させることで中性pHにおいても十分に有用なプローブ機能(解離定数Kd = 107 nM, 83倍の蛍光強度増大)を実現しました。

tFIT-DPQはIAV に感染した細胞から抽出したRNAに対しても有用な蛍光応答を示し、60 ng/mL程度のわずかなRNAがあればIAV インフルエンザ感染の有無を解析することが可能です。この検出感度は過去に報告された分子プローブと比較して2桁も優れたものです。現時点ではPCR法と比べて感度は劣るものの、tFIT-DPQは核酸増幅することなく、ウイルスRNAを含む検体と混ぜて測定するのみで即時診断が行える検査薬としての可能性を秘めています。またtFIT-DPQは、IAV RNAプロモーター領域との結合・解離に基づく大きな蛍光強度変化を示すことから、蛍光指示薬(インジケーター)として利用することで、様々な構造を持つ化合物のプロモーター領域結合能を簡便かつ安価に評価できることを実証しました。

本研究で開発した分子プローブは、今後現れるであろう新型インフルエンザウイルスに対する診断・予防・治療に貢献すると期待されます。



用語解説

(注1) インフルエンザRNA
インフルエンザウイルスに含まれる8本のゲノムRNA。ウイルスタンパク質をコードする領域を含み、メッセンジャーRNAへの転写および相補RNAへの複製のテンプレートとなる。

(注2) プロモーター領域
インフルエンザウイルスが有するRNA依存RNAポリメラーゼが認識する領域。さまざまな変異ウイルスにおいても高度に保存されていることが分かっている。

(注3) インターナルループ構造・ミスマッチ塩基対
非ワトソンクリック塩基対構造の一種。IAV RNAプロモーター領域にはウラシルと2つのアデニンから構成されるインターナルループ構造とC-Aミスマッチ、2個のU-Gミスマッチが存在する。

(注4) 三重鎖形成
核酸二重鎖(ここではRNA)へさらに核酸一本鎖(ここではPNA)が巻き付いて形成する超分子構造。PNAのチミン(T)、シトシン(C)塩基が、RNA二重鎖内のA-U, G-C塩基対とそれぞれ水素結合をすることで形成する。この時形成される塩基対は、ワトソン・クリック塩基対とは水素結合パターンが異なるため、フーグスティーン塩基対と呼ばれ区別されます。



論文情報

Analytical Chemistry
論文タイトル:Fluorescence sensing of the panhandle structure of the influenza A virus RNA promoter by thiazole orange base surrogate-carrying PNA conjugated with small molecule
著者:Yusuke Sato, Hiromasa Miura, Takaaki Tanabe, Chioma Uche Okeke, Kikuchi Akiko, Seiichi Nishizawa
DOI番号:10.1021/acs.analchem.1c05488



参考図

20220523.png

図:(上)tFIT-DPQによるIAV RNAプロモーター領域への結合・蛍光応答 (下)tFIT-DPQの構造式



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻
准教授 佐藤雄介(さとう ゆうすけ)[web
電話:022-795-6551
E-mail:yusuke.sato.a7[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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